出荷制限の責任を取るのは誰か

前回、災害時の「緊急事態宣言」の意味や効果について、ごく大ざっぱなことを書きましたが、これに関して新たな動きがありました。

菅総理が、福島など4県で取れた牛乳やホウレンソウを「出荷制限」する指示を出したとのことです(22日各紙朝刊)。これは、前回にも紹介した「原子力災害特別措置法」(以下「措置法」)に基づくものです。

テレビを見ていますと、枝野官房長官が記者会見で、措置法の「第20条3項に基づき」と発言していました。
この条文は、要約すれば「原子力災害対策本部長(現在、菅総理)は、応急対策の実施のため必要なときは、行政各部や地方公共団体(今回の場合は4県の知事)に対し、必要な指示ができる」というものです。

応急対策の内容としては、措置法26条に「原子力災害の拡大防止を図るための措置」などと掲げられていて、これらが法的根拠になるようです。

細かな話ですが、注意していただきたいのは、総理大臣が個々の農家や牧場主に、直接に出荷禁止を命じたわけではなく(それを認める法律はない)、あくまで知事に対して「必要な指示」をしたという点です。
ですから、農家に出荷禁止を直接命じるのは知事です(知事がどういう法的根拠でそんな命令ができるか、まだきちんと調べていませんが)。

報道では「放射能は問題ないレベル」と繰り返されていますが、現在のホウレンソウや牛乳の在庫は廃棄処分になるでしょうし、風評被害は当分回復できないでしょう。

後日、その責任を誰が取るのかが問題になったとき、菅総理が措置法の論理を悪用して「私は『応急対策』をせよと指示しただけであって、出荷制限は私ではなく知事が命じたのだ」と言う可能性がなくはないと思いますが、そのような言い訳を許してはいけません。

菅政権にはすでに前科があります。
尖閣諸島に不法上陸した中国人船長がおとがめなしで釈放された一件では、間違いなく政府の有形無形の圧力がかかっているはずですが、当時の仙谷官房長官は「那覇地検の判断を尊重する」と言ったきり黙ってしまった。このことは皆さんの記憶に新しいと思います。

今回の一連の対応についての責任は、緊急事態宣言をし、対策本部長に就任した菅総理にあるというのは、前回書いたとおりです。
とはいえ、菅総理が「責任取って総理をやめます」と言ったところで、農家の方々の売上げ減少という現実の被害が解消されるわけではない。

これらの金銭的被害の賠償については、「原子力損害の賠償に関する法律」という法律があり、これによると原子力事業者(東京電力)に賠償責任があります。ただし、その第3条では「異常に巨大な天災地変」などにより発生した損害は賠償の対象外とされており、今回の地震はこれにあたるように思われます。

それでも、出荷制限は国(具体的には菅総理)の指示に基づいて行なわれたわけですから、憲法に基づいて(詳細は省略しますが17条の国家賠償請求権や29条3項の補償規定)、何らかの手当てが行なわれるのでしょう。

「緊急事態」とはいかなる事態か

引き続き、地震関連の話を書きます。

被災者の安否や、原子炉の状況など、現状が気になる事柄が多々ありますが、残念ながら私にはどうすることもできないので、ここでは、今回の震災に対する法律面での現状を書いてみたいと思います。

菅総理が「緊急事態」を宣言したと報道されていますが、これは何を意味するのか。
もちろん、単に「えらいことになった」と言っているだけではなくて、法律の根拠に基づく宣言です。

災害時の緊急事態宣言とは、前回紹介した、「災害対策基本法」と、「原子力災害対策特別措置法」に規定があります。長いので以下、「基本法」と「措置法」と略します。

基本法105条によると、「異常かつ激甚」な非常災害が発生したとき、総理大臣は「災害緊急事態」の宣言をします。これが行なわれると、内閣の命令(政令といいます)によって、物資の流通や価格を統制できることになります。

今回のケースであてはめると、「水や食料などの生活必需品を東北の被災地に集中させ、被災していない西日本では一定数量以上は販売してはいけない」とか、
「水の価格の高騰を防ぐため、ペットボトルの水は1リットルあたり150円を超える金額で販売してはいけない」といったことを、菅総理が流通業者に命令で
きることになります。

本来は、業者がどんな商品を、どこでいくらで販売するかといったことは、「営業の自由」(憲法22条)であって、総理大臣でも口出しできることではない。
ですから緊急事態とは、国家の危難を回避するため、総理大臣に一時的に極めて強力な命令権を与え、本来であれば許されないような権限行使をさせることを意味するのです。

ただ、今のところ、ここまで強い意味での緊急事態宣言は発せられていないようです。
内閣府のホームページによりますと、いま発せられているのは、措置法15条による「原子力緊急事態宣言」のようです。

これは、測定される放射線量が異常なものとなった場合などに出されるものです。
これが行なわれると、総理大臣は、避難勧告、さらには避難命令(条文には「指示」と書かれています)を行なえるようになる。報道されているとおり、現に原発周辺の住民に対して避難命令が出ているようです。

これにしても、本来であれば、住み慣れた自分の家を捨てて30キロ先に避難しなさいなどと、総理に言われる筋合いはない。緊急事態だから例外的に、総理に国民の居住場所を指示する権限を与えるわけです。

いずれにせよ、強い権限には重い責任が伴います。
菅総理が原子力緊急事態宣言をしたということは、この度の原発事故について自ら強い権限を行使し、その結果責任のすべてを自ら負うと宣言したことを意味します。

民主党そして菅総理のことなので、そのことの意味が「わかっていなかった」などと言いだす懸念がなくはないですが、今はひとまず、菅総理の権限行使を見守るしかないでしょう。