「まんだらけ」問題と法秩序について

久々のリクエストでもあり、「まんだらけ」の問題を取り上げてみます。

まんだらけという古本・古物の店で、鉄人28号のフィギュアが盗まれ、まんだらけ側がその「犯人」に対し「8月12日までに返しに来ないと、防犯カメラに映っていた顔をさらす」とネットで呼びかけました。

結局、警視庁からの指導もあり、まんだらけ側としては、8月12日をすぎても素顔をさらすということにはならなかったようです。

 

まんだらけ(…ってしかし、何を思ってこんなシマリのない名前にしたんでしょうかね、パソコンでまんだらけと入力するたびに脱力する思いです)が今回やったことは、個人的には、万引き対応として大いに同情しうるところです。しかし法律家としては、この行為を正当化する気には全くなりません。

すでに新聞やネットで識者が指摘しているとおりですが、窃盗の真犯人であったとしても、その素顔を「犯人」として不特定多数の人にさらす行為は、刑法上の名誉毀損罪にあたるし、盗品を取り返す目的であったとしても「顔をさらすぞ」などと言う行為は脅迫罪にあたりえます。そうした行為で相手に心理的苦痛を与えれば、民事上の問題としても慰謝料を支払う義務が生じます。

実際には、警視庁は、まんだらけが指導に従ったことで刑事処分は行わないでしょうし、「犯人」がわざわざ身分を明らかにして慰謝料請求をしてくることもないでしょう。そういう意味では、まんだらけは今回の件で民事上・刑事上の責任追及をされることは実際にはないと思われます。

 

しかし、それでも、まんだらけの行為は、たまたま「お咎めなし」の結果となるだけであって、法的には正当化しえないものであることは、明言したいと思います。

もちろん、きっかけは、まんだらけがフィギュアの窃盗という被害にあったことです。しかし、それはそれ、別問題でして、その窃盗犯人は当然、警察→検察→裁判所というルートで国家権力によって裁かれないといけない。

法治国家では親の仇討ちさえ許されていないのであって、いかにフィギュア窃盗犯の悪質性を強調するとしても、また警察が窃盗犯をなかなか取り締まってくれないという事情を付け加えるとしても、それらを理由として、まんだらけの行為が法的に正しいとされるわけではないのです。


まんだらけがした行為を正当と解する考え方は、結局、自分の都合と解釈だけで法秩序を破ってよいという考え方につながります。

殴られたから殴り返しに行くとか、国がケシカランから税金を払わないとか、そういう考え方と同じで、聞こえは勇ましいけど、そういう人が増えれば法秩序は崩壊します。

(もちろん、まんだらけ自身はおそらく、窮余の一策としてしたことであって、正当と思ってやっていたわけではないと信じますが)

個人の趣味の範囲として、まんだらけのやった行為に義侠心を感じて応援するのは自由ですが(実は私もちょっとだけそういう気持ちがある)、法治国家としては本来、許される性質の行為でないことは、繰り返し述べておきたいと思います。

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