夏期休業について

当事務所の夏期休業は令和5年8月11日(金祝)から同月15日(火)までとさせていただきます。16日(水)より通常どおり業務いたします。

緊急事態宣言 解除のその後

9月末をもって緊急事態宣言もまん延防止措置も解除となり、大阪府の飲食店はゴールドステッカー認証があれば8時半ラストオーダーで9時閉店となる模様。
それ自体は嬉しいけど、緊急事態でも何でもない、いわば平時なのに、知事が9時閉店を要請できる根拠は何なのか、職業柄、ふと気になりました。

緊急事態宣言下であれば、新型インフルエンザ等対策特別特措法45条、まん防であれば同31条の6が、知事から飲食店等への協力要請の根拠となっていますが、その根拠がなくなるわけです。
根拠もないのに店を閉めよというのは、憲法上の営業の自由に対する侵害ですから。

で、調べてみますと、厚生労働大臣が、感染症が発生しているよ~と公表しているとき(同13条)、知事は、地域内の感染対策実施のため「必要な協力の要請をすることができる」(同24条9項)という条文がありました。大阪府のホームページにも、10月以降の府民への要請内容と、その要請が24条9項に基づくとの旨が紹介されています。(参考 特措法の条文 大阪府の要請内容(PDF) )

ただ、問題はここからでして、緊急事態の条文も、まん防の条文も適用されなくなるので、強制力を伴う命令(31条の6・3項、45条3項)、店名公表(同5項)、立入り(72条1項2項)、罰金(76条)、過料(79条)の手段が使えなくなるのです。

そうなると、法的根拠は一応あるけど、効果の点においては単なる「お願い」と同じレベルというわけで、遵守しない人に何も対応できないという懸念が残ります。
とはいえ、バーの再開は待ち遠しいところです。10月からの運用をまずは見守りたいと思います。

「見回り隊」の調査に応じる義務はあるか

1 見回り隊について(前置き)

大阪市内のまん延防止措置に関して、マスク会食の義務化について法的根拠が薄弱であることを前回書きました。今般、マスク会食とあわせて話題になっているのが「見回り隊」です。

大阪府・市の職員と、外注の職員とで、大阪市内の飲食店で感染防止措置が図られているかを見回るということのようですが。

私はこれを聞いたとき、平家物語に出てくる禿(かむろ)を思い出しました。平清盛が幼い子ども達を密偵として市中に放ち、平家の悪口を言っている人がいたら密告させて取り締まった、というやつです。

もっとも、平家の時代に本当は禿なんてものは実在せず、あれは源氏の世になって以降、源頼朝が平家のことを悪く言おうとして創作したものだ、ということを、吉川英治が「新平家物語」の中で書いていました。

私はまだ大阪の見回り隊というものを実際に見たことはないのですが、報道によると実在するようです。

となると、疑問となるのが、見回り隊というのはいかなる法的根拠があって活動しているのか、特に、飲食店に立ち入ることができるらしいが、それはどういう法的権限に基づくものであるのか、ということです。

当然のことですが、飲食店に誰を立ち入らせるかは、その店主の権限で決めることができます。ややこしい客は出入り禁止にできるし、そもそも「一見客お断り」というお店だってあります。それは、店に誰を入れるかは店主の判断権限に属するからです。

であるのに、大阪の見回り隊なるものがやってきたら、店に立ち入らせて調査をさせないといけないのか。

2 見回り隊の法的性質と、義務性の有無について

前置きが長くなりましたが、私の結論は、見回り隊に法的根拠はなく、あくまで任意の協力を求めるものに過ぎない、そして店主は、見回り隊が店舗に入ることを拒否できる、ということです。

さすがに、すべての法令を調べつくしたわけではありません。ただ、手がかりとなる条文は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)にあります。この72条で、立入検査のことが定められてあります。

72条1項によると、前回紹介したまん延防止のための各種要請(特措法31条の6 第1項)に従わない人がいて、これからいよいよ命令(同3項)を発しないといけないというとき、それが妥当かどうかを判断するのに必要な限度で立ち入りできる、とあります。条文を直接参照したい方は検索していただければ全文読めます。

