死刑は合憲か~土本教授の証言から

大阪地裁での裁判員裁判で、死刑制度の合憲性について議論されているそうです。大阪市此花区のパチンコ店での放火殺人事件に関してです。

最高裁は一貫して、死刑は合憲であり、憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」にあたらない、としています。今回の裁判員裁判でも、死刑は違憲だから廃止すべきだという結論に至ることは、まず考えられません。ただ、この問題について主権者たる国民がじかに議論に加わることの意味は大きいでしょう。

 

抽象的なレベルにおいては「人を殺したヤツは当然死刑でいいじゃないか」と、おそらく多くの人は考えるでしょう。

さらに、むごたらしい犯罪が行なわれたような場合、死刑でも生ぬるい、そいつがやったことと同じやり方(今回のケースなら火あぶり)で殺せ、という人もいる(これは感情論としてはともかく、近代国家では採用しえない暴論です。同じやり方で刑罰を与えるとなれば、たとえば交通事故を起こした人は保険金を払って償うということが許されず、同じように車でひかれることになります。それで良いと考える人はいないでしょう。被害者だって何の得にもなりません。長いカッコですみません)。

 

話を本筋に戻すと、今や誰もが裁判員になって、具体的事件において、目の前にいる被告人に対し、死刑の宣告に関わる可能性がある(しかも、その事件は冤罪で、その被告人は無実かも知れない)。その上でなお、私たち一人ひとりの選択として、死刑制度を残してよいと考えるか。死刑の実態を踏まえて、身近な問題として考えなおすことは意義深いと思うのです。

 

さて、この大阪地裁の公判において、元最高検察庁の検事であり、筑波大学名誉教授の土本武司氏が証人として出廷しました。私が筑波大学にいたころ、土本氏は現役の教授で、私は刑法総論と刑事訴訟法をこの人の講義で学びました。

刑法や刑事訴訟法の学者といえば、リベラル、反権力、人権重視な人が多い中、土本教授は検事出身なだけあって、どちらかといえば警察側・検察側の視点での論理を展開する方であったと思います。ですから、その土本教授が「弁護側の証人」として出廷すると知り、私は驚きました。

報道によれば、12日の法廷で土本教授は、検事時代に死刑執行に立ち会った経験などに基づいて、死刑は憲法の禁じる残虐な刑罰に限りなく近い、と証言したそうです。

日本での死刑(絞首刑)の方法については、ものの本には書いてありますし、私も学生時代に土本教授からその「立ち会った」ときの話を聞いたことがあります。いちいち書きませんが、興味があればネットで調べられるでしょう。土本教授は現行の死刑執行の様子を「正視にたえない」とも証言したとか。

 

かといって土本教授は「死刑廃止論者」でなく、明確に「死刑存置論者」であると自認しています。土本教授が書いた刑法の教科書(「刑法読本 総論」信山社、平成3年)にも、「これ(死刑)を全廃するには国民的コンセンサスが得られていない状況にあります」と述べられています。

しかし、抽象的レベルにおいて「悪いヤツは吊るせ、殺せ」ということと、死刑の実態や問題点をよくよく踏まえた上で「それでもなお死刑制度を支持する」ということの間には、大きな違いがあります。土本教授が証言したのも、国民個々人が死刑制度について「理解した上での選択」ができるよう、そのきっかけを作るためであると思われます。

朝霞市の公務員宿舎建設凍結について、モンテスキューはどう言っているか

適当なタイトルをつけましたが、言うまでもなく、モンテスキューは故人ですので、何も言っていません。

 

埼玉県朝霞市の国家公務員宿舎建設に関して、政府の対応が二転三転したあげく、当面は凍結するということで落ち着いたのは、報道されたとおりです。この結論に関しては感想もいろいろでしょうけど、個人的には、建設反対を唱える一部の世論に対して、何となく違和感を覚えました。

新聞やテレビでよく聞かれたのは、建設費に105億円かかることを捉えて、そんなお金があるなら東北の復興にまわすべきだという意見です。

しかしそういった考え方は、たとえばちょっと利口な子供が、日本でたくさん余っている食べ物をアフリカの貧しい人たちに送ってあげたいなあ、と思うのと同じレベルの話だと思うのです。そう考えること自体は心優しいことであるとは思うけど、実際にはそんな単純に解決する問題ではないのです。

 

公務員宿舎の問題でも、建設を凍結して105億円が浮いたとして(業者への違約金などで実際はもっと減るでしょうけど)、それが直ちにそのまま、東北への復興予算として回るはずがない。国会での予算審議を経なければならないからです。

仮にそのまま105億円を回したところで、東北での震災被害の回復が、その程度のお金で賄えるはずがないのです。

東北復興に105億円を回せ、と言っている人だって、おそらくそれくらいは分かっていると思います。ならば東北が復興するまで、それ以外の地域では一切の公共事業や社会保障を停止せよ、と言うのであればまだ筋は通っていると思いますが、たぶんそこまで言う人はいないでしょう。

結局、公務員宿舎建設反対という人の多くは、公務員が優遇されるのはとにかく腹が立つ、というのが理由なのだと思います。もちろん、そういう意見はあって当然だと思うのですが、それを東北復興などというもっともらしい理屈にかこつけて主張しようというところに、違和感を禁じ得ません。

 

ごく最近、「法の精神」でモンテスキューがこう書いているのを見て、この違和感はまさにこういうことだな、と思いました。すなわち、

「執行権力に最も強く反対する人々は、その反対の利己的な動機を告白できないから、それだけなおいっそう民衆の恐怖をかきたてる」(19編27章、要約)

つまり、行政のやろうとすることに反対する勢力は、真の動機(この場合、公務員優遇は腹が立つ、ということ)を言わずに、そんなことに無駄ガネを使うと大変な問題が起こるぞ(この場合、東北の復興が遅れるぞ)、と喧伝するわけです。

 

こういう扇動や喧伝は、世の中にたくさんあると思いますが、そういうものに乗せられないためには、あることを反対し否定することで(本件の場合は、公務員宿舎建設を凍結することで)、その問題(東北復興の遅れ)が本当に回避できるのかどうか、慎重に吟味すべきでしょう。

モンテスキューは上記の記述の直後に、権力分立制や代表民主制が確立している社会では、そのあたりはきちんと吟味されることになる、とは書いているのですが、特に近年の政府は世論に乗せられすぎであると思われます。今回の建設凍結が、本当に慎重な検討吟味の結果があればよいのですが。

小沢被告の初公判に見る「議論の方法」について

仕事がら、法廷の場やその他いろんなところで、議論や論争をすることがありますが、弁護士として私が心がけているのは、具体的な事実を、誰にでもわかる平易な言葉で、冷静に示す、ということです。私だけでなく、多くの弁護士がそうでしょう。

その正反対のやり方が、抽象的な事柄を、ひとりよがりのやり方で、声高に示す、という方法です。こういう議論のやり方は弁護士としては下の下であり、訴訟相手がこういう主張をしてきたら、追い詰められて苦し紛れに言っていると見てよい。

そんなことを、今回の小沢一郎被告の裁判に関する報道を見て、改めて思いました。

 

小沢被告は、起訴されたことについて、民主主義国家としてありえないことだとか、日本の憲政史上の一大汚点だと述べ、裁判を打ち切るべきだ、とまで言ったようです。公判のあとの記者会見では、質問した記者に「もうちょっと勉強してから質問しなさい」と言っていました。

何億円ものお金を受け取って帳簿に記載してなかったのはどうしてなの? という単純な問題を、民主主義とか憲政とかいう抽象的で大上段の問題にすりかえているのです。それに対して疑問を呈する者には、「あなたのほうが不勉強だ」と言って煙にまいてしまう。

小沢被告に限らず、こういう議論の仕方をしてくる人は結構います。民事事件に介入してくるヤクザ崩れの人もそうだし、痴話ゲンカのときに女性が「あなたには私の気持ちがわかっていないのよ」と言うのも同じようなことです。

 

それはともかく、小沢被告が有罪であるか無罪であるかは、それこそ今後の冷静な審理を経て判断されることです。しかし、今回の起訴を受けて小沢被告が言っていることに関して言えば、すべて間違っています。

まず何より、小沢被告は民主主義に則って起訴されているのです。検察官が不起訴とした事件を、国民から選ばれる検察審査会が起訴すべきだと議決したのであって、まさに民主主義です。

検察審査会がそこまでの権限を持つようになったのは近年の法改正によるものですが、それにあたっては当然、国会で刑事訴訟法や検察審査会法の改正が審議され、小沢被告はじめ民主党も改正に賛成しているはずなのです。

(私は個人的には検察審査会にそこまで権限を持たせるのは疑問と思っていますが、改正に際してその疑問を呈した人は小沢被告以下、民主党には誰もいなかったはずです)

「憲政史上の一大汚点」という言葉もまさに噴飯もので、憲法に基づく政治状況の下でこうした法改正がされ、今回の起訴となったのです。小沢被告の言うように裁判を打ち切れば、それこそ、立憲政治とそして司法の一大汚点となります。

 

小沢被告の件に限らず、抽象的なことを声高に話す人、「あなたはわかっていないからきちんと勉強しろ」という人は、それ自体うたがってかかってよいです。一見、何か正しいことを言っているように見えて、よく考えてみると、全く無内容であるか、全くの誤りであることが多いです。

と、ここまで書いたところで、小沢被告が病院に搬送されたというニュースをネットで見ましたが、日本の憲政のためにも、最後までしっかりこの裁判を受けてほしいと思います。

離婚相談4(完) 離婚調停

大阪家庭裁判所 調停室にて。

裁判官「では、申立人である妻・エリカさんと、相手方である夫・ツヨシさんの離婚調停について、本日合意が成立した内容を読み上げます。

エリカさんとツヨシさんは本日をもって調停離婚する。ツヨシさんはエリカさんに対し、慰謝料として金100万円、財産分与として金150万円を支払うこととし、本年10月末日までにエリカさんの口座に振り込む。……」

 

家庭裁判所前の歩道にて。

エリカ「先生、どうもありがとうございました。1回の調停で話がついてホッとしました」

山内「意外に早く終わりましたね」

エリカ「慰謝料はちょっと値切られたかな、という気もしますけど」

山内「まあでも、裁判になれば、例のラブホテルの写真を提出して、ドロ沼みたいな話になったでしょうから、その負担を考えると、合理的な範囲の数字だと思います」

エリカ「そうでしょうね。私の友達でも、夫に資産が全くなくて、1円も取れなかったという人もいるんで、それを思うとずいぶん良かったです」

山内「ご主人、いや、もう『元』ご主人ですけど、それなりに真面目に新聞配達の仕事をしておられたんでしょうね。不倫は感心しませんけど」

 

後ろからバイクのエンジン音。

ツヨシ「おーい、エリカ~」

エリカ「あら、ツヨシ」

ツヨシ「先生、エリカとちょっとしゃべっていいかい?」

山内「構いませんよ。どうぞ」

ツヨシ「エリカには迷惑かけたなって、それだけ謝りたくてな。それと、これからがんばれよ」

エリカ「うん。あなたもがんばって新聞配達してね」

ツヨシ「いや、俺はもう新聞配達をやめることにしたよ」

エリカ「え、これからどうするの?」

ツヨシ「友達のツテで、スペインに行くことにしたんだ」

エリカ「スペインで何するの?」

ツヨシ「パエリア屋を開くんだ。『ハイパー・パエリア・クリエイター』になって、いつか日本に凱旋するよ。エリカもさあ、実家に帰るくらいだったら、しばらく俺の家にいてくれていいぜ。じゃあな」

ドドドド…と遠ざかるハーレーのエンジン音。

山内「……」

エリカ「……」

秋の風。

 

山内「スペイン人が日本に来て寿司屋をやるようなもので、到底うまくいくとは思えないんですけどね…」

エリカ「いつもああいう、地に足のつかないことばかり言ってたんです、彼。でももう、私がとやかく言う立場にもないですし…」

山内「スペインに行く前に、きちんと慰謝料を振り込んでくれればいいんですけどね」

エリカ「もし振り込んでくれなかったら、どうなるんですか」

山内「先ほど裁判官が読み上げた調停条項が、後日、調書になります。これは判決と同じ効力を持つので、お金を払ってくれなければ差押え手続ができます。元ご主人は家を持っておられますから、最悪、その家を差し押さえて競売にかけることになるでしょう」

エリカ「そこまで悪い人じゃないと思うんで、信じて待つことにします」

山内「それともう一つ、今日をもって離婚は成立したことになりますが、市役所にはこのことを届け出る必要があります。調停調書はエリカさんのところに郵送されますから、それを役所の窓口に持参してください」

エリカ「わかりました。手続きは以上ですか。他に何かすべきことはありますか」

山内「別に…。これからは新たな人生をお過ごしください。また新たな幸せをつかまれることを、祈っております」

エリカ「ありがとうございました」

 

(了)

小沢一郎の元秘書、3人の「被告」に有罪

小沢一郎の元秘書ら3人に、政治資金規正法違反で有罪判決(26日、東京地裁)。さかんに報道されたとおりで、特にここで付け加えるほどの話はありませんが、少し触れます。

 

裁判上の争点としては単純で、秘書らが、ゼネコンから億単位のお金を受け取っていながら、それを政治資金として帳簿に記載しなかったことが虚偽記入にあたるか、またそれが秘書らの共謀によるものであるか否かが争われました。

3人の秘書が罪を自白したとされる供述調書が、検察側の威迫や誘導によるものだという理由で証拠として採用されず却下されたという、郵便不正事件で厚労省の村木氏に無罪判決が出たときと似たような経緯をたどりましたが、お金の流れや帳簿の記載などの証拠からして、3人を有罪にしたようです。

 

今後、小沢一郎の裁判が控えていますが、ここでは、小沢一郎が秘書らにそういった虚偽記入を行うよう指示したか否かが問題になるでしょう。

こちらのほうは、検察側がいったん不起訴にしたところ、検察審査会の決議に基づいて起訴された(マスコミのいうところの「強制起訴」)という経緯をたどりました。検察が、有罪かどうか微妙だと思って起訴を見送ったわけですから、どういう結論になるかは予測がつきません。

ただ、民主党の大好きな「国民の目線」で考えると、ボス(小沢)が指示もしないのに、秘書だけの判断で億単位のお金を帳簿に記入しないということは考え難いでしょう。

私も職業柄、お金を預かることは多いですが、事務員は私の指示がないことには1円のお金も動かしませんし、帳簿に載らないようなお金を私に代わって受け取るようなことはありえません。私に限らず、ほとんどの自営業者はそうでしょう。

もっとも、グレーなだけでは有罪にできないのが刑事裁判であり、小沢一郎が「黒」である証拠や証言が出てくるのかどうかが注目されるところです。

 

少し話が変わって、これも以前に書いたことですが、新聞などでは今回有罪になった秘書を「石川被告」などと表現していますが、小沢一郎については、起訴され刑事裁判を受ける立場であるのは同じなのに、「小沢氏」「小沢元代表」と書かれています。

検察審査会の議決に基づく強制起訴の場合、マスコミは「被告」呼ばわりしないのか、とも思っていたら(それもおかしな話ですが)、一方で、JR脱線事故の報道では「JR福知山線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の元社長、井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の3被告の公判前整理手続きの…(以下略)」と「被告」の肩書を使っているものも見受けられます(上記は9月27日の「MSN産経ニュース」から引用)。

結局、小沢一郎に遠慮してるのだな、としか思えない報道ぶりなのです。このようにマスコミは、同じように「刑事被告人」の立場である人に対し、ある人は「被告」と書き、ある人は「氏」と書くのです。このことは、刑事事件報道を見る際に、少し念頭に置いていただきたいと思っています。

なぜ裁判は長い時間がかかるのか、モンテスキューの言葉から考える 2

モンテスキューの話しの続きです。前回、裁判に長く時間がかかる根本的な理由は、個人の自由を守るためである、と書きました。

モンテスキューは「法の精神」の中でこう言っています(第6編・第2章、要約)

自分の財産を返却させるため、あるいは何らかの権利侵害に対し賠償を得るために市民の払う労苦との関係で見れば、裁判の手続きはあまりにわずらわしいと思われるだろう。しかし、市民の自由と安全との関係でみれば、それはむしろ簡易に過ぎると思われるだろう。

裁判に払う労苦、出費、遅滞は、各市民がおのれの自由のために払う対価なのである。

 

モンテスキューは近代の裁判制度との対比として、大昔のトルコでの裁判制度を以下のように紹介しています。

トラブルになった当事者(つまり原告と被告)は、裁判担当の役人のところに出頭すると、役人は双方の話をだいたい聞いて、あとは、その役人が棒を持ちだしてきて、当事者の一方または双方の脚を棒で叩いた上で、家に帰すのだそうです。

モンテスキューが「法の精神」の中で紹介している諸外国の制度の中には、誤解に基づくものも結構あるそうなので、トルコで昔このような裁判が本当に行なわれていたかどうかについては私も知りません。しかし、未開の国では似たようなことが行われていたでしょう。

こうした制度であれば、裁判はその日のうちに終わります。しかし、そんな制度を利用したいと考える人はいないでしょう。人はいつでも、訴える立場になることもあれば、訴えられる立場になることもあります。そのときに、一方または双方が脚を叩かれて終わるという裁判が合理的であるはずがない。

正しい裁きを下そうとすれば、双方の主張と反論を尽くさせて、それを証拠に基づいてきちんと吟味するというプロセスは必須になるのです。

 

と、ここまで説明しても、紛争の当事者は、納得されないことが多いでしょう。

「互いの言い分を時間をかけて聞かないといけないのは、どちらが正しいかが微妙なケースでしょう。私の事件に関していえば、私の言い分が正しいのは明らかではないですか」と、そういうニュアンスのことを言う相談者もしばしばおられます。

しかし、人と人の紛争において、当事者の一方がそのように思っている場合は、まず間違いなく、相手も同じように思っています。

結局、どちらも自分の言い分が正しいと思っているから紛争になる。その際にどちらを勝たせるかを合理的に決めようとすれば、時間がかからざるを得ない。それは裏返してみれば、訴えられる立場になったとしても言い分は充分に聞いてもらえるという安心につながるのです。

現に、現代の日本の裁判でも、刑事事件では冤罪がたまに生じ、民事事件でも、地裁・高裁・最高裁と判断がそれぞれ異なることも多々あります。我々が不当な判決で自由や財産を奪われないためには、裁判制度はまだまだ「簡易にすぎる」というモンテスキューの言葉も、決して誇張ではないように思えます。

離婚相談3 請求すべき内容と請求方法

相談者 エリカ 相談3回目

 

エリカ「今日は夫と私の源泉徴収票を持ってきました」

山内「なるほど、ご主人の年収は200万円、エリカさんは…250万円。エリカさんのほうが多いんですね」

エリカ「この状況で離婚したら、いくらくらい取れるんでしょうか」

山内「まず慰謝料ですが、これは離婚原因を作ったほうが支払います。ご主人の不倫が離婚原因だと認められれば、だいたい200万円前後は払ってもらえることになるでしょう」

エリカ「他に何かあるんですか」

山内「財産分与ですね。これは結婚後、2人で築いてきた財産を分けるという趣旨です。結婚してから、お二人で貯めてきた預貯金はどれくらいありますか」

エリカ「私のお給料は生活費で消えるんですが、主人は300万円くらいは貯めていたと思います」

山内「すると単純に考えて150万円ですね」

エリカ「家はもらえないのですか?」

山内「たしかご主人の両親が買ってくれたってことでしたよね。その場合はあくまで、夫が親からもらったものであって、夫婦で築いた財産とはいえないので、分与の対象になりません」

エリカ「じゃあ、ハーレーのバイクはどうなりますか。あれは結婚後に夫が貯めた給料で買ったんです」

山内「それは分与の対象ですね。ご主人がバイクを取るなら、代わりに、バイクの現在の時価の半額相当を、お金で払ってもらうことになります」

エリカ「今後、どうやって請求していけばいいんですか」

山内「お聞きしている限り、協議離婚は難しそうですから、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てることになるでしょう」

