「見回り隊」の調査に応じる義務はあるか

1 見回り隊について(前置き)

大阪市内のまん延防止措置に関して、マスク会食の義務化について法的根拠が薄弱であることを前回書きました。今般、マスク会食とあわせて話題になっているのが「見回り隊」です。

大阪府・市の職員と、外注の職員とで、大阪市内の飲食店で感染防止措置が図られているかを見回るということのようですが。

私はこれを聞いたとき、平家物語に出てくる禿(かむろ)を思い出しました。平清盛が幼い子ども達を密偵として市中に放ち、平家の悪口を言っている人がいたら密告させて取り締まった、というやつです。

もっとも、平家の時代に本当は禿なんてものは実在せず、あれは源氏の世になって以降、源頼朝が平家のことを悪く言おうとして創作したものだ、ということを、吉川英治が「新平家物語」の中で書いていました。

私はまだ大阪の見回り隊というものを実際に見たことはないのですが、報道によると実在するようです。

となると、疑問となるのが、見回り隊というのはいかなる法的根拠があって活動しているのか、特に、飲食店に立ち入ることができるらしいが、それはどういう法的権限に基づくものであるのか、ということです。

当然のことですが、飲食店に誰を立ち入らせるかは、その店主の権限で決めることができます。ややこしい客は出入り禁止にできるし、そもそも「一見客お断り」というお店だってあります。それは、店に誰を入れるかは店主の判断権限に属するからです。

であるのに、大阪の見回り隊なるものがやってきたら、店に立ち入らせて調査をさせないといけないのか。

2 見回り隊の法的性質と、義務性の有無について

前置きが長くなりましたが、私の結論は、見回り隊に法的根拠はなく、あくまで任意の協力を求めるものに過ぎない、そして店主は、見回り隊が店舗に入ることを拒否できる、ということです。

さすがに、すべての法令を調べつくしたわけではありません。ただ、手がかりとなる条文は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)にあります。この72条で、立入検査のことが定められてあります。

72条1項によると、前回紹介したまん延防止のための各種要請(特措法31条の6 第1項)に従わない人がいて、これからいよいよ命令(同3項)を発しないといけないというとき、それが妥当かどうかを判断するのに必要な限度で立ち入りできる、とあります。条文を直接参照したい方は検索していただければ全文読めます。

まん延防止措置の運用については、令和3年2月に、内閣官房が各都道府県知事に出した通達があり、これも公開されていて読めます(こちら PDFファイルです)。

これによると、立入検査をするにあたっては、訪問日時を事前に通知するとか、立入検査をする旨の文書を交付することが求められています。

さらに、特措法が改正された時(まん延防止措置を特措法に付け加えた時)の付帯決議では「立入検査の実施に当たっては、原則として立入先の同意を得て行うこととし、同意が得られない場合も物理力の行使等は行わないこと」が決められています。

つまり、特措法が予定している立入検査というのは、①協力要請に応じない店に対し、命令を出す前提として、②事前に文書にて日時等を通知した上、③店側の任意の協力に基づき行う、とされています。

一方、大阪市で言われている見回り隊というのは、①協力要請が出されているだけの状態で、②ある日突然、③(一部で言われているところでは)店側に有無を言わさず行う、とされているようです。

法律が想定している限界を超えて、店側の営業の自由を侵害してまで、大阪府が強制的に立入検査を行えるのだとしたら、この見回り隊の存在は特措法違反、さらには憲法違反、ということになると解さざるを得ません。

見回り隊の存在が許容されるとしたら、それはあくまで、③店側の同意に基づいて行う、という方法による必要があります。「強制ではありません、よろしかったらお店の中をちょっと拝見させてください」という、お願いベースのものです。いうことは、店主としてはそれを拒否できる、ということです。

3 見回り隊の入店を拒否したらどうなるか

このように、強制力はないと解さざるを得ないのですから、見回り隊の法的性質は、単なる「行政指導」に過ぎないと言えるでしょう。行政指導は「相手方の任意の協力によってのみ実現される」と法律に明記されています(行政手続法32条1項)

もっとも、お店側としては、拒否したら今後不利な扱いを受けるのではないか、という懸念が当然あると思います。しかし、行政指導である以上、これに従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないことも、明記されています(同条2項)

なので、見回り隊の立入りを拒否したことを理由に、時短や休業を、要請でなく「命令」されたとしたら、不当な行政処分として、行政訴訟等の法的手段でひっくり返せる可能性が高いと考えます。

ということで、見回り隊は、マスク会食以上に、法的根拠が欠落しており、あくまで店側の任意の協力に基づいてしか行うことができない、というのが私の結論です。

ただ、これは私自身がこれまで調べた範囲で言っているので、もし何か情報お持ちの方は、ぜひコメント欄、または私のTwitterにて、お寄せください。

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