まん延防止措置の運用については、令和3年2月に、内閣官房が各都道府県知事に出した通達があり、これも公開されていて読めます(こちら PDFファイルです)。

これによると、立入検査をするにあたっては、訪問日時を事前に通知するとか、立入検査をする旨の文書を交付することが求められています。

さらに、特措法が改正された時(まん延防止措置を特措法に付け加えた時)の付帯決議では「立入検査の実施に当たっては、原則として立入先の同意を得て行うこととし、同意が得られない場合も物理力の行使等は行わないこと」が決められています。

つまり、特措法が予定している立入検査というのは、①協力要請に応じない店に対し、命令を出す前提として、②事前に文書にて日時等を通知した上、③店側の任意の協力に基づき行う、とされています。

一方、大阪市で言われている見回り隊というのは、①協力要請が出されているだけの状態で、②ある日突然、③(一部で言われているところでは)店側に有無を言わさず行う、とされているようです。

法律が想定している限界を超えて、店側の営業の自由を侵害してまで、大阪府が強制的に立入検査を行えるのだとしたら、この見回り隊の存在は特措法違反、さらには憲法違反、ということになると解さざるを得ません。

見回り隊の存在が許容されるとしたら、それはあくまで、③店側の同意に基づいて行う、という方法による必要があります。「強制ではありません、よろしかったらお店の中をちょっと拝見させてください」という、お願いベースのものです。いうことは、店主としてはそれを拒否できる、ということです。

3 見回り隊の入店を拒否したらどうなるか

このように、強制力はないと解さざるを得ないのですから、見回り隊の法的性質は、単なる「行政指導」に過ぎないと言えるでしょう。行政指導は「相手方の任意の協力によってのみ実現される」と法律に明記されています(行政手続法32条1項)

もっとも、お店側としては、拒否したら今後不利な扱いを受けるのではないか、という懸念が当然あると思います。しかし、行政指導である以上、これに従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないことも、明記されています(同条2項)

なので、見回り隊の立入りを拒否したことを理由に、時短や休業を、要請でなく「命令」されたとしたら、不当な行政処分として、行政訴訟等の法的手段でひっくり返せる可能性が高いと考えます。

ということで、見回り隊は、マスク会食以上に、法的根拠が欠落しており、あくまで店側の任意の協力に基づいてしか行うことができない、というのが私の結論です。

ただ、これは私自身がこれまで調べた範囲で言っているので、もし何か情報お持ちの方は、ぜひコメント欄、または私のTwitterにて、お寄せください。

「マスク会食」は義務化されたのか

大阪市はじめ6つの市にて、本日(令和3年4月5日)から、「まん延防止等重点措置」が適用されます。

いま大阪で話題になっているのが「マスク会食」が「義務」になるのか、という点であり、これについて少し調べてみました。

長くなるので結論を先に言いますが、「マスク会食」の義務を具体的に明記する条項はないが、解釈次第では根拠があるとも読める、ということになりそうです。

結局どうなるねん、ということが知りたい方は、下の「2」の項目以下のみ読んでください。

1 法律・政令の解釈について

いわゆる「新型コロナ特措法」と言われるのは、「新型インフルエンザ等特別対策措置法」(以下「特措法」)という従来から存在する法律であり、これが新型コロナにも適用されているというのは、当ブログでも昨年紹介したとおりです。

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置は、何が違うかと言うと、私の理解では、前者は全国的に感染拡大が見込まれるときに適用され、後者は特定地域に症状が見られる場合に、そこから他の地域に蔓延することを防ぐために適用される、というものです。

で、今回、特措法の31条の4から6に「まん延防止等重点措置」という項目が加えられました。

その、31条の6の1項には、知事は、事業所(今回は主に飲食店が想定されているでしょう)に対し、営業時間の短縮その他「政令で定める措置」を要請できるとあります。

その要請に従わない事業所には、3項で「命令」できるとあります。この命令に違反すると「20万円以下の過料」という罰則があります(特措法80条1項)。

時短以外に何を要請(場合によっては命令)できるかというと、「新型インフルエンザ等特別対策措置法施行令」(以下「施行令」)という、内閣が作った政令があり、その5条の5で、いくつかの措置が定められています(ネット検索で、政府のサイトで全文を参照できます)。

その6号は「入場をする者に対するマスクの着用その他の新型インフルエンザ等の感染の防止に関する措置の周知」です。

これは、例としては、飲食店が貼り紙をして「マスクをしていないお客さまは入店をお断りします」と周知するようなことを想定していると思われます。

続く7号で「正当な理由がなく前号に規定する措置を講じない者の入場の禁止」とあります。

例としては、店主が、マスクをしていない客の入店を拒否するようなことが想定されているでしょう。

それから、店内でマスクなしで大声で騒いでいるグループには出て行ってもらうということも、この7号で法的根拠が与えられます。

知事が、飲食店の店主に、今後こういった対応をきちんとしなさい、と要請すること自体は、わからないこともないです。

問題は、この6号・7号で、知事が、飲食店の店主に対し「食事中にもマスクをするよう周知せよ」「食事中、食べ物を口に運ぶ以外の場面でマスクをしない客は退店させよ」と命ずることができるか、ということです。

吉村知事は、大阪市内でマスク会食を義務化すると言っているわけですから、「できる」という解釈をしているわけです。

しかし、口に物を運ぶことが当然の前提とされている飲食の場で、それ以外のときにはマスク着用を命じる(結果としてマスクを上げ下げすることになる)ことを、この政令が想定しているという解釈には、やや疑問を感じます。

仮に、そのような解釈が成り立つとして、実際の運用がものすごく大変なことになると思われます。

たとえば、酒肴を口にしてから、次にお酒を口に含みたい、というときに、その合間もマスクをしていないといけないのかとか、何秒間だったらいいのかとか、陰気な人同士が黙って酒を酌み交わしているときでもマスクが必要なのかとか、その目安が示されていないから、いちいち店主が判断しないといけなくなる。

それから、とある客がたとえば「食事中にマスクを触るのはむしろ手が外気やウィルスに触れることになるという指摘もあり、私はそれが怖いので、マスクは外します」と言ったとしたら、これは、マスクを着用しないことの「正当な理由」になり、マスクをしないことを認めざるを得ないのではないか。

マスク会食を厳密に求めれば、おそらく客も気分を害して離れていく。客を大事にすればマスク会食を緩くしか求められず、その結果、大阪市が今後やるらしい「見回り隊」にその様子を見られれば、処分(命令から過料へ)の対象にもなりかねない。

施行令が、飲食店の店主に、そこまでのリスクを負わせることが認められるのか。憲法論的に言えば「営業の自由」の侵害になるのではないか。

なので、施行令を根拠に、マスク会食を要請または命令できるというのは、私は、解釈としては間違っていると考えております。

2 今後、どうなるかについて

ただ、解釈問題はさておいても、特措法上は、まずは要請(お願い)、それが功を奏しない場合に命令(義務化)、という経路をたどります。

昨年、パチンコ店に休業要請を出して、従わないごく一部の店に休業命令プラス店名公表という経緯がありましたが、あれと同じです。

ニュース等では「マスク会食義務化」などという言葉が使われ、吉村知事もあたかも、すでに「義務」が発生しているかのような言い方をしていますが、現在はあくまで「お願い」の状態です。

飲食店主においては、名指しでの「命令」を受けない以上は、いきなり過料20万円を払わされることはない点は、よく理解しておいてください。

個人的には、私が出入りするような飲食店は、小さい規模の、客も1、2人で来るような人が多い店なので、そういう店においては、マスク会食が要請を越えて命令になるようなことはないと考えています。

今年もよろしくお願いします。

あけましておめでとうございます。

当ブログでは、昨年5月ころ、新型コロナ関連の投稿をいくつか続けたあと、ブログ更新が再び途絶えてしまいました。

今また、関東圏で緊急事態宣言が出ることになるそうで、また今年の国会ではコロナ特措法に罰則を設けることも検討されるようです。

そのあたりの話にからめて、またヒマを見て投稿していくつもりです。

当事務所は本日より通常業務を開始します。今年もよろしくお願いします。

コロナ特措法の仕組み 吉村知事と西村大臣の発言から

● 知事と大臣の発言内容

ここ数日の吉村府知事と西村経済再生大臣の応酬について、法的考察を付け加えたいと思います。
このところ、コロナ特措法関連の記事が続いており、特に前回あたりから、個人的な興味に基づき相当細かい話になっておりますが、興味ある方と、行政法の勉強中の方はお付き合いください。

