「選挙無効」は名判決か

裁判所は「一票の格差」が違憲だと言っても選挙は無効にしない、と書いたら、とたんに広島高裁が無効判決を出しました。これは日本国憲法下における裁判所で初の判断で、画期的なことには間違いありません。少し解説します。

 

そもそも、裁判所が、すでに行われた選挙が無効だなどと言えるのか。

有権者が皆して投票に行った結果を一握りの裁判官がひっくり返してよいのか、というと、最高裁の立場は「イエス」です。

憲法98条には、この憲法に違反する法律や国の行為は効力を有しない、と定められています。公職選挙法に定められた選挙区の区割りの上で、投票価値の不平等が生じている場合(その意味は前回書いたとおり)、その選挙区割りと、それに基づいて国が行なった選挙は効力を有しない、という理屈です。

 

次に、無効になるのは、一部の投票価値が不平等な選挙区に限られるのか、区割り自体が根本的に間違っているのだからすべての選挙区を無効にするのか、という問題がありますが、これはややこしいので省略します。

広島高裁は、広島1区・2区だけ違憲無効と言いました。

 

もっとも、これまで、裁判所は、違憲だけど無効にしない、という判断を繰り返してきました。

前回書いた、事情判決というものです。これは、行政事件訴訟法という法律の31条にきちんと規定があるのですが、公職選挙法219条で、事情判決の条文は適用しない、と明記されています。つまり、選挙関係の裁判で、事情判決を出してはいけない、と法律に書いてあるのです。

この点、最高裁は、事情判決の条文を適用するのではない、「事情判決の法理」を適用して、選挙は無効にしないんだ、と言ってきました。「法理」の部分は、趣旨、意図、精神、気持ち、スピリッツ、ソウルと読み替えてもらっても構いません。

混乱を生じさせたくないという最高裁なりの苦肉の策だと思いますが、何となく、「ヘリクツ」の印象を免れません。

最高裁がこういったのは昭和51年のことです。これは間違いなく、「今回は無効とまでは言わないけど、早く選挙区割りを改定して、投票価値の平等を実現させなさいよ」という、国会に対するメッセージだったわけです。

 

それが長年放置されて、今回ついに、最高裁の子分である広島高裁が「無効」と言ったわけです。

では広島1区・2区ではすぐ選挙やり直しかというと、「一定期間内に是正しなければ無効」ということで、今年の11月27日までの間に、選挙区を是正しなさいと言いました。そうしなければいよいよ無効にすると。

これは憲法の教科書などでは、将来に無効の効果が出るということで「将来効判決」などと呼ばれますが、果たして裁判所がそんな判決を出せるかどうかは議論があります。

裁判所は、合憲ならそのまま有効、違憲なら直ちに無効、と判断すべきなのであって、「一定期間放置すると無効となる」という宣言を出すことが可能なのか。広島高裁は「司法権の行使の方法のあり方として許される」と言っていますが、「事情判決の法理」と同じで、法的根拠はないのです。

 

理論面だけでなく実際的なところでも、今年の11月27日が来て、「はい、アウトです、選挙やり直し」または「ちゃんと改正したから許してあげます」という判断を、誰がどういう手続きで行うのか。これは極めて重要な問題のはずなのですが、法律に定められていない。

 

国会の怠慢に対する司法権の怒り、そして戦後初の判断を下した広島高裁の裁判官の覚悟のほどは、私もひしひしと感じるのですが、今後どういう手続きになるの?ということを考えると不明な点が多いです。

そういう意味で、今回の広島高裁の判決は、従来の最高裁のメッセージを一歩強めるということに主眼を置いた、いわば大岡裁き的な判決であったのかも知れません。

最高裁での最終的な判断が待たれます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA