死刑は合憲か~土本教授の証言から

大阪地裁での裁判員裁判で、死刑制度の合憲性について議論されているそうです。大阪市此花区のパチンコ店での放火殺人事件に関してです。

最高裁は一貫して、死刑は合憲であり、憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」にあたらない、としています。今回の裁判員裁判でも、死刑は違憲だから廃止すべきだという結論に至ることは、まず考えられません。ただ、この問題について主権者たる国民がじかに議論に加わることの意味は大きいでしょう。

 

抽象的なレベルにおいては「人を殺したヤツは当然死刑でいいじゃないか」と、おそらく多くの人は考えるでしょう。

さらに、むごたらしい犯罪が行なわれたような場合、死刑でも生ぬるい、そいつがやったことと同じやり方(今回のケースなら火あぶり)で殺せ、という人もいる(これは感情論としてはともかく、近代国家では採用しえない暴論です。同じやり方で刑罰を与えるとなれば、たとえば交通事故を起こした人は保険金を払って償うということが許されず、同じように車でひかれることになります。それで良いと考える人はいないでしょう。被害者だって何の得にもなりません。長いカッコですみません)。

 

話を本筋に戻すと、今や誰もが裁判員になって、具体的事件において、目の前にいる被告人に対し、死刑の宣告に関わる可能性がある(しかも、その事件は冤罪で、その被告人は無実かも知れない)。その上でなお、私たち一人ひとりの選択として、死刑制度を残してよいと考えるか。死刑の実態を踏まえて、身近な問題として考えなおすことは意義深いと思うのです。

 

さて、この大阪地裁の公判において、元最高検察庁の検事であり、筑波大学名誉教授の土本武司氏が証人として出廷しました。私が筑波大学にいたころ、土本氏は現役の教授で、私は刑法総論と刑事訴訟法をこの人の講義で学びました。

刑法や刑事訴訟法の学者といえば、リベラル、反権力、人権重視な人が多い中、土本教授は検事出身なだけあって、どちらかといえば警察側・検察側の視点での論理を展開する方であったと思います。ですから、その土本教授が「弁護側の証人」として出廷すると知り、私は驚きました。

報道によれば、12日の法廷で土本教授は、検事時代に死刑執行に立ち会った経験などに基づいて、死刑は憲法の禁じる残虐な刑罰に限りなく近い、と証言したそうです。

日本での死刑(絞首刑)の方法については、ものの本には書いてありますし、私も学生時代に土本教授からその「立ち会った」ときの話を聞いたことがあります。いちいち書きませんが、興味があればネットで調べられるでしょう。土本教授は現行の死刑執行の様子を「正視にたえない」とも証言したとか。

 

かといって土本教授は「死刑廃止論者」でなく、明確に「死刑存置論者」であると自認しています。土本教授が書いた刑法の教科書(「刑法読本 総論」信山社、平成3年)にも、「これ(死刑)を全廃するには国民的コンセンサスが得られていない状況にあります」と述べられています。

しかし、抽象的レベルにおいて「悪いヤツは吊るせ、殺せ」ということと、死刑の実態や問題点をよくよく踏まえた上で「それでもなお死刑制度を支持する」ということの間には、大きな違いがあります。土本教授が証言したのも、国民個々人が死刑制度について「理解した上での選択」ができるよう、そのきっかけを作るためであると思われます。

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