NHK受信契約、最高裁の判断 1

最高裁が、NHKとの受信契約の強制を定める放送法の規定は合憲である、との判決を出しました。これについて触れます。

放送法64条1項には「協会(日本放送協会=NHKのこと)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とあり、つまり、普通のテレビを家に置いたら、NHK放送を受信する契約をしなければならない、ということです。これが「憲法に違反しない」と判断されました。

 

さっそく脱線しますが、NHKが受信料を支払わない人を提訴し始めたころから、当ブログでは何度かこのことを取り上げていました。

約6年前のブログ記事では、上記の放送法64条の規定の特殊性について触れています。( 過去の記事 読み返さなくても、このあとお読みいただく上で不都合はありません)

それで、地裁・高裁の判決が出たころ、弁護士ドットコムから何度か電話取材をいただいてネット記事になり、その記事がヤフーニュースのトップの見出しになったことがありました。

そのためか、私がNHKを相手に裁判をやっていると思った方もいるらしく、一時は、電話やメールで「私の弁護もお願いします」的な連絡が何度かありました。

私自身は、当ブログでも申し上げましたが、この件については傍観者にすぎません。NHKはよく見ているほうだと思いますし、受信料くらいは払いますよ、という考えです。ただ、国会が定めた放送法の規定に対し、最高裁はどう言うかという、理論的な興味があって、この事件に触れてきました。

 

上記の放送法の規定の何が問題かというと、誰でも常識的にお分かりだと思いますが、テレビを部屋に置いた、イコールNHKと契約しないといけない、イコールNHKに受信料を払わないといけない、という点にあります。

多少、理論的に言いますと、法律の大原則に「契約自由の原則」という考え方がありまして、これは、我々個人は、誰とどんな契約をするかしないか自由に決めてよく、国家がこれに干渉してはならない、ということです。当たり前すぎて条文に書いていないのですが、自由主義・民主主義国家では異論なく認められています。

そして、契約とは何を持って成立するかというと、互いの当事者が「契約を申込みします」「はいお受けします」という意思表示を合致させることです。意思表示の合致がないと契約は成立しない、というのも、法律家が誰でも認める法律の大原則です。誰しも、要らないものを一方的に売りつけられることはないので、常識的にも当然のことです。

放送法の規定は、この契約自由の原則に反するものではないか。

たとえば「ウチはテレビはWOWOWしか見ないから、WOWOWとだけ契約します」と思ってる人でも「NHKとも契約しなさい」と強制される。しかも、テレビを買ってきて家に置いただけで、NHKと契約しますという意思表示をしなければならない、とされる。

 

NHKから受信料の支払を求められた被告(一般視聴者)側は、こんな規定は憲法違反だと言いました。最高裁の判決文によると、13条、21条、29条違反が争われたそうです。

憲法13条は幸福追求権と言われまして、まあこれは、何にでも使える条文です。

憲法21条は表現の自由で、表現することだけでなく、表現された情報を受けとる自由つまり知る権利も保障しています。

放送法が知る権利の侵害になっているかと言うと、視聴者側の主張内容は正直、よくわかっていないのですが、おそらく、NHKが嫌いで受信料も払いたくないが、放送法がある以上、払いたくないならテレビを家に置かないという選択肢しかなくなる、そうすると他の民放も受信できなくなって、民放の情報を得ることが阻害される、そういうことだと思います。

憲法29条は財産権で、受信料を強制的に支払わされるのは国民の財産権の侵害だ、ということです。

 

これらに対して最高裁は、合憲だ、と言ったわけですが、その判断の枠組みには、特段の目新しいものはありません。

放送法の規定は、公共放送(NHK)と民放の二種類の放送事業者を作って、多様な放送がされるようにしたものである。そして民放は事業者の自主経営に任せる一方、公共放送はその性格上、特定の個人や団体(つまりスポンサー)の影響を受けないようにするため、その財源を広く視聴者に負担してもらうことは、むしろ国民の知る権利を充足するものであって認められる。そういう理屈です。

一見、国民の権利が侵害されているようでも、その制度が必要なものであって合理性のある仕組であれば憲法には違反しない、というのは最高裁が古くから度々用いる論理ですが、ここでもその論法が用いられました。ある程度、予想された結論ではあります。

今回の判決は、この憲法論だけでなく、NHKと視聴者の間には、いつの時点で、何をもって受信契約が成立するのか、という問題にも回答を出したのですが、そのあたりの具体的な話は、次回にします。

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