尖閣問題備忘録 補遺2

前回の続き。

日本人が尖閣諸島に上陸したことについて、軽犯罪法違反の疑いがあるということで、沖縄県警が事情聴取を行なったとのことです。結果的に、立件はされない方向で終結するようですが、このことについて少し触れます。

 

軽犯罪法の条文にあたるかというと、使えそうなものは、第1条第32号の「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者」くらいしか見当たりません。

これは「田畑」が例として挙げられていることから分かるように、せいぜい、スイカ泥棒あたりを想定したような条文であるとしか思えません。

軽犯罪法は他に、空き家に侵入した(同1号)、乞食行為をした(22号)、風呂や更衣室を覗いた(23号)、公道で痰を吐いたり、立小便をしたりした(26号)などに適用されます。ちょっとした秩序を乱す行為を、広く浅く処罰するというイメージです。

ちなみに刑罰は、拘留(30日未満)または科料(1万円未満)と、かなり軽く定められています。とはいえ、これも立派な犯罪であり、警察がその気になれば、ちょっとしたことでもすぐに「軽犯罪法違反で現行犯逮捕だ」と言ってパクってしまうことが可能になる。

軽犯罪法第4条には、それを懸念して、「この法律の適用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用することがあってはならない」と明記されています。

 

したがって、本来はスイカ泥棒などに軽くお灸をすえるために存在する条文を、尖閣に行った日本人に適用しようというのは、明らかに適用されるべき場面が違うものであり、そこには「他の目的」、つまり対中関係の配慮という政治目的があるとしか考えられない。つまり軽犯罪法4条の趣旨を害するものです。

それに、日本人に対して軽犯罪法が適用できるのであれば、中国人に対して「犯罪は成立しない、だから入国管理法に則り強制送還した」という日本政府の立場に明らかに矛盾することになります。

さすがに、日本人に対してのみ軽犯罪法を適用するという、国内的にも対外的にも笑われるような法律の解釈適用は踏みとどまったようですが、それでも、中国人に対しては軽犯罪法の適用すら問題とされなかったのであり、この顛末には釈然としないものが残ります。


ひとまず、備忘録としては以上で終わります。職業柄、どうしても条文上の根拠が気になって、長々と書いてしまいました。

あと、個人的には、今回尖閣に上陸した日本人の気持ちはわからなくもないですが、今それをしてどうなるんだろうか、というのが正直な感想です。法律家としては、有事法制をきちんと確立して、小舟でなくて自衛艦を堂々と派遣すべきであると考えます。

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