ダルビッシュの離婚と養育費 続き

養育費の話、続き。

前回紹介した例として、夫の年収が5~600万円で、収入のない妻が2人の子を引き取って離婚する場合、家裁で調停すれば、夫が支払うべき養育費として8万円程度(2人分合計で)と決められるであろうといった話をしました。

このように調停で取り決められた場合、夫側から不満顔でよく尋ねられます。「不景気でいつ収入が下がるかもわからないのに、それでも決まった8万円を支払い続けないといけないのですか」と。

これに対する答えは「その通り」です。それは別に不当なこととは思えません。逆に、がんばって仕事して年収が倍になっても、決まった金額以上に払う必要はないのですから。

女性からよく聞く不満としては、「将来、子供に何があるかもわからないのに、月8万円程度では確実に安心させてやれない」、というものがあります。

これは、前回書いたとおり、自助努力で何とかしてもらうほかないです。そもそも世の中、幸せな結婚生活を送っている夫婦だって、確実に安心な生活などありえない。
例えば私だって、いつ不祥事を起こして弁護士資格を失うか知れないし、酒の飲み過ぎで死ぬかも知れない、そうなれば自宅のローンも払えなくなるかも知れないのです。

離婚すると「家計」が2つになって、食費や住居費などの生活関連費用が増え、一緒に暮らしていたとき以上に夫婦とも過酷な状況に置かれることになります。それがイヤなら離婚をガマンするか、そもそも、結婚や出産自体をガマンすべきです。

どうしても経済的に裕福な離婚をしたい、という方は、サエコみたいにがんばってダルビッシュくらい稼ぎのある人を捕まえるしかないです。

さてそのダルビッシュ、養育費は相当な金額になるだろうと前回書きましたが、それでも、プロスポーツ選手の選手生命はそう長くないから、ダルビッシュの2人の子供が成人するまでプレーできるとは思えない。

今後彼がメジャーに行って収入がもっと増えるかも知れないし、ケガで引退して収入が激減するかも知れない。それでも冒頭に書いたように、ダルビッシュは決まった養育費を支払う義務を負います。また、仮にサエコがダルビッシュ以上のお金持ちと再婚しても同じです。

ただ、ダルビッシュに限らず誰でも、養育費の支払い期間中に収入が大幅に下がることはあるし、妻が再婚して経済的に裕福になることもある。そういう場合は、夫側から再調停を申し立てて、養育費の金額を下げてもらうことはできます。

逆に妻からも、夫の収入が上がったときには、それを前提に養育費を上げてもらうよう、調停を申し立てることができます。

そのような正式な手続きを踏まずに、養育費の額を一方の事情だけで勝手に上げ下げすることはできないということです。

以上、ダルビッシュ夫婦を勝手にモデルとして「離婚とカネ」についてシミュレートさせていただきました。連続講座をひとまず終了します。

ダルビッシュの離婚と養育費

ダルビッシュとサエコに学ぶ離婚連続講座の第4回は、養育費の話です。
 
現在、ダルビッシュとサエコは別居中のようですが、別居していても夫婦である以上、一家の生活費は互いに負担しあう必要があります。
 
別居中の妻が夫に生活費をよこせと言える法的根拠は、民法にも「夫婦は互いに協力しあわないといけない」とあるからです。法律家はこの生活費のことを「婚姻費用」、略して「こんぴ」と言います(なぜ「こんひ」と言わないのかは不明)。
 
離婚が成立すると、夫婦関係は終了するので、妻に生活費を払う必要はなくなる。しかし、夫婦が離婚しても、親子の血縁関係は一生残ります。
ダルビッシュとサエコが離婚して、親権をサエコに渡したとしても、父親であるという事実は変わらない。父親である以上は、民法上も、その子供を養育する義務を負います。それが養育費支払いの法的根拠です。
 
ですから養育費はあくまで子供に払うものですが、実際には親権者である母親が管理することになるので、その使い道には基本的に父親は口出しできないことになります。
 
その養育費の金額は、協議離婚の際に合意で決めることもできますが、協議がまとまらなければ家庭裁判所で調停を行なうことになります。
なお、子供が何歳になるまで払うかについても、協議で決まらなければ調停となります。だいたい、20歳までと決まる場合が多いでしょう。
 
養育費の金額の決め方としては、家裁に養育費の算定基準があって、夫婦それぞれの収入や、子供の年齢や人数によって、公式にあてはめて計算します。
 
その算定基準はここでは省略しますが、具体的に算定してみたい方は、弁護士会や市役所の法律相談に行くか、街なかでやってる弁護士事務所を訪ねてください。たいていの弁護士は算定基準表みたいなものを持っているので、すぐ計算してくれます。
 
たとえば、ダルビッシュ夫婦みたいに、5歳くらいと0歳くらいの小さい子供が2人いるとして、夫の年収が1000万円、妻は専業主婦で収入なしだとすると、夫が払うべき養育費の月額は合計16万円前後(子供1人あたり8万円前後)です。
 
年収500万~600万の夫なら、単純に考えてこの半分前後です。多いと思うか少ないと思うかは人それぞれでしょう。
妻が子供2人を抱えて、月に8万円もらえるかどうか、という程度なら、女性なら少ないと思う方が多いでしょう。しかし、夫と離婚して子供を引き取ったからには、母親として自立して子供を育てる義務を負うので、不足分は自分で働くなどするしかありません。
 
さて、算定基準にダルビッシュの実際の年収をあてはめると、すごい数字になるでしょう。
彼がいくら稼いでいるかは知りませんが、仮に年収3億とでもします。サエコはタレント活動などでそれなりに収入があるはずですが、単純化のため収入ゼロとします。
これで計算すると、養育費の月額は400万円前後となります。
ま、これは極めて特殊なケースと思ってください。
 
4回目で最終回にするつもりでしたが、養育費のことであれこれ書きたいことが出てきたので、第5回目に続く。

「大たこ」その後~不法占拠続く

ここしばらく、「ダルビッシュ」と「大たこ」のキーワード検索で当ブログに来られる方が多いようです。ダルビッシュの離婚話はあと一話残っていますが、少し前に報道された、道頓堀のたこ焼き屋「大たこ」の話に少し触れます。

 
ここでも触れたとおり(こちら)、大阪市の公有地上でたこ焼き店を営んでいた「大たこ」に対し、今年7月に最高裁で立退きを命ずる判決が確定しています。
 
その大たこ、私も通りすがりに見ましたが、今も道頓堀の橋の上で営業しています。どうなっているのかというと、最近の報道などからすると、以下の事情のようです。
 
最高裁での判決後も、大たこは立ち退かなかったので、大阪市は強制執行の手続きを
とった。そうなると、まず裁判所の執行官が大たこ側に、何月何日までに立ち退きなさい、そうでないと無理やりに撤去します、という申し入れをします。普
通、そう言われると大半の人は期限の日までに自発的に立退きをします。
 
大たこも、「立ち退きました」と、大阪市に伝えたそうです。それを受けて大阪市の職員が現地を見に行ったところ、何と、大たこの店舗は、もとあった場所から数十センチずれた場所で、平然とたこ焼きを焼いていた。
 
大たこ側の理屈は、「立退きを命ぜられた場所からは立ち退きました。今はそれと『別の場所』で営業しています」ということなのでしょう。
大阪市の平松市長は、「ゆでダコになりそうだ」と怒っています(ここでそんなユーモアを込めなくてもいいのに)。
 
大阪市が取りうる対処は2種類あります。
一つは、判決が出ているのだから、それに基づいて明渡しの強制執行を続行すること
です。これは判決の執行力がどの範囲で及ぶかという、やや複雑な話なのですが、常識的に考えて「そこからどきなさい」と命ぜられた相手が、そこから数十セ
ンチ移動するだけで判決を無効化できるというのはおかしい。
 
もう一つは「行政代執行」です。
これまでの裁判で大たこ側に市有地の時効取得が認められなかった以上、数十センチずらしても不法占拠であることに変わりはない。行政権の主体(大阪市)は、司法権(裁判所)に頼らなくても、不法占拠者は自ら排除することができる。
大たこが自ら撤去しないなら、行政が代わりに執行します、ということです。平松市長はこちらの手続きを取ると言っているようです。
 
法律論はともかく、大たこは大阪でも最も有名な部類のたこ焼き屋ですが、不法占拠と断じられても堂々と商売を続けているわけであり、大たこは今や「大阪の恥」となったと、私は思います。
 
大たこ側に、大阪の商売人としての良心とか、大阪のたこ焼き文化を担ってきたという誇りが、もし今でもあるのであれば、直ちに自ら立ち退くことを望みます。

ダルビッシュの離婚と親権・監護権

ダルビッシュとサエコに学ぶ連続離婚講座(勝手にシリーズ化)、第3回です。

第3回は養育費の話にするつもりが、いま移動中の新幹線の中でこれを書いており、手元に資料がないと養育費の具体的な話が書きにくいので、今回は親権の話にします。
 
「おは朝」情報によりますと、ダルビッシュもサエコも2人の子供の親権を取りたがっており、ただダルビッシュは「養育権」はサエコにあげてもよい、と言っているそうです。
 
これは「監護権」のことを指していると思われるので以後この用語を使いますが、民法上、親が未成年の子に対して持つ権利には「親権」と「監護権」があり、離婚のとき、その2つが別々の親に行くケースもありえます。これが何を意味するかを書きます。
 
平たくいうと、親権者は法的な監督を行なう人、監護権者は一緒に住んであげる人だと考えてください。法的な監督とは何かというと、子供の財産を管理したり、子供が商売をやろうとするとき許可を与えたりする権限などがあります。
 
しかし、ダルビッシュの子供は幼くて多額の財産を持っているとも思われず、財産管
理権はあまり意味がない。むしろ養育費をサエコに払えば、そのお金はサエコが管理することになります。また、いまどき未成年で自ら事業をたちあげて商売を
する人も滅多にいないでしょうから、その許可をする権限もまず問題にならない。
 
そもそも現代においては、親権と監護権を分けておく意味はあまりなく、これは戦前の旧民法の遺物であると言われています(内田貴「民法4」など)。
つまり、戦前の家制度では、子供の親権は父親が持つのが当然で、ただ離婚の際に子供がまだ乳飲み子のようなときは、母に預けておくほうが良いからということで、親権とは別に、母親の監護権という概念ができた。
 
男女平等を建前とする今の民法では、親権者を母親とすることは何ら問題ないので、父でも母でも、子供を引き取る方が親権者かつ監護権者になればよいのです。
 
しかし現在でも、親権をどちらが取るかでモメたときに、妥協策として、父は親権、
母は監護権(その逆もありえますが)を取る、という形で協議離婚するケースもあります。私もそういう相談を受けたことがあるし、ダルビッシュ・サエコ間で
もそんな話があるらしい(あくまでテレビ報道ですが)。
 
しかし、ここは私個人の感想ですが、現代の家族制度において、監護権は取らないけ
ど親権だけ取るというのは、せいぜい精神的な意味しかなく、それは本来、親であることから来る様々な子育ての苦労を免れた上で、口先だけ「俺が親権者だ」
と言っているような印象しか持ちえません。だから私が相談されたときも「そんなやり方は実際には無意味だし、ややこしいだけだから、お勧めしません」とお
答えしています。