店名公表に見る特措法の限界について

● 店名公表とその結果

4月24日(金)、大阪府の吉村知事は、大阪府内のパチンコ店6軒に対し、個別に閉店の要請を出したと、明らかにしました。コロナ特措法45条2項と4項に基づく措置です。

まずは24条9号でパチンコ店全体に対する休業の要請を出し、従わない人に個別に電話や訪問等で休業の指導をし、それに従わなかったために45条2項に基づく個別の休業要請をし、同4項でその旨を公表した、ということになります。

個別の条文の解説は、4月22日の記事をご覧ください。

私がこの記事を書いたとき、念頭にあったのは、私が日ごろお世話になっている店、たとえば個人経営の小さなバーや居酒屋などです。そういう店には、よっぽどのことがない限り、個別的要請や店名公表まで行かないだろうということを伝えたくて書きました。

パチンコ店に休業要請と店名公表をしたことで、私自身、思いもしていなかった結果となりました。ご存じのとおり、一部の店舗は、店名公表を受けてなお、営業を継続した。その営業中の店舗には、その情報を聞きつけて、むしろ客が殺到した。

店名公表という判断は正しかったのか。新聞やネットを見る限り、いろんな立場の人から、いろんな意見が出ていますが、私としては法律家の立場から、以下の一点を指摘します。

つまり、コロナ特措法は、営業自粛の要請に対して、店名公表までしかできないということです。

大半の事業主は、店名公表などとは不名誉なことであり、商売あがったりになるのでそれを避けようとする。しかし、店名公表をものともしない店主と多数の客が存在した場合、その店が現に営業を続け、客が群がったとしても、何もできないわけです。

このことは、コロナ特措法の限界として、すでに指摘したとおりですが(4月6日の記事)、早くもその顕著な実例が明らかとなったわけです。

これを根本的に解決するには、コロナ特措法を改正し、従わない人に対する罰則を定めるなどする必要があります。現行法は、「本当に開き直った人に対して何もできない」仕組になっているのです。

● 現行法で何ができるか

今回の事態について、私が指摘したいのは上記の点(コロナ特措法の限界)につきるわけなのですが、あえて、現行法下で、何かできるのか、検討してみます。

たとえば、パチンコ店の営業許可は都道府県の公安委員会が出すわけですが、公安委員会が営業許可を取り消すことができるか。

これは、公安委員会が定める基準(建物の広さや防音設備など諸々)を満たしていないなどの事情があれば別ですが、知事の要請に従わなかったとの理由で免許を取り消すのは無理と思われます。

むしろ、行政手続法32条2項に「行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない」と定められてあり(大阪府行政手続条例30条2項も同趣旨)、それに反するおそれがある。免許取消を行政訴訟で争われると公安委員会側が敗訴する可能性が高いと思います。

あと、ネット上で拾った面白い意見としては、パチンコ店の前の道路の工事を開始して客が入れないようにする、というのもありました。店の前を府道か市道が走っているだろうから大阪府か大阪市の権限で工事を開始するというものですが、これも同様に「不利益な取り扱い」ということになるでしょう。

結局、営業を続けるパチンコ店に対して、法的には、これ以上にできることはなさそうです。

ちなみに、店名公表された6店のうち、2店は閉店したが、残る4店にも抗議の電話などが続き、さらに1店が閉鎖した、という話を聞きました。

さすがにそれを吉村知事が意図したとは思えませんが、法律で及ばないところを、私人相互での監視や抗議といった圧力で補わせるというのは、およそ近代の法治国家においてあってはならないことです。

● 多少の雑感

ここからは、法律の解釈論を離れた私の感想です。

店名公表の措置は、パチンコ店にむしろ客が群がってしまったわけで、人の密集を回避するという意味では失敗に終わったと言わざるを得ません。

営業をやめないパチンコ店を見て、私自身は弁護士だから「法的にはそれ以上できません」と言えば済む。でも吉村知事は行政のトップだから、引き続き対処を求められることになるでしょう。

これまで、橋下氏以降、松井市長・吉村知事といった維新の人たちは、既成の権威・権力を批判し否定することで大衆的な人気を勝ちとってきたわけですが、今回、パチンコ店に群がる大衆を、どう統御するのかという困難な問題に行き当たったように思えます。

松井市長と吉村知事は、そのあたりはたくみに「国はこれまでギャンブル依存症の対策をしてこなかった」と言い出し、抽象的に「国」に責任の所在があるかのように言い始めました。

もちろん、ギャンブル依存症対策を今から始めたとして、毎日のようにパチンコ店に人が群がる問題を解決できるわけではないので、何かのせいにするのでなく、現状に対していかなる対処をするのか、その見識と手腕が試されることになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA