新型コロナ 緊急事態宣言で何が変わるか

ずいぶん久々の更新になります。

新型コロナウィルス感染に絡んで、政府が緊急事態宣言を出すかも知れないと報道されています。

これまでにも、東京や大阪の都市部で、知事から外出自粛の要請が出されたりしていましたが、緊急事態宣言が出るとどういうことになり、これまでとどう違うのか、まとめてみたいと思います。

弁護士という職業がら、何でも「法的根拠」が気になるのですが、まず、緊急事態宣言の根拠となる法律は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」という、平成24年にできた法律です。その付則に最近、この法律は新型コロナにも適用すると定められました。

で、政府は、新型コロナが蔓延するおそれがある場合、期間と地域を決めた上で、緊急事態宣言を出すことができ、そのために地方自治体に必要な指示をすることができます(32条)。

そうなると、その地方ではどんなことができるようになるか。以下、重要と思われるものを挙げてみます。

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1 自宅待機の要請

まず身近なところでは自宅待機が挙げられます。

知事は、住民に対し、生活維持に必要な活動を除いて、不必要な外出を避けて自宅待機することを要請できる(45条1項)。

要請とはつまり「お願い」です。このように、我々住民に対しては、緊急事態宣言が出ても、結局「お願い」しかできないのです。

では、すでに東京や大阪の知事がやっている週末の自宅待機要請と何が違うのかというと、法的効果としては変わりはありません。ただ、現在は、知事が法的根拠なく「単なるお願い」をしているにすぎないのが「政府による緊急事態宣言に基づく、法的根拠を伴うお願い」になったという、心理的な重みだけが違うということになります。

では、これに反して、必要もないのに遊びに出かけると処罰されるのかというと、要請の違反者に対する処罰規定はないから、一部の外国みたいに罰せられることはありません。

また、いまよく言われている、都市封鎖、ロックダウンができるのかというと、この法律を読む限り、それを認めるような条文はなさそうです。

2 施設の利用制限

知事は、学校、社会福祉施設、興行場(映画館など)、さらに政令で定める「多数の者が利用する施設」を、使用しないよう要請することができ(2項)、その要請に従わない施設に対して使用しないよう指示ができる(3項)。

これも「要請」にすぎず、要請に従わない場合は「指示」ができるだけです。指示といっても、命令ではないので、従わない場合の罰則はありません。

とはいえ、公的な施設であれば、政府や知事の要請や指示に従わないことはないと思うので、罰則がなくても支障はないでしょう。

では、いまよく話題に出てくる、ナイトクラブやバーなど、夜のお店は規制対象になるかというと、条文には書かれていない。

しかし、対象となる施設はそれ以外にも「政令」つまり内閣の一存で決めることができるので、規制対象に付け加えることはできそうです。

(具体的には、政令としては新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令が定められており、その11条によるとナイトクラブは含まれますが、バーは明記されていません。このあたりは改めて整理したいと思います。以上4月22日追記。同日の記事はこちら。)

この規制に対して、店主が従わずに営業を続けたらどうなるか。上に述べたとおり、要請や指示だから強制力や罰則はありません。

もっとも、そういうことをすれば、社会的にも非難されるし、役所にも睨まれる。役所に睨まれると、何かのきっかけで風営法や飲食業の免許を取り消されたりすることがあるのではないかと想像します。だから、お店側も従わないわけには行かないでしょう。

そうなると、お店側としては売上げ激減で死活問題になる。これに対し、何らかの補償がされるのかというと、条文上はそんな定めはない。

なので、もし政令で夜のお店(に限らず、広く個人商店全般)に閉店を要請・指示するのだとすれば、別途、政治判断で手厚い補償が定められるべきでしょう。

(注:東京都や大阪府では今後、営業自粛に応じた業者への補償が進められるようです。4月16日付記)

3 土地・建物の使用

知事は、臨時の医療施設を作るために、土地・建物の所有者の同意を得て、その土地・建物を使用することができる(49条1項)。所有者が正当な理由なくこれに応じない場合は、同意なしに使用することもできる(2項)。

これは、病院を作るために、場合によっては土地・建物をその使用者から取り上げることができるという制度ですから、相当に強い規定です。

なので、所有者に対しては相当の補償をしなければならないと定められています(62条1項)。

いまのところ、一部のホテル業者が任意で協力に応じているようですから、これが実際に発動されることは当分ないのではないかと思います。

4 物資の売渡しの要請

知事は、医薬品、食品などの必要物資の生産・販売業者等に対し、それらの物資を引き渡すよう求めることができる(55条1項)。さらに、業者がその要請に応じない場合は、収用することができる(2項)。

これは、薬、マスクや食品を売り渋ったり、それによって値段を吊り上げたりしようとする人がいた場合の対策です。

収用とは取り上げることを意味しますが、この場合も、その価格相当分を補償してやる必要があります(62条1項)。

この要請に反して、それらの物資を隠匿したりすると、罰則があります(76条1項、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)。この状況で必要物資をなお隠匿するような業者は処罰されてもやむを得ないかと思われます。

5 生活関連物資の価格の安定

知事は、生活関連物資等の物価の安定のために、必要な措置を行うことができる(59条)。

少し前に、マスクを高値で転売すると処罰される、と定められましたが、それは、直接にはこの条文に基づくものではなくて、国民生活緊急安定措置法という別の法律によります。

その26条1項に、政令で物資の売買について定めることができる、と規定されており、それでマスクの売買について政令で取締り規定を設けたものです。

緊急事態宣言下では、知事が、他の物資にも今後同様の問題が生じた際、政府に適宜政令を出すよう求めていくことになるのでしょう。

6 債務の支払猶予

内閣は、国会閉会中のときは、政令をもって、金銭の支払に猶予を与えることができる(58条)。いわゆるモラトリアムというやつです。

経済が回らないことで、たとえば、テナントの賃料、売掛金、家のローンなど、資金繰りに困る人たちがたくさん出てくると思いますが、政府がその支払の猶予を求めることができるわけです。

ただ、個々の住民の生活に直接関連が深いことから、給料の支払については猶予を与えることはできない、とされています。だから、会社が従業員に対して、今月の給料は待っといてや、と言うことはできません。

とはいえ、それ以外の支払でも、払ってもらう側としては切実な問題ですから、その支払が得られないことで経営難が生ずることも予想されます。これは緊急融資等、その他の制度で手当てすることになるでしょう。

ちなみに、昭和36年にできた災害対策基本法にも同じようなモラトリアム制度がありました。

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以上、ざっとまとめましたが、個々の住民の行動については、そんなに劇的な影響はなく、罰則を伴う移動制限が行われるわけではない。

施設の使用制限が政令によって広く認められ、それが夜のお店を始め、中小零細商店にまで及んでしまうと、経済的な影響は不可避だと思われますが、その場合は、政府において、モラトリアムを適用し、他の経済対策を打ち出すなどをセットにして、経済を支えてもらいたいと思います。

なお、以上の解説はあくまで、私がこの法律の条文をざっと読んで理解したことに基づいて書いています。何らかの参考文献を参照したわけではありません。

おおまかなところは合っていると思いますが、細かくなりすぎないよう、あえて大ざっぱに書いている部分もありますし、もしかしたら不正確な部分があるかも知れませんので、ご了承ください。

あと、余力と時間があれば、新型インフル対策法と、災害対策基本法と、日本国憲法の関係について、追って書きたいと思います。

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