コロナ特措法の仕組み 吉村知事と西村大臣の発言から

● 知事と大臣の発言内容

ここ数日の吉村府知事と西村経済再生大臣の応酬について、法的考察を付け加えたいと思います。
このところ、コロナ特措法関連の記事が続いており、特に前回あたりから、個人的な興味に基づき相当細かい話になっておりますが、興味ある方と、行政法の勉強中の方はお付き合いください。

ご存じのとおり、吉村知事は、府下における諸々の自粛解除に向けた「大阪モデル」を公表するに至りました。これについてはいろいろ意見もあるとは思いますが、個人的には、経済が止まっている状態があまりに深刻なので、ひとつの見識だと考えています。

吉村知事は、付け加えて「本来は国で示していただきたかったが、それが示されないということになったので、府としてのモデルを決定したい」と述べたそうです。

これに対し西村大臣が「大きな勘違い」であると述べ、「自粛要請は都道府県が独自に行うもの」だと指摘し、解除の基準を設定するのも都道府県で行うべきものだと指摘しました。

ここでは、政治家としてどちらが望ましいスタンスであるかということはさておいて、コロナ特措法の解釈だけを論じます。その観点で言えば、西村大臣の発言の方が正しいのは明らかです。

● コロナ特措法の基本的な仕組み

これは、コロナ特措法の規定が、緊急事態において、国(政府)と都道府県・市町村にどのように権限を分配しているか、という問題です。ごく大ざっぱにいうと、この点は以下の3つに整理できると思います。

① 政府は緊急事態であるかどうかを判断し、その判断に至ったら都道府県知事に対して一定の権限を与える。

② 知事はその権限に基づいて当該都道府県にて各種要請を行う。

③ 政府は何もしないわけではなく、知事に対し必要な指示を与えることができ、一定の重要事項については自ら決定する。

個別の条文については、すでに、4月6日の記事でほぼ説明したとおりです。

まず①について。
政府は、新型コロナが蔓延するおそれがある場合、期間と地域を決めた上で、緊急事態宣言を出すことができ、そのために地方自治体に必要な指示をすることができる(コロナ特措法32条)。これが、「緊急事態宣言が出た(発出された)」ということを意味します。

次の②は、このようにして権限を与えられ都道府県対策本部長となった知事は、当該都道府県の住民に対して、自宅待機要請ができるとか、営業自粛の要請や指示ができることになります。4月6日の記事の1~5に示したものがこれに当たります。

③は、国(政府対策本部長)は全体的調整という観点から、都道府県に対し指示(20条、33条)ができる。
また、重要な事項で全国一律に行うべきものについては、依然、国が決めることになる。
4月6日の記事の6番に記載した、債務の支払猶予(モラトリアム)がこれに当たります。主語が「内閣」となっている点にご注意ください。

● 「大阪モデル」はどのレベルの問題か

この整理でいくと、吉村知事がいま大阪府で営業自粛等の要請をしているのは、②のレベルのことです。この自粛要請をどのような基準で解除していくかという「大阪モデル」も、②の問題です。

②は、国が知事に一定の権限を与え、知事はこれに基づき一定の(営業自粛等の)要請ができる、という次元の話です。

これを受けて、知事の判断としては「うちはそんなにひどい状況じゃないから営業自粛要請はしないよ」という判断もありうる。
現に吉村知事は、私の記憶では3月中旬ころ(大阪市内の小中学校で臨時休校が始まったころ)、「新型コロナの特徴や弱点もわかった」と述べ、今後大阪では自粛も不要になるかのような発言をしていた。

一方で、営業自粛の要請を行うのであれば、その解除も含めて、知事の権限と判断ですべきことになります。

政府は、③に基づき、必要な指示はできるものの、都道府県内での営業自粛に対して、何らかの基準を示さないといけない立場には(コロナ特措法上は)ない。

むしろ、各都道府県のことはその実情に応じて、知事が適切に自粛要請や解除を行うのが望ましいし、コロナ特措法もそういう考え方で作られているはずです。
なので、政府が都道府県レベルでの営業の自粛や解除の基準を示すのは、行き過ぎということになる。

● 結び

だから、法律を読む以上は、その解釈論としては、西村大臣の言っていることが正しいことになります。繰り返しますが、これは法律の解釈上の話であって、経済的に何がいいとか、政治家としてどちらが望ましいかという話は度外視しています。

吉村知事は元が弁護士であるだけに、この法律の仕組みはよくよくわかっていて、ツイッター上で西村大臣に「お詫び」を述べたそうです。

お詫びは要らないと思うし、大阪府のことは吉村知事の権限の範囲内ということが改めて確認されたので、どんどん「大阪モデル」を発信されたら良いと思いますし、もちろんその結果については責任を取ってもらいたいと思います。

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