弁護士の説得の仕方

「弁護士 話し方」という検索ワードで当ブログに来られる方が多いので、あざといようですが前回、「弁護士の話し方」というタイトルの記事を書いたら、アクセス数がずいぶん伸びました。さらにあざとく「弁護士の説得の仕方」ということで書いてみます。

このテーマ、けっこう誤解されている方も多いのですが、弁護士の話し方に特殊な方法がないのと同様、説得の仕方についても、弁護士に特段のスキルやテクニックがあるわけではありません。

 

私の過去の経験で雑多に書いてみます。私が弁護士になった当初、上坂明弁護士のもとでイソ弁(雇われ弁護士)をやっていたころの、ある相談者の話です。

大先生が出るまでもないということで私が担当しましたが、見るからにチンピラのような風貌の人で、相談内容は、借家の立退きにからんで立退き料がほしい、といったことでした。

事案からして、立退き料はゼロか、よくてせいぜい100万円くらいと私は考えたのですが、チンピラがいうには「最低でも500万円は取ってほしい」と。私が「それは明らかに無理ですよ」と答えると、チンピラは「上坂先生は殺人罪を無罪にしたことがあるんでしょう? それを見こんで来たんですよ」と言いました。

 

たしかに上坂先生は、過去に2、3件ほど、殺人罪で起訴された被告人を無罪にしたことがあります。このチンピラはたぶん、上坂先生が、検事や裁判官を言い負かしたり、被害者の遺族を恫喝したりして、黒を白と言いくるめたとでも理解しているのでしょう。それなら、ゼロ円の立退き料を500万円にすることはわけもないと。

ヤクザならともかく、弁護士はもちろん、そのような解決方法を取りません。上坂先生がどのようにして無罪を取ったかというと、例えば以下のような話を聞いています。

ある被告人が、夜間、A地点で被害者を殺害し、B地点まで運んで遺棄したと疑われている。上坂先生は、知り合いの弁護士に「死体」の役を頼んで、同じ場所で同じ時間に、それを再現してみたわけです。結果、A地点とB地点の間の距離や地形からして、被告人が遺体を運ぶのは物理的にほぼ不可能であることがわかった。そうしたあたりから、検察側の主張を突き崩していったとのことです。

弁護士はこのように、事実と異なる主張に対し、それはおかしいでしょうという証拠を出すことによって、自らの主張の正当性を明らかにしていくわけです。事実や証拠を抜きにして、口先だけで相手を丸めこむようなことはしません。

 

ちなみに、上記のチンピラですが、私がこのことを話しても理解しませんでした。

「だったら他の弁護士を探してください」と私はイソ弁の分際で言いましたが、温厚な上坂先生の意向もあって、引き続き私がその人の訴訟を担当することになりました。結果としては、調停やら裁判やらの末に、相手の譲歩もあり、100万円くらいの立退き料を払ってもらい、それでチンピラも満足しました。

言って分からない人には、「ではあなたの言うとおりにやってみましょう」ということで長い裁判をして、その人が疲れてきたころに「このへんで手を打っときませんか」と当初予定のとおりに話をまとめる。これは私がたまに使うやり方です。「説得の仕方」といえるかどうかはわかりません。

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