強制わいせつ罪の判例変更について 2

前回の続き。強制わいせつ罪の判例が変更された事案を紹介します。

事件は平成27年1月、甲府市内の被告人Cの自宅で起こります。以下、事件の内容を伝えるために多少は生々しい記述をせざるを得ませんが、事件の状況は基本的に判決文から引用しております。

被告人Cは、自宅内で、当時7歳の女の子Dを全裸にして、自分の陰茎を触らせ、なめさせて射精するなどの行為をし、またC自身も女の子Dの陰部を触るなどして、その様子を自分のスマートフォンで撮影しました。そしてその画像を知人に送信しました。

この行為は、児童ポルノ処罰法で処罰されますが(本題でないから詳細は省略)、同時に、強制わいせつ罪にあたるかどうかが問題になりました。

この被告人Cがなぜこんなことしたかというと、その弁解によれば、生活費に困って知人からお金を借りようしたら、お金を貸す条件として、児童ポルノの映像を送ってくれたらお金を貸す、と言われたからだそうです(被告人Cと女の子D、そしてCと知人の関係は、判決文からはよくわかりません)。

 

私が読んだのは1審から最高裁までの判決文だけなので、その他の状況は想像で書くのですが、この被告人Cは、容疑者として逮捕された当初「お金が目的でやった。自分のスケベ心のために女の子にあんなことをさせたんじゃない」と弁解したかと思います。

弁護士も、前回紹介した昭和45年の最高裁判決がある以上、性的意図はなく金銭目的だから強制わいせつ罪は成立しないと主張したでしょう。刑事弁護人は容疑者・被告人の利益のために行動するのが職責ですから、これは当然です。

これを受けて、捜査担当の警察官や検察官は、Cが性的意図のもとに犯行に及んだことの証拠をつかもうとしたはずです。

1審・神戸地裁の判決文によると、検察官が女の子Dから事情聴取して作ったという調書の中に、Dが被告人Cの陰茎を洗っているとき、陰茎が「だんだん上を向いてきた」という記載があるようです。

つまり、Cが性的に興奮して勃起したということを、被害者の女の子D(事情聴取の時点では8歳になっていました)から検察官が聞き取った、これがCに性的意図があったことの証拠だ、というわけです。

おそらく裁判官は、この調書を見て、顔をしかめたのではないかと想像します。性的意図を認定するためには、8歳の女の子からそんな供述を取らないといけのか、と。

 

そして、神戸地裁は平成28年3月、以下のように判断します。

女の子Dの供述調書は、検察官の誘導に沿って作成された可能性があり、そのまま信用することはできない。そうすると、被告人Cには性的意図があったと認めることはできない。

しかし、と神戸地裁の判決文は続きます。

強制わいせつ罪の成立に性的意図は必要ではない。客観的に見てわいせつな行為が行われ、被告人にも自分の行為を認識できている以上は、性的意図がなくても、強制わいせつは成立するのだ、と。

つまり、はたから見てわいせつな行為、相手に性的羞恥心を起こさせるに足るような行為をし、被告人においてもそういう行為をしていると理解している以上、その行為が、金銭目的であれ性的意図に基づくものであれ、罪になるということです。

そして被告人に3年6月の実刑判決を下します。

最高裁の判例はこの時点で「性的意図必要説」に立っていますから、神戸地裁の判断は最高裁判例から逸脱しています。最高裁判例と異なる地裁・高裁の判断は通常、あとで覆されますし、そんな判決を出す判事は「最高裁判例に従わないヤツ」として上から睨まれるはずですから、裁判官もハラを決めて思い切った判断をしたのでしょう。

 

弁護側は当然、判例違反だとして控訴します。

すると大阪高裁は、平成28年10月、1審判決を支持して被告人の控訴を棄却するとし、判決文の中で、昭和45年の最高裁判決をそのまま維持するのは相当でない、と明言しました。大阪高裁も、最高裁判例に従わない、としたわけです。

弁護側は、さらに最高裁に上告します。そしてこの度の最高裁判決(平成29年11月29日)です。

最高裁は1審・2審判決を支持し、強制わいせつ罪の成立に性的意図が必要としたかつての昭和45年の最高裁判決を変更すると、自ら明らかにしました。

今になって判例が変更された理由については、最高裁判決の中に詳細に説明されていますが、そのあたりは次回に書きます。

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