エリカ「そうですか。でも一つ、気になることが」

山内「何ですか」

エリカ「前回のご相談のあと、夫に離婚調停を考えていることを伝えたんです。そしたら夫が、そんなことをしたら友人のスペインの弁護士に依頼して、スペインの裁判所で慰謝料請求の裁判を起こすとか言い出したのですが」

山内「は? よくわかりませんが、ほっておけばよいでしょう」

エリカ「私、スペインで訴えられたらどうなるんでしょう」

山内「どうともなりません。スペインの裁判所で判決が出たところで、日本国内では何の効力もありませんから。安心して日本の家庭裁判所で手続きを進めてください」

エリカ「私も弁護士をつけたほうがいいでしょうか」

山内「離婚調停の手続きは難しくはないので、弁護士なしでやる人も多いです。申立ての書式は裁判所のホームページからダウンロードできますし、必要な費用は、裁判所にもよりますが数千円程度です。弁護士を依頼すると、30万円くらいは着手金として必要になりますから、よく検討なさってください」

エリカ「弁護士をつけたほうが有利になりますか」

山内「家庭裁判所では、中立の立場の調停委員がついて双方の話をよく聞いてくれるので、弁護士がついてなくても、一方的に不利な内容の離婚をさせられることは、まずないと思います」

エリカ「じゃあ、弁護士に依頼するメリットは何かあるんですか」

山内「安心感でしょうね。調停の場に同席できるのは弁護士だけですし、その上で、相手方の主張が正しいのかとか、妥協すべきか裁判に持ち込むべきかとか、状況に応じてアドバイスを受けることができるので。離婚という人生の重大局面で、その安心感があるというのは、大きなメリットだと思います」

エリカ「わかりました。山内先生は誠実そうなお人柄なので、正式に依頼することにします」

山内「はい、お受けします。調停を通じて、ご主人に対し、離婚と、慰謝料・財産分与の支払いを求めていくことにしましょう。他に何か、ご主人に求めたいことはありますか」

エリカ「別に…」

山内「そうですか、わかりました。ああ、ついでに申しますと、家庭裁判所で調停委員さんに向かって『別に』とか言わないほうがいいと思いますよ」

 

(続く) 離婚相談4

なぜ裁判は長い時間がかかるのか、モンテスキューの言葉から考える 1

一般的に、裁判というものは、民事でも刑事でも、長い時間と手間がかかります。依頼者の中にも例えば、「なぜ貸したカネを返してもらうだけのことで、これだけの時間がかかるんだ」と憤る方がたまにいます。

どうして裁判に時間がかかるのかというと、理由はいくつか挙げることができます。

 

一つは司法制度の人的限界、つまり裁判官が足りないということです。

司法改革とかで司法試験の合格者は飛躍的に増えましたが、裁判官に登用される人数はほとんど増えていません。合格者数は、20年前は毎年500人程度、私が受かった13年前で800人程度、現在は2000人程度ですが、その中から裁判官になるのは年間100人程度で、大きな増加はありません。

最高裁は「裁判官にふさわしい能力の人を選抜したらこの程度の人数になった」と言っています。しかし理由はどうあれ裁判官が増えず、裁判所の事務処理のスピードも速くならないのであれば、その部分だけ取ってみても司法改革は失敗だったと私は思うのですが、それはまた別の機会に述べます。

 

もう一つの理由は、司法制度を利用する側にもあります。

弁護士も忙しいため、きちんと主張を整理できないとか、必要な証拠を迅速に提出できないということも、確かにあります。自戒を込めて思います。

ただその点は、責任転嫁するわけではないのですが、代理人である弁護士だけの問題でなく、当事者、つまり依頼者本人が、訴訟を進めていくために必要な協力をしてくれないから、ということもあります。

たとえば、こういう主張をするからにはこういう証拠があるはずだから持ってきてほしい、とお願いしても、それをなかなか揃えてくれないとか、明らかに無理のある主張なのにそれを頑として通そうとするため、代理人としては無理な主張を重ねざるをえなくなるとかいうことも、なくはないです。

もっとも、特に民事では、当初は互いに相手が憎くて裁判になったものの、裁判に時間がかかっているうちに双方冷静になってきて、こんなことをしてるくらいなら話しあいましょう、ということで和解に至るケースも結構あります。ですから、長い裁判は悪いことばかりでもないと思っています。

 

前置きが長くなりましたが、以上の理由は実は瑣末な問題でして、裁判に手間と時間がかかる根本的な理由は何かと言いますと、われわれ個々人の「自由」を守るためです。

そのことに関して、モンテスキューの「法の精神」の記述を紹介しようと思っていたのですが、すでに長く書きすぎてしまいましたので、次回に続きます。

離婚相談2 裁判離婚の原因とは

相談者 エリカ、2回目のご相談

 

山内「こんにちは。前回に引き続きのご相談ですね。その後いかがされましたか」

エリカ「夫に離婚したいと言ったんですけど、夫は、『僕はエリカを離したくない、エリカは悪い黒幕にだまされているんだ』っていうんです」

山内「はあ、よくわかりませんが、とにかくご主人には離婚意思はないのですね。離婚条件の話をする前に、まずは離婚を認めさせることから始めないといけないですね」

エリカ「どうやったら離婚を認めさせることができますか」

山内「離婚の方法には、まず協議離婚、さらには家庭裁判所の調停離婚、最終的には裁判離婚があります。相手が離婚に反対なら協議離婚は無理です。家裁の調停も、相手がノーといえば成立しません。裁判離婚を視野に入れないといけないですね」

エリカ「どうすれば、裁判離婚できるのですか」

山内「夫婦の一方が離婚に反対していても、裁判所の判断で離婚させてしまえるのが裁判離婚です。それだけに、よくよくの事情が必要です」

エリカ「どんな事情があれば良いのでしょうか」

山内「民法770条に5つ書いてあるんですがね、1つめは『不貞行為』、いわゆる不倫です。2つめは『悪意の遺棄』、肉体的または精神的虐待ですね。3つめは3年以上の生死不明、4つめは強度の精神病、5つめは、これらに匹敵するくらいの『婚姻関係を継続しがたい重大な事由』のあるときです。ちょっと難しい用語が出ましたが、分からなかったところはありますか」

エリカ「別に…」

山内「では続けます。いま申し上げたような離婚原因が思い当たりますか。たしか前回のご相談では、仕事をよくサボるということでしたよね。家計が苦しいのに仕事もしないのなら、婚姻を継続しがたい事由にあたるかも知れません。そういえば、お子さんはおられるんでしたっけ」

エリカ「いえ、いません。それに、夫の両親に買ってもらったマンションに住んでるので、生活が苦しいってほどではないんです」

山内「そうすると、他に何か、裁判離婚原因になるような事情はありますか」

エリカ「前回の先生のお話を聞いて、証拠を集めておいたんです。うちの主人、どうも他の女性とデキてる気配があったので、こないだ、夜に外出したときに尾行したんです。そしたら…」

山内「何かあったのですか」

エリカ「この写真、見てください。ホテルに主人と他の女が入る現場写真が撮れたんですよ」

山内「ほう…ホテル『やんちゃなピエロ』ですか。まあ明らかにラブホテルですね。よく興信所にも頼まず、ご自身で撮影されましたね。これは強力な証拠になりますよ」

エリカ「いや、私も情けなかったです。あまりに腹が立ったので、夫にこの写真を見せて問い詰めたんです。そうしたら、この女はただの友人で、ホテルには映画を観るために入っただけだと。そんな言い訳が通用するんですか」

山内「いや、それは通用しないでしょう。大人の男女がその手のホテルに入って、することは一つですよ。不倫した、つまり肉体関係を持ったという推定が働きます。映画鑑賞のために行ったと言うのであれば、どうして映画館でなく、こともあろうに『やんちゃなピエロ』に入ったのか、合理的な説明がされないことには、ご主人は裁判上不利になるでしょう」

エリカ「じゃあこれは、裁判離婚の材料になりそうですね」

山内「そうですね。ただ、順序としては、まずは離婚調停を行なわないといけないことになっているんです。そこで、離婚をするかしないか、離婚条件をどうするか、といったことを話し合うことになります。ですから、ご主人の資産や収入など、そういった資料を、次回のご相談のときにでも持ってきていただけますか」

エリカ「わかりました」


(続く) 離婚相談3

大阪地検の元検事、犯人隠避罪の公判始まる

おととい(12日)、大阪地裁で、大阪地検の(元)検事の犯人隠避事件の公判が始まったようです。検事が逮捕・起訴されたという前代未聞の事件ですが、この経過をざっとまとめてみます。

 

平成21年、「凛の会」という団体が、障害者団体は郵便料金が安くなるという制度を悪用し、その認定を受けようとした。そして厚生労働省の担当者が、障害者団体の実態がなく不正であるとわかっていながら、認定証を発行した(とされた)。

その発行権限を持つ厚生労働省の村木局長が、認定証を発行するよう部下に指示したとして、虚偽公文書作成罪で逮捕・起訴された。しかし裁判の結果、そんな指示をした事実は認められないとして、村木氏に無罪判決が出た(平成22年9月)。

 

その直後、この事件の捜査を担当していた大阪地検の前田検事が、押収したフロッピーディスクの文書の作成日時を変更していたことが発覚。

ことは村木氏の事件の捜査段階だった、平成21年の話です。

検察側は、「平成21年の6月上旬ころ、凛の会が村木氏にニセの認定証を発行するよう申し入れ、村木氏がそれを受けて認定証を発行するよう、部下に指示した」と考えた。しかし検察が押収したフロッピーにある認定証の作成日付は6月1日未明の時間で、検察の読みと違う。そこで前田検事は、フロッピー押収後の平成21年7月13日、この文書の作成日を「6月8日」に変えた。

前田検事がうっかりフロッピーのデータをいじってしまって、データの更新日時が「7月13日」(当日)に書き換わってしまったというのであれば、「過失」であって犯罪ではない。しかし、7月13日の時点でデータの更新日時を「6月8日」に変更するのは、普通のやり方ではできません。前田検事は特殊なソフトを使ったようです。明らかに、「故意」でフロッピーを改竄したことになる。

 

このフロッピーは最終的に、村木氏を有罪にするための証拠としては使われなかったようです。しかし、もし裁判の中で弁護側が、認定証の作成日が検察側の主張と食い違う(6月上旬に申し入れを受けたのであれば、6月1日未明に認定証を作成しているはずがない)と主張していたら、検察側は何食わぬ顔で「いやこの認定証は6月8日に作成されてるじゃないか」と反論したことでしょう。そんなことで無実の人が有罪になっていたかも知れないと考えると、たいへん恐ろしい話です。

前田検事は逮捕・起訴され、証拠偽造罪で懲役1年6か月の実刑判決受け(平成23年4月)、今は刑務所にいるはずです。

ちなみに、では6月1日未明の認定証は誰が作ったのかというと、村木氏の部下が独断で作った疑いがあるということで、裁判が継続中のようです。

 

今回始まったのは、前田検事の上司の大坪検事、佐賀検事の裁判です。

両検事は、前田検事から、改竄後の平成22年2月ころ、その事実を伝えられ、黙っているよう指示した、ということで罪に問われています。罪名は「犯人隠避罪」で、罪を犯した人を匿う犯罪です。

今後の裁判のポイントは単純です。

前田検事の犯した証拠偽造罪は、故意でないと成立しない。つまり大坪・佐賀両検事は、前田検事がわざとフロッピーを書き換えたことを知った上で、黙っているよう指示した、ということでなければ、犯人隠避罪になりません。その点を知っていたかどうかが、今後、裁判の中で明らかにされるのでしょう。

 

過去にもブログで書きましたが、部下のミスをわかった上で、上司が「何も言うな、俺に任せておけ」と言ったとすれば、これは温情的な良い上司であるように思えます。しかしよりによって検察が、一個人の有罪・無罪の瀬戸際で、そんな温情を発揮してはならないのでしょう。

検察組織自体の構造的問題だ、と報道では大きく論じられていますが、裁判自体は、上記のポイントを中心に淡々と進むと思われます。