ハワイ道中記2015 その2

続き。「日本改造計画」を書いた小沢一郎はその後、政界での影響力をすっかりなくしましたが、アメリカ流の規制緩和、自己責任、自由競争を重視するという考え方は、今でも日本の政策に反映され続けています。

私にとって身近なところでは「司法改革」がそれで、ちょうど私が弁護士になって以降、小泉内閣あたりで盛んに言われ始めたと記憶しています。
簡単に言うとこういうことです。
日本社会はこれまで、国民の経済活動に対し、官僚(公務員)が事前にいろんな規制をかけ指導してきた。それは望ましいことではないので、今後は事前の規制はどんどん緩和していく。もし何か問題が生じたら、その段階で裁判所が白黒つければ良い。だから今後は司法の役割が増加し、弁護士の数も大幅に増やさなければならない、と。

司法改革とその成果について語るのは本題でないので省きますが、結果として、現在、私が弁護士になった平成12年(2000年)に比べて、弁護士の数はずいぶん増えました。しかし、裁判の件数が増えたかというと、統計上、明らかに減少しているそうです。
「事前の規制はしない、何かあったら事後的に裁判で白黒つける」という社会には、明らかになっていないのです。

このことに絡んで最近の例を挙げると(ハワイの話とどんどん離れてますがすみません)、五輪エンブレムの問題があります。

ある日本のデザイナーが作ったエンブレムが、ベルギーのリエージュ劇場とかいうところのマークに似ていると言われ、そのベルギーのデザイナーが自国の裁判所にエンブレムの使用差止めを求めて提訴したそうです。
司法改革の考え方をここに押し広げると、事前のチェックはザルでも良い、誰かがイチャモンをつけてきたら、エンブレムを使ってよいかどうかは裁判所に白黒つけてもらったら良い、ということになりそうです。

ちなみにこの問題を裁判所が判断したらどうなるかというと、ベルギーの商標法は知りませんが、日本の裁判所はエンブレムの使用差止めなど認めないでしょう。
ものすごくざっくり説明しますと、リエージュ劇場のマークはそもそも、商標登録されているわけでもないそうです。知名度があるマークなら不正競争防止法違反なども成立しますが、あのマークに大して知名度があるわけでもない。
不正競争というのは、著明なブランドイメージを誰かがマネて、そのブランドイメージにただ乗りして商売しようとするときに生じます。リエージュ劇場と東京オリンピックは商売の内容が全く違うし、今回のエンブレムを見て、「リエージュ劇場のマークと似ている」という人はいるかも知れませんが、「ああ東京オリンピックはリエージュ劇場が主催しているのか、じゃあ信用できるから見に行こう」とまでいう人は皆無でしょう。その程度だと不正競争にあたらないのです。

だからこの件、事後的に裁判所で白黒つけるとしたら、何の問題もなかったはずです。
しかし実際には、日本の内部からも、事前のチェックはどうなってたんだ、日本の恥だ、などという声が多く聞かれました。そして最終的には、誰が判断したかは知りませんが、エンブレムの撤回に至ったのはご存じのとおりです。
かように日本人は、大多数の国民と、そしてオリンピック委員会あたりの偉い人も、事前規制を重視し、事後の裁判など望ましくないと考えるのであって、政府のかけ声だけでそこが変わるわけではないのです。

次回に続く。次回はもう少しハワイの話をおり交ぜます。

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