ご存じのとおり、吉村知事は、府下における諸々の自粛解除に向けた「大阪モデル」を公表するに至りました。これについてはいろいろ意見もあるとは思いますが、個人的には、経済が止まっている状態があまりに深刻なので、ひとつの見識だと考えています。

吉村知事は、付け加えて「本来は国で示していただきたかったが、それが示されないということになったので、府としてのモデルを決定したい」と述べたそうです。

これに対し西村大臣が「大きな勘違い」であると述べ、「自粛要請は都道府県が独自に行うもの」だと指摘し、解除の基準を設定するのも都道府県で行うべきものだと指摘しました。

ここでは、政治家としてどちらが望ましいスタンスであるかということはさておいて、コロナ特措法の解釈だけを論じます。その観点で言えば、西村大臣の発言の方が正しいのは明らかです。

● コロナ特措法の基本的な仕組み

これは、コロナ特措法の規定が、緊急事態において、国(政府)と都道府県・市町村にどのように権限を分配しているか、という問題です。ごく大ざっぱにいうと、この点は以下の3つに整理できると思います。

① 政府は緊急事態であるかどうかを判断し、その判断に至ったら都道府県知事に対して一定の権限を与える。

② 知事はその権限に基づいて当該都道府県にて各種要請を行う。

③ 政府は何もしないわけではなく、知事に対し必要な指示を与えることができ、一定の重要事項については自ら決定する。

個別の条文については、すでに、4月6日の記事でほぼ説明したとおりです。

まず①について。
政府は、新型コロナが蔓延するおそれがある場合、期間と地域を決めた上で、緊急事態宣言を出すことができ、そのために地方自治体に必要な指示をすることができる(コロナ特措法32条)。これが、「緊急事態宣言が出た(発出された)」ということを意味します。

次の②は、このようにして権限を与えられ都道府県対策本部長となった知事は、当該都道府県の住民に対して、自宅待機要請ができるとか、営業自粛の要請や指示ができることになります。4月6日の記事の1~5に示したものがこれに当たります。

③は、国(政府対策本部長)は全体的調整という観点から、都道府県に対し指示(20条、33条)ができる。
また、重要な事項で全国一律に行うべきものについては、依然、国が決めることになる。
4月6日の記事の6番に記載した、債務の支払猶予(モラトリアム)がこれに当たります。主語が「内閣」となっている点にご注意ください。

● 「大阪モデル」はどのレベルの問題か

この整理でいくと、吉村知事がいま大阪府で営業自粛等の要請をしているのは、②のレベルのことです。この自粛要請をどのような基準で解除していくかという「大阪モデル」も、②の問題です。

②は、国が知事に一定の権限を与え、知事はこれに基づき一定の(営業自粛等の)要請ができる、という次元の話です。

これを受けて、知事の判断としては「うちはそんなにひどい状況じゃないから営業自粛要請はしないよ」という判断もありうる。
現に吉村知事は、私の記憶では3月中旬ころ(大阪市内の小中学校で臨時休校が始まったころ)、「新型コロナの特徴や弱点もわかった」と述べ、今後大阪では自粛も不要になるかのような発言をしていた。

一方で、営業自粛の要請を行うのであれば、その解除も含めて、知事の権限と判断ですべきことになります。

政府は、③に基づき、必要な指示はできるものの、都道府県内での営業自粛に対して、何らかの基準を示さないといけない立場には(コロナ特措法上は)ない。

むしろ、各都道府県のことはその実情に応じて、知事が適切に自粛要請や解除を行うのが望ましいし、コロナ特措法もそういう考え方で作られているはずです。
なので、政府が都道府県レベルでの営業の自粛や解除の基準を示すのは、行き過ぎということになる。

● 結び

だから、法律を読む以上は、その解釈論としては、西村大臣の言っていることが正しいことになります。繰り返しますが、これは法律の解釈上の話であって、経済的に何がいいとか、政治家としてどちらが望ましいかという話は度外視しています。

吉村知事は元が弁護士であるだけに、この法律の仕組みはよくよくわかっていて、ツイッター上で西村大臣に「お詫び」を述べたそうです。

お詫びは要らないと思うし、大阪府のことは吉村知事の権限の範囲内ということが改めて確認されたので、どんどん「大阪モデル」を発信されたら良いと思いますし、もちろんその結果については責任を取ってもらいたいと思います。

コロナ特措法 もし閉店「指示」が出されていたら

以下の記事は令和5月1日に初めてアップロードしましたが、その後の状況を踏まえて追記し、またそのため長くなったので読みやすいように項目を分け、小タイトルを付しました(5月7日)。

● 休業の「要請」と「指示」の違い

大阪府内で、閉店の要請(コロナ特措法45条2項)を受けたパチンコ店がいずれも休業に応じたとのニュースがありました。この問題がいったんこれで収束すれば良いと思います。

いまから述べようとしているのは、もし、パチンコ店が休業に応じず、閉店の指示(45条3項)に至っていたとしたら、どうなっていたかという問題です。

45条3項の「指示」が、法的にどのような効力を持つかというと、指示を受けた側は、それに従う義務を負う、とされています。

では、パチンコ店が閉店の指示を受けて、閉店しなかったらどうなるかというと、すでに述べたとおり、強制的に閉店させることもできないし、罰則もない。

国が作成したガイドラインによると、2項の要請は「行政指導」だけど、3項の指示は「行政処分」なので、指示をするためには、その相手(パチンコ店主)に弁明の機会を与えないといけないとのことです(なお私は手元に国のガイドラインがなく、新聞報道に書かれていたことに基づいて書いています)。

行政指導は、字面のとおり、役所が私人に指導をして、相手の合意のもとに一定の行動を促すことです。行政処分は、役所が一方的に判断するもので、その結果として、ある私人の免許を剥奪したり、一定の行為を命じたりすることになる。

行政処分の具体例として分かりやすいのは、公安委員会が交通違反を繰り返した人の免許を取り消すとか、税務署が脱税をした人に対して重加算税を課すことなどです。免許取消しを受けてなお自動車を運転すれば無免許運転で処罰されるし、重加算税をかけられて支払わないと財産の差押えを受ける。

一方で、コロナ特措法45条3項の「指示」は、したがわなくても強制も罰則もないのだから、行政処分と言えるのか、個人的には疑問を感じます。もっとも、行政指導と行政処分は必ずしもハッキリ線引きできないことも少なくないですし、国が「行政処分だ」と言っている以上は、その前提で進めます。

行政処分は、上述のとおり、行政の一方的判断で、私人にあることを命じ、命じられた側はそれに従うべき義務を負います。

● 行政処分には「弁明の機会」が必要

そのため、手続きには慎重と適正を期するということで、行政手続法という法律が定められています。上記の「弁明の機会」は、この法律に定められています。

その13条1項によると、私人に不利益な処分をするにあたっては、その私人に対し、弁明の機会を与えるか、または、一定の場合には聴聞会を開く必要があります。この2つの違いは細かくなるので書きませんが、少なくとも、自分の弁明を聞いてもらえる機会はもらえると理解してください。

ただし、その次の13条2項によると、弁明の機会をとばしても良いとされている例外があり、その1号には「公益上、緊急に処分をする必要があるため、弁明の機会のための手続を取れないとき」(要約)と定められています。

ここ数日の新聞報道では、閉店の指示をするにあたっては、本来は弁明の機会を与える必要があるけど、吉村知事としては、緊急の場合であるのでその機会を与えない方針である模様だ、といったことが書かれていましたが、これは、上記の行政手続法13条のことを念頭に置いているわけです。

● 休業「指示」の後はどうなるか

最終的に、この段階でパチンコ店が閉店に応じたわけですが、もし閉店指示まで進んでいたらどうなったか。

一つには、パチンコ店が依然それを無視して、相変わらず多数のお客さん相手に商売していたことも考えられる。そうすると、それ以上何もできなかったはずです。もっとも、そこまでやると、パチンコ店全体のイメージダウンにもなるだろうし、それを気にしない客がいっそう殺到して、従業員の健康が危ぶまれたでしょう。

もう一つのやり方としては、行政処分を受けた側は、その処分を、行政不服審査や、行政訴訟といった手続で争うことができる。 その際には、そのパチンコ店が閉店するのがやむえない状況であったか、また、行政手続法に基づく聴聞の機会を与えずに閉店指示を出したことの適法性であったかなどが問われたでしょう。

指示がもし違法であったとすれば、違法な指示により閉店に至ったことによる損害について、大阪府に対する賠償を求めることになる。パチンコ店主側がそれなりに腹を決めてここまでやれば、コロナ特措法下で初の行政訴訟となり、司法により一定の法解釈が示され、今後のモデルケースとなるでしょう。

結果としてはそこまでに至ることなく、閉店に至りました。その理由は、吉村知事個人の覚悟と頑張りがあったことを認めるにやぶさかではありませんし、それを受けて府の職員もパチンコ店に対する説得を重ねたでしょう。パチンコ店側も最後の最後で理解を示した。

しかし、たびたびここで述べておりますように、今回の事態は、コロナ特措法の欠陥や中途半端さを露呈させました。

おそらく、今後は、強制力や罰則も含め、より強い規定にすべきだ、という議論が出てくると予想します。その際には、行政は緊急事態にどこまで個人の自由を制限できるのかという問題を、憲法レベルまでさかのぼって検討すべきだし、また、それとセットで強力な経済支援策も打ち出してほしいと思っています。

● 追記

5月1日に以上のことを書いてアップロードした約2時間後に、ヤフーニュースで、兵庫県で3か所のパチンコ店に対し閉店の「指示」が出されたと知りました。その後、千葉、神奈川、新潟、福岡などで指示が出たようです。その上でなお、営業を継続している店舗もあるようです。

パチンコ店側も、従業員の生活など、抱える問題は多々あるのでしょうけど、行政処分を受けた以上、正攻法としては、上記のとおり、行政不服審査などの方法で堂々とその言い分を主張されてはどうかと思います。

ブログサイトの外観をリニューアルしました。

最近、ほったらかし気味であった当ブログですが、コロナ特措法に関連して、いくつかの記事を追加しました。

ついでに、管理ページをあちこちいじっているうちに、外観などの変更ができることがわかりましたので、この機会に、異なるフォームを採用してみました。見やすくなったかなと思っているのですが、もし「以前のほうが良かった」というご意見があればお寄せください。

また、新しいウィジェットがいろいろ追加できるようになったみたいなので、閲覧数上位の記事トップ10を追加してみました(パソコンのブラウザでご覧になっている方は、サイト画面の右下に出ていると思います。スマホでご覧になっている方は、適宜どうにかしてみてください)。

これにより、思っていたより意外にたくさん見ていただいているようであることを知るに至りました。これまでは私がサイト管理人でありながら閲覧者数を知りませんでした。過去の記事も含めて、いまでもたまに見てくださっている方がいるのだなと思いました。

古い記事については、その後の法改正や判例変更などが生じた際、気づいた限りで補足訂正していこうと思っているのですが、なかなか手が回らないこともあり、もしお気づきになられた方はコメント等にて指摘をいただけますと幸いです。

では今後とも、たまにご覧いただけますと励みになります。よろしくお願いします。

店名公表に見る特措法の限界について

● 店名公表とその結果

4月24日(金)、大阪府の吉村知事は、大阪府内のパチンコ店6軒に対し、個別に閉店の要請を出したと、明らかにしました。コロナ特措法45条2項と4項に基づく措置です。

まずは24条9号でパチンコ店全体に対する休業の要請を出し、従わない人に個別に電話や訪問等で休業の指導をし、それに従わなかったために45条2項に基づく個別の休業要請をし、同4項でその旨を公表した、ということになります。

個別の条文の解説は、4月22日の記事をご覧ください。

私がこの記事を書いたとき、念頭にあったのは、私が日ごろお世話になっている店、たとえば個人経営の小さなバーや居酒屋などです。そういう店には、よっぽどのことがない限り、個別的要請や店名公表まで行かないだろうということを伝えたくて書きました。

パチンコ店に休業要請と店名公表をしたことで、私自身、思いもしていなかった結果となりました。ご存じのとおり、一部の店舗は、店名公表を受けてなお、営業を継続した。その営業中の店舗には、その情報を聞きつけて、むしろ客が殺到した。

店名公表という判断は正しかったのか。新聞やネットを見る限り、いろんな立場の人から、いろんな意見が出ていますが、私としては法律家の立場から、以下の一点を指摘します。

つまり、コロナ特措法は、営業自粛の要請に対して、店名公表までしかできないということです。

大半の事業主は、店名公表などとは不名誉なことであり、商売あがったりになるのでそれを避けようとする。しかし、店名公表をものともしない店主と多数の客が存在した場合、その店が現に営業を続け、客が群がったとしても、何もできないわけです。

このことは、コロナ特措法の限界として、すでに指摘したとおりですが(4月6日の記事)、早くもその顕著な実例が明らかとなったわけです。

これを根本的に解決するには、コロナ特措法を改正し、従わない人に対する罰則を定めるなどする必要があります。現行法は、「本当に開き直った人に対して何もできない」仕組になっているのです。

● 現行法で何ができるか

今回の事態について、私が指摘したいのは上記の点(コロナ特措法の限界)につきるわけなのですが、あえて、現行法下で、何かできるのか、検討してみます。

たとえば、パチンコ店の営業許可は都道府県の公安委員会が出すわけですが、公安委員会が営業許可を取り消すことができるか。

これは、公安委員会が定める基準(建物の広さや防音設備など諸々)を満たしていないなどの事情があれば別ですが、知事の要請に従わなかったとの理由で免許を取り消すのは無理と思われます。

むしろ、行政手続法32条2項に「行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない」と定められてあり(大阪府行政手続条例30条2項も同趣旨)、それに反するおそれがある。免許取消を行政訴訟で争われると公安委員会側が敗訴する可能性が高いと思います。

あと、ネット上で拾った面白い意見としては、パチンコ店の前の道路の工事を開始して客が入れないようにする、というのもありました。店の前を府道か市道が走っているだろうから大阪府か大阪市の権限で工事を開始するというものですが、これも同様に「不利益な取り扱い」ということになるでしょう。

結局、営業を続けるパチンコ店に対して、法的には、これ以上にできることはなさそうです。

ちなみに、店名公表された6店のうち、2店は閉店したが、残る4店にも抗議の電話などが続き、さらに1店が閉鎖した、という話を聞きました。

さすがにそれを吉村知事が意図したとは思えませんが、法律で及ばないところを、私人相互での監視や抗議といった圧力で補わせるというのは、およそ近代の法治国家においてあってはならないことです。

● 多少の雑感

ここからは、法律の解釈論を離れた私の感想です。

店名公表の措置は、パチンコ店にむしろ客が群がってしまったわけで、人の密集を回避するという意味では失敗に終わったと言わざるを得ません。

営業をやめないパチンコ店を見て、私自身は弁護士だから「法的にはそれ以上できません」と言えば済む。でも吉村知事は行政のトップだから、引き続き対処を求められることになるでしょう。

これまで、橋下氏以降、松井市長・吉村知事といった維新の人たちは、既成の権威・権力を批判し否定することで大衆的な人気を勝ちとってきたわけですが、今回、パチンコ店に群がる大衆を、どう統御するのかという困難な問題に行き当たったように思えます。

松井市長と吉村知事は、そのあたりはたくみに「国はこれまでギャンブル依存症の対策をしてこなかった」と言い出し、抽象的に「国」に責任の所在があるかのように言い始めました。

もちろん、ギャンブル依存症対策を今から始めたとして、毎日のようにパチンコ店に人が群がる問題を解決できるわけではないので、何かのせいにするのでなく、現状に対していかなる対処をするのか、その見識と手腕が試されることになります。

営業自粛要請についての若干の感想 2

コロナ特措法に基づく休業要請について、さらに個人的な感想を続けます。

● 氏名公表制度の趣旨は

知事から個別の自粛要請や指示(コロナ特措法2項・3項)に応じない業者の氏名・店名は、同4項に基づき公表されることがある、と前々回に解説しました。

もっとも、この4項、すでに述べたとおり、「知事は、2項の要請または3項の指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない」という内容であり、氏名・店名を公表することは必ずしも明記されていない。

これはあくまで私の解釈なのですが、この条文のもともとの趣旨は、行政に従わない個々人の氏名をさらすというものではないはずです。

むしろ逆で、行政が個々人の商売に口を挟み、閉店の要請や指示をしたときは、そのことを公に開示しなさい、ということであろうと考えています。行政が強権発動をする以上はそのことを明らかにし、誤りがあれば批判できるような状態にしておきなさい、ということであって、つまり、行政を縛る趣旨のものです。

だからこそ、条文の体裁は「知事は…しなければならない」という、知事に対する命令調のものになっているのです。

そもそも、コロナ特措法や、少し前に紹介した災害対策基本法など、緊急事態のことを定める法律は、そうした事態において、政府や知事といった行政のトップに一定の権限を与えつつも、その濫用を戒めるためにあるのです。

要請・指示を行った相手の氏名・店名が公開されるのは、あくまでその事実を明らかにするために付随するものでしかない。

であるのに、行政のトップが、ことさらに「氏名公表」を持ち出すことで、本来は行政に対する縛りであるはず規制が、私人に対する「制裁」として利用されることに、少し危惧を持っています。

● 大阪府の給付金の報道を見て感じたこと

そんな危惧を持ちながらこの記事の草稿を書いていたら、ネットニュースで、大阪府で売上げが減少した事業者に対する給付金を給付する際、その事業者名を「公表」する方向で調整していると知りました。

名前を公表されるのは、当人にとっては単純に考えて恥ずかしいことであるし、世間の風当たりを受けることも想像できる。それなのにあえてそのようなことを公表する積極的な理由が考えにくい。

実際は、事業者が委縮して給付金の申請をしないように仕向けているとしか思われないのです。

そうすると、大阪府の行政のトップ(司法研修所の同期で同じクラスだった者としてあまり名指ししたくないけど吉村知事です)は結局、コロナ特措法に基づく氏名公表の制度も、やはり「制裁」としか考えていないのではないか、と疑わざるを得ない。

● 氏名公表制度にはどんなものがあるか

さて、少し話を広げて、他にも、行政に従わない人の氏名を公表できるような制度があるのかと思って調べてみました。

いくつかの都道府県・市町村の条例レベルだと、わずかながら、行政指導に従わなかった場合に、その事実その他の必要な事実を公表できるとの例があります。

ただし、その場合は、事前にその相手方に意見を述べる機会を与えたり(佐賀県行政手続条例31条2項)、外部の審議会に諮って意見を聞く(横須賀市行政手続条例35条3項)、などの事前手続きが要求されています(以上は、大橋洋一「行政法Ⅰ」第4版 有斐閣 p287以下を参照しました。上記の各条例はネットで検索すると全文を参照できます)。

つまり、行政指導に従わない場合に、制裁的に氏名を公表するのは、制度としてはわずかな例外を数えるのみであり、しかも事前の手続保障が要求されています。

● 今後の運用にトップの姿勢が表れる

コロナ特措法による個別の要請・指示をするにあたっても、事前によくよく「お願い」をはじめとする適切な指導をすべきであり、住民の健康確保のために合理的な指導をしてなお従わないという相当悪質な場合に限って、個別の要請・指示と氏名公表が行われるべきです。

あくまで、必要かつ合理的な行政指導が主、氏名公表は副次的なもので従、と考えるべきであって、制裁としての氏名公表を最初からちらつかせて営業自粛を迫るのは本末転倒と言えるでしょう。

繰り返しますが、コロナ特措法は、緊急事態において、政府や知事といった行政のトップに、一定の権限を与えつつも、その濫用を戒めるための法律です。

45条2項・3項の要請・指示と、4項の氏名公表が今後どのように運用されるか。そこに、各自治体のトップが、個々の市民の苦境を本当に切実に考えているのか、もしくは単に、制裁や恫喝で従わせようとしているだけなのかが、表れてくると思います。