強制わいせつ罪の判例変更について 3(完)

強制わいせつ罪の成立要件についての最高裁の判例が47年ごしで変更されたという話をしています。

我々弁護士は、法律の解釈については常々判例を参照して、これは適法だとか違法だとかいう判断をしています。ですので、最高裁の判例が度々変更されると、裁判所の判断を信用できなくなる。

なので、最高裁による判例変更はそうそう行われるものではありませんし、だからこそ冒頭に述べたように、法律関係者は判例変更があると、興奮すると言わないまでも、オーッ遂に変わったか、という気持ちになります。

 

で、今回の判例変更ですが、47年ごしで判断を改めたということは、最高裁はこれまで判断を誤っていたのか。

その点、最高裁は、ひとことで言うと「時代の変化だ」と指摘しています。最高裁の判決文は裁判所のホームページにも紹介されており、そのあたりを詳細ながらわかりやすい文章で書いていますので、興味あればご覧ください。(判決文のPDF

最高裁判所は、性的犯罪に関しては「社会の受け止め方を踏まえなければ」その処罰範囲を適切に決めることができない、と述べています。

そして、国内や諸外国における近年の性犯罪の厳罰化といった傾向も踏まえ、「被告人の性的意図」がどうであったかよりは、被害者がどの程度の性的被害を受けたかを重視すべきだ、と述べます。

(法学部生向け注: 故・団藤重光先生の「刑法綱要」などには、ドイツのメツガーが強制わいせつ罪を傾向犯に分類していることの影響で、日本の学説でも内心の性的意図が必要と解されている、との指摘があります。なお団藤先生自身は不要説に立っていました。今回の最高裁の判決文には、昭和45年当時の日本の学説に影響を与えていたドイツでも近時の法改正で構成要件が変更された、との指摘があります。)

 

私も、今回の最高裁の判断が妥当だと考えています。理由は、上記の最高裁の言うことももっともだと思いますし、何より、今回の事件で如実に表われたように、性的意図の有無が争点となった際に、被害者の女性(今回は女の子)から、男の陰部がどうだったかなどの事情聴取をしなければならないのが馬鹿げている。

 

昔から言われていた、性的意図がなくても強制わいせつ罪になるなら、医師が女性の体を診察するのも罪になるのか、という点については、客観的状況からして罪の成否は区別できると、一部の学説はかつてから指摘していました。

確かに、医師が病院で女性の体を診察する行為と、女の子に自分の陰茎をなめさせる行為は、傍から見ても全然性質の違うことで、それで罪の成否を判断できそうです。

最初に紹介した、報復のために女性を脅して衣服を脱がせる行為も、今の解釈だと、強制わいせつ罪になるのでしょう。女性にその着衣を脱がせるなど、その女性にとって性的羞恥心を感じるのは明らかですし、脱がせる犯人のほうも、仮にスケベ心がなかったとしても、その女性は恥ずかしがっているだろうな、ということぐらいはわかる。それをもって、強制わいせつ罪で処罰するには充分と思われます。

そういうことで、長々書いてきましたが、今回の判例変更についての解説は以上です。

また何か、興奮するような話題があれば記事にしたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA