為替デリバティブ被害相談3 デリバティブが含む問題点

小島「その後、準備は進んでいますか」

山内「ええ。ADR手続きの申立てをして、早期に解決したいと思ってます」

小島「どれくらい早く解決できますでしょか? あと1週間くらいで何とかなりますか?」

山内「いや、ADRは裁判よりは早いですが、さすがに1週間というの無理です。4か月から半年は見ておいてください」

小島「やっぱりそうか…。いや、1週間後にね、今月もまたUSB銀行に300万円を払わないといけないんですよ。ドルを買わされるので…」

山内「その支払いは、ストップしてしまって良いと思います」

小島「え、銀行への支払いを止めるんですか?」

山内「ええ、銀行に申し入れてください。弁護士を立ててADRの場で決着させたいから、それまで支払いをストップさせていただきますと。銀行側が何かややこしいことを言ってきたら、私が出ます」

小島「大丈夫でしょうか。そんなことして融資を引き揚げるって言われたら、借りた資本金もまだ全部返せていない状況だし…」

山内「多くの場合、銀行はたいてい、話し合いに応じてくれます。もし仮に融資を引き揚げるとか言い出したら、それこそ、銀行協会に苦情申立てをしますよ。銀行はそこまでモメることは望まないですから

小島「そうですか、わかりました。支払いがストップすれば、うちの資金繰りもずいぶん楽になるし、また宗右衛門町で…いやいや冗談です。で、先生、ADRの手続きは、いつごろ始まりますか」

山内「いま、申立書を作成していて、今月中には、全銀協へ提出できます。いま、この手の申立てが増えていて、割と待たされるみたいなので、調停の場が持たれるのは、2、3か月後くらいですかね。支払いはストップしていいのですから、気長に待っていてください」

小島「ADRのときには、どんなことが聞かれるんでしょうかね。私が商品先物に手を出したときの裁判みたいに、証言を聞いてもらって、お互いの落ち度を考えて痛み分けになるんでしょうかねえ」

山内「極めて大ざっぱに言えば、そうです。しかし、通貨オプションなどの為替デリバティブのADR手続きでは、独特の重点があります」

小島「と、言いますと?」

山内「商品先物取引は、多くの人にとって、明らかに投資なんですよ。もっと言えばギャンブルなんです。相場の上下を利用して儲けるために行なわれる」

小島「ええ、確かに」

山内「でも、為替デリバティブはそうじゃない、という建前になっています。銀行は先物業者と違って、相場を利用して顧客にギャンブルをさせる商品など、販売してはいけないんです。それが銀行としてのプライドでもある。だから銀行としては、お客様の為替リスクのヘッジのために必要な商品ですよ、という触れ込みで勧誘してくることになります」

小島「そういえば、そういう勧誘をされましたなあ」

山内「そこでお聞きしますが、小島さんが『康楽』の仕入れのために必要なドルは、いくらくらいでしょうか」

小島「年に2、3回ほど、中国やアメリカで食材とか調味料を買ってくる程度でして、日本円で年間せいぜい2~300万円、ドルだと3~4万ドルくらいですかねえ」

山内「であるのに、USB銀行との契約では、少なくとも毎月1万ドル、多いと3万ドルも買わされることになる。年間にして12万ドルから36万ドルです。あきらかに、小島さんの会社の取引量を無視した、過大な取引をさせているんです」

小島「冷静に計算するとそのとおりですね、先生。最初は儲かっていたので、あまりその点を考えていませんでした」

山内「リスクヘッジのために必要だと言いつつ、実は不要なまでのドルを買わせた、そこがこの手の契約に含まれる重要な問題です。ADR手続きの中でも、そのあたりが主要な争点になります」

小島「なるほど、そういうところを突いていくわけですね。先生、ADR手続きに向けてがんばって準備を進めてください」

山内「わかりました」

 

(続く)

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違法収集証拠で考える「正義とは何か」

あまり大きく報道されていませんが、覚せい剤使用容疑の被告人が、警察の違法捜査を理由に無罪になったという判決がありました(東京地裁、27日)。

 

憲法38条、刑事訴訟法319条には、強制、拷問、長期間の拘禁を加えるなど、任意になされたかどうか疑わしい自白は、刑事裁判の証拠に使えない、と定められています。

この条文を根拠に、最近、検察官の調書が却下されるという事態が相次いでいるのは、ご存じのとおりと思います。

 

では、違法捜査の末に得られたものが「自白」でなくて「証拠」である場合はどうか。

冒頭の事件では、新宿の歌舞伎町を歩いていた容疑者を警察官が呼びとめ、所持品検査に応じないので、交番に連行してズボンを脱がしたそうです。

所持品検査は原則「任意」のもので強制できないので、有無を言わさずズボンをおろしたというのは、やり過ぎと言えるでしょう。しかしその末に、下着の中から怪しげな水溶液やポーチが出てきて、容疑者は観念したのか尿検査に応じ、その結果、陽性反応が出た。

 

捜査はやり過ぎだけど、その結果、犯罪の有力な証拠が出てきたとき、容疑者を有罪にできるか。この点は法律に規定がありません。強制や拷問をすれば、自白にはウソが混じるかも知れないけど、証拠物そのものの中身が変わるわけではないのだから、証拠として有効だ、という考え方もありえます。

この点は長年争われてきましたが、最高裁判所は昭和53年、重大な違法捜査の結果得られた証拠物は、有罪の証拠として使えない、という判決を出します。これが判例となり、違法収集証拠排除法則と呼ばれています。

 

映画では、刑事がちょっと行き過ぎた捜査をするけど、その結果、重要な証拠が出てきたり、犯人を検挙できたという話はよくあるでしょう。私としてはジャッキー・チェンの「プロジェクトA」で、ジャッキーが署長の制止もきかずに高級クラブに乗り込んで大暴れし、奥の部屋に隠れていた容疑者を引っ張り出すシーンなどが思い出されます。

そんなとき、容疑者は無罪放免、主人公の刑事が懲戒処分を受けて映画が終わり、となれば、観客は暴動を起こすかも知れない。

しかし、現実の社会で、行き過ぎた捜査でも結果が出れば許される、ということになると、これはかなり恐ろしいことだと思います。映画なら観客は犯人がわかっているから良いですが、実際には、犯人かどうかわからない人に対し「調べれば何か出てくるはずだ」と、見込み捜査で厳しい追及が行なわれるかも知れない。その追及は私たちに向けられるかも知れない。

 

冒頭の事件の結論は、繰り返しますが、容疑者からは覚せい剤の反応が出たのに、無罪でした。これが違法収集証拠排除法則の適用の結果であり、現在の判例の考え方です。私は個人的には、この判例を支持する立場ですが、いや、そんなの不正義だ、という考え方も、もちろんありうるでしょう。

これは大げさに言えば何をもって正義と考えるかの問題です。

判例のように、捜査が適切に行なわれたか否かというプロセス自体を重視するか、または、結果さえ伴えばプロセスの部分はある程度目をつぶるか、という選択です。

光市の母子殺害事件では死刑の最高裁判決が出ましたが、これは被害者保護を重視せよという世論が司法の判断を動かしたと見ることもできます。

違法収集証拠排除法則も、主権者である我々国民が、「司法における正義」をどう考えるかということと、密接に結びついていると言えます。

為替デリバティブ被害相談2 為替デリバティブとは(後編)

小島「先生、今朝の新聞で、デリバティブのことが出てましたよ」

山内「ええ、野村証券は大阪産業大学に2億5000万円を払えと、大阪地裁が判決しましたね」

小島「これは、うちがやっていた取引と同じようなものなんですか」

山内「新聞にはそこまで詳しく出ていないですが、為替相場次第では多額の損失が発生する取引だったようですね。小島さんのように長期契約をさせられ、途中で解約するために13億円近い解約金を払わされた。その返済を求めていた裁判だったようです」

小島「13億円近く損をして、返してもらえたのは2億5000万円だけですか」

山内「デリバティブ取引に応じた大学側にも落ち度があるってことですね。過失相殺です。小島さんも、先物取引のときに言われたでしょ。今回、大学側の落ち度は8割で、2割だけの賠償が認められたようですね」

小島「投資顧問会社が、企業年金の運用に失敗したとかいうニュースもありました」

山内「オプション取引で失敗したようですね」

小島「おそろしいですなあ。しかしこの、デリバティブとかオプションとかっていうのは何なんですか」

山内「デリバティブというのは、金融派生商品とも言われますけどね、もともとは、相場の変動などのリスクをヘッジ、つまり回避するために開発された商品です。小島さんが先日裁判をされた商品先物取引も、商品相場の高騰に備えて、一定の商品を一定の値段で先に買い付けておく仕組みなんです」

小島「はあ、なるほど。で、私が今回、銀行と契約した通貨オプション取引とはどういうものですか?」

山内「為替相場の変動を回避する、為替デリバティブの一種で、海外の通貨を一定の値段で売ったり買ったりする予約をしておくんです」

小島「ああ、じゃあ私は今回、ドルの先物買いをしていたようなものですね」

山内「そうです。オプションとは『権利』を意味します。今回の契約では、株式会社康楽と、USB銀行の間に、2つのオプションが設定されています。1つめは、康楽がUSBからドルを安く買う権利。2つめは、USB銀行が康楽にドルを高く売る権利で、つまり康楽側から見れば、高値で買わされる義務を意味します」

小島「1つめだけなら、小遣い稼ぎができたのに、どうして2つめの余計なオプションまでくっつけてくるんでしょうねえ」

山内「1つめのオプションだけだと、康楽が得をして銀行が損をするだけですからね。銀行はそんな商品を売るはずがない。それにしても、この手の通貨オプションの問題点は、顧客である企業が利益を得る可能性より、銀行が得をする可能性のほうがはるかに大きい、ということです」

小島「どういうことですか」

山内「今回の契約を見ても明らかでしょう。1ドル80円より円安のときは、康楽は1万ドルを1ドルあたり80円で買える。ドルが安値で手に入るということです。でも、1ドル80円より円高になると、とたんに、銀行は康楽に3万ドルを1ドル100円で売ることになる。円高ドル安なのに、ドルを高く買わされるわけです。しかも、3万ドルも」

小島「こちらが買わされるときに限って、3倍の量のドルを買わされるんですね。うちにとって全然、リスクヘッジになっていない」

山内「しかも、何年もの長期に渡ってです。途中で解約しようとすると、今朝の新聞に出てたように、多額の解約金を払わないといけない契約になっています」

小島「契約書の中身がわかってくると、腹が立ってきました。今朝の新聞記事みたいに、裁判に訴えることはできますか」

山内「もちろん、それも考えられます。あとは、銀行相手だから、金融ADRって方法もあります」

小島「また何か難しい言葉が出てきましたね」

山内「ADRというのは、裁判外での紛争解決手続のことです。具体的には、全銀協、つまり全国銀行協会の調停手続きの場で話合いをすることです。裁判よりは早い解決が望めます」

小島「手段の選択は先生にお任せしますよ。私としては何をすればよいですか」

山内「とにかく、これまでの事実関係と、取引内容を把握したいので、契約書類とかパンフレットとかを全部持ってきてください」

小島「わかりました」


(続く)

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言うだけ番長どこへ行く

一部報道機関から「言うだけ番長」と言われた民主党の前原氏について少し触れます。

昔から、政治家にはいろんなあだ名がつくもので、その多くは揶揄や批判を込めたものであることが多いでしょう。それは権力者の宿命みたいなものです。それに対して、政治家本人がどう切り返したか、比べてみると興味深いです。

 

個人的に一番好きなのは、小渕恵三総理のエピソードです。日本国内でも、「平成」の元号を発表した「平成おじさん」程度にしか認識されてなくて、総理大臣になったときは海外の新聞から「冷めたピザ」という、人間と扱ってもらえていない不名誉な呼ばれ方をされました。

しかし、総理になってからは意外な調整能力を発揮します。「冷めたピザ」と言った海外メディアに対しては、笑顔でピザを抱えた姿で「TIME」誌の表紙に登場し、その度量と余裕を感じさせました。

批判に対しては実績をもって応える、そして批判した相手にはそれ以上の度量をもってユーモアで返す。まさに理想的な対応でした。総理在任中、激務のためか脳梗塞で急死したのが惜しまれます。合掌。

 

他には、吉田茂は「ワンマン宰相」、田中角栄は「闇将軍」などと呼ばれました。本人も知っていたのでしょうけど、何の痛痒も感じていなかったのでしょう。何を言い返すこともしませんでした。「その通りだけど、それがどうした」ということだったのでしょう。

歴代の総理大臣になぞらえてはダメですが、私も過去に某掲示板で「ナルシスト弁護士」とか書かれ、今でもたぶん検索すると見れると思うのですが、まあ、ナルシストというのはある程度その通りだし、実害もないので、傍観していました。

 

さて、民主党の前原氏、産経新聞が「言うだけ番長」と書いたのに対して、産経の記者を会見から出入り禁止にしたそうです。ちなみに、「言うだけ番長」という言葉は、故・梶原一騎の少年マンガ「夕やけ番長」をもじったものだそうです(本日の産経朝刊)。

前原氏としては、「言うだけ」と言われない実績を作って、ついでに、夕やけ番長のコスプレでもして雑誌の表紙に載れば、拍手喝采されただろうのに、言論封殺とも言っていいような、権力者として最悪の返しをしてしまいました。

前原氏は「ペンの暴力だ」と言ったそうですが、それは権力者が言うことではありません。

この前原氏の言動が、民主党政権の断末魔のように聞こえてきます。

大阪市職員アンケートに対し労働委員会が「勧告」

大阪府労働委員会が、橋下市長が進めようとした職員アンケートを行なわないよう、大阪市に対し勧告した、と朝刊各紙に出ています。この問題、弁護士として、また一市民としても興味あるので、どちらが正しいかといった評価は加えずに、いまの状況を整理してみたいと思います。

 

労働者は、労働組合を結成して、賃金などの労働条件について、使用者側と交渉したりする権利があります(公務員の場合、職種によって労働者としての権利の内容が制限されているのですが、ややこしいのでその解説は省略)。

橋下市長も当然、法的に認められた範囲で市職員が組合活動をするのは認めています。

問題視しているのは、勤務時間中に組合活動をしているとか、組合活動の名目で実は政治活動をしている、という点です。

たしかに、選挙の際に特定の候補を応援するとか、憲法改正反対とか原発なくせなどとデモ行進をするとか、それを個々の職員が休みの日にやるなら自由ですが、勤務時間中にやられると、市民としては「ちゃんと仕事してくれ」と言いたくなる。

で、橋下市長は、そういう活動をしてませんか、というアンケートを実施しようとしたわけですが、設問の中には、政治活動や労働組合に対する考え方について、思想調査とも取れるような内容のものがあったようです。

 

労働組合側は反発しました。その法的根拠は大まかに言って2つです。

1つは、憲法19条は思想良心の自由を保障していて、これには自分の思想信条を無理やり言わされないということも含まれる。思想調査はそれを侵害するということです。もう一つは労働組合法7条で、使用者(この場合は橋下市長)が労働組合の活動に介入したり弱体化を図ったりすることは「不当労働行為」として禁じられており、アンケートはこれに該当する、ということです。

それで、市労働組合連合会という市職員の組合の団体があり、そこが大阪府労働委員会に対し、不当労働行為が行なわれているから救済してください、と申立てをしたようです。


労働委員会とは、労使問題が発生したときに調停などに乗り出す機関で、各都道府県にあります。

大阪では、北浜と天満橋の中間あたり、フランス料理の「ル・ポンドシェル」の斜め向かいの「エルおおさか」という建物の中にあります。イソ弁(勤務弁護士)のころは、使用者側・労働者側を問わず、労働事件が多かったので、私も一時はよくここに行きました。すぐ東側の路地を入ったところに「カドボール」といういい感じのバーがありますが、それはともかく。

 

橋下市長のやったことが不当労働行為に該当するか否かについては、今後、大阪府労働委員会で審査が行なわれ、該当すると判断されれば「そんなことやめなさい」という救済命令が出ます。しかし、労働委員会の審査は裁判手続きと似た部分もあり、けっこう時間がかかる。その間、アンケートが強行されると、あとから救済命令を出しても間に合わないことになる。

それまでの間、労働委員会は、救済命令の効果を確保するために適切な措置を講じることができる、と労働委員会規則40条に定められてあり、今回の「勧告」はその規則に基づく措置です。

 

いずれにせよ、橋下市長と市職員の紛争は、労働法上の興味ある問題を多く含んでいます。極めて大ざっぱに解説しましたが、もし事実関係や法令解釈の誤りがあれば、ご指摘ください。

為替デリバティブ被害相談1 為替デリバティブとは(前編)

相談者 前回に続き、小島さん(50代、男性)。中華料理店「康楽」店主。


山内「こんにちは、小島さん。改めてのご相談とは、また何かあったんですか?」

小島「ええ、私個人の先物の件は、先生のおかげで片付いたのですが、今度は、うちの会社のほうが…」

山内「え、会社って」

小島「先生にはお伝えしていなかったのですが、うちの店、3年前に法人化して『株式会社康楽』になったんですよ」

山内「そうだったんですか。ずっと個人事業主として中華料理屋をやっているかと思っていました」

小島「多角化経営をと思いましてね。親族に手伝わせて、餃子をインターネットで通販したりして、いろいろやり始めたんですよ」

山内「たいしたものですね。では、多角化経営に行き詰ったとか…?」

小島「いえ、幸い、お店も通販も、業績はいいんですよ。でも、銀行への支払いがね…。言いにくいですけど、デリバティブとかいうやつですよ」

山内「ああ、もしかしたら、為替デリバティブですか。通貨オプションとかかな」

小島「そう! それです。さすが、先生もご存じなんですね」

山内「最近、その手の相談が増えてますよ。円安に備えましょうとか言われて契約したら、逆に最近は円高になって、大変な状況になっているんでしょう?」

小島「そうなんです。3年前に、お店を会社にして通販を始めるときに、USB銀行から資本金を借りたんです。餃子はよく売れて、借入れは少しずつですが順調に返済していたんです。で、2年前、銀行の担当者が店に来て、通貨オプションとかいうのを勧めてきたんです」

山内「担当者は何と?」

小島「会社として、海外に目を向けてやっていくには、外貨の準備が必要になるし、円安になると外貨が高くなるから、そのリスクに備える必要があるとか言ってきました」

山内「しかし失礼ながら、商品先物取引のことも分かっておられなかった小島さんが、海外通貨でオプション取引をするとか言われても、いっそう分からなかったのでは」

小島「全くそのとおりです。今日は契約書を持ってきているんですが、先生、わかりますか?」

山内「なるほど…。ええと、ざっと解説しますね。今から2年前、1ドルがだいたい90円くらいだったでしょうか、そのときに、あなたの会社は毎月、1ドルあたり80円で、1万ドル手に入れる権利を得ています」

小島「それはどういうことですか」

山内「1万ドルを手に入れようとしたら、当時の相場で、1ドル90円ですから、90万円が必要となるはずです。ところが小島さんは、80万円で手に入れることができた」

小島「なるほど、ドルが安く買えるわけですね」

山内「そうです。安く手に入れた1万ドルで、海外のモノを買うこともできるし、買うモノがなければ、国内でドルを円に換えると90万円もらえるわけだから、差額の10万円が儲かるわけです」

小島「ああ、そうそう、2年前は、月々ちょっと小遣いが稼げてましたなあ」

山内「で、稼いだ小遣いはどうしたんですか?」

小島「宗右衛門町のキャバクラで…って、まあその話はいいじゃないですか。いやでもねえ、最初は儲かっていたのに、円高が進んだあたりから、逆にこっちがお金を払わないといけないって言われたんですよ」

山内「ええ、そういう契約内容になっています。1ドル80円以上の円高になると、今度は銀行が、あなたの会社に対して、3万ドルを売りつける権利を得ることになります。しかも1ドル100円という高値で、です」

小島「と、いうことは…」

山内「あなたは3万ドルを月々手に入れますが、代わりに1ドルあたり100円でその代金を払うわけですから、毎月300万円、銀行に支払わなければならなくなります」

小島「うちの今の状態がそれです。ドルをそんなに持ってても仕方ないので円に換えるんですけどね」

山内「今の相場は1ドル79円くらいだから、国内で3万ドルを円に換えると237万円が入りますよね。300万円で買ったものを237万円で売るわけだから、差し引き63万円、毎月損をしているわけですね」

小島「そんな大変な契約だったのかあ。先生、いつまでこれが続くのですか?」

山内「契約書には、5年契約って書いてあるので、あと3年続きます」

小島「え!円高が続く限り、あと3年も、毎月多額のお金が出ていくわけですか? 何とかなりませんか?」

山内「この問題は最近、訴訟や調停の申立てが増えています。この件も、任せていただければ代理人として手続きを進めさせていただきますよ」

 

(続く)

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小沢裁判の「調書不採用」の意味

民主党の小沢一郎被告人に対する裁判について。

今週報道されたところでは、「小沢先生の了承のもとでウソの記載をした」と述べる石井秘書の供述調書が、証拠として採用されないことになったとのことです。この話、刑事訴訟の手続を知らないと理解しにくいので、専門的にならない程度に述べてみます。

 

小沢被告は、ご存じのとおり、何億もの政治資金を受け取りながら帳簿にちゃんと記載しなかったという政治資金規正法違反の容疑で裁判を受けています。

それに対し小沢被告は「私は知らない、秘書が勝手にやったことだ」と、容疑を否認しています。その弁解自体、政治家としてはどうかと思いますが、刑事事件としては「小沢被告の指示や了承のもとに秘書がウソを書いた」という証拠がない限りは、有罪にできない。

 

その有力な証拠が、検察が秘書を取り調べて作成した供述調書であったわけです。

しかし弁護側は、検察が密室で取調べをして作った調書など、裁判官の前に提出すべきでない、と申し入れることができる。その場合は、秘書を証人として法廷に呼んで、裁判官の前で一から証言させることになります。

 

検察が作った調書には「小沢先生に指示されました」と書いてあり、裁判官の前では「私が勝手にやりました」と証言することになる。

このように、調書と証言が食い違うときには、どちらを採用するかが問題となりますが、本来は、法廷での証言がいちばん重要なはずです。例外的に調書のほうを採用してよいのは、「調書のほうが特に信用できる状況のもとで作成された場合に限る」と刑事訴訟法に書いてあります。

 

ただ従来は、法廷での証言よりは、調書が重視される傾向がありました。それは、検察官は法律の専門家だから、証人に対して無茶な取調べなどするはずがない、一方、法廷では証人は被告人に遠慮して本当のことを言いにくい、と信じられてきたためです。

しかし最近は、冤罪事件が次々明るみに出たり、検察官が無茶な取調べどころか、証拠を偽造したりする(郵便不正事件)ケースも出てきて、検察官の取調べにも相当に注意の目が向けられるようになったのです。

そして今回、検察側の調書は採用しないと、裁判長は決定しました。圧力や利益誘導があったとのことです。つまり取調べの検察官が秘書に「指示されたと認めないといつまでも釈放されないぞ」とか「認めればお前の罪は軽くしてやる」などと言ったと推認され、そんな状況で自白したと言っても信用できないというわけです。

検察側が、いかに「取調室では小沢被告に指示されたと言ってましたよ」と主張したとしても、正式に採用されていない証拠に基づいて有罪判決を書くわけにはいきません。

 

今後、検察側としては(注:検察審査会の議決に基づいて、弁護士が検察官として起訴したので、検察側も弁護士です。ややこしい話ですが)、秘書の供述調書がなくても、「秘書が勝手に何億ものウソの記載をするはずがないでしょ、あなたも知っていたのでしょ」という状況証拠で立証を行うことになります。

小沢被告が「全く知らなかった」というのも常識的に考えて充分あやしいのですが、グレーゾーンなだけでは有罪にできないのが刑事訴訟の大原則です。状況証拠でクロに持ち込めるか、今後の裁判に注目したいと思います。

オセロ中島にみる民事訴訟への対応のあり方

オセロ中島のことについて軽く触れます。

ネットニュースで見たところでは、東京にある個人事務所の賃料を半年以上も滞納し、明渡しを求める裁判を起こされたそうです。14日にその裁判の口頭弁論が開かれたのですが、オセロ中島は出廷しないまま審理は終結し、2週間後の2月28日に判決が出される予定とのこと。

弁護士から見ればよくある裁判ですが、これを題材に、いくつか解説を加えます。

 

まず、賃貸借の賃料については、いかに借主の立場が法的に保護されているとはいえ、3か月も滞納すれば、賃貸借契約を解除されます。オセロ中島は、昨年6月から滞納し、3か月経った9月に契約解除の通知を受けたようです。3か月滞納しているから、解除は有効といえるでしょう。

 

それでも出て行かなければ、家主側が原告となって、「立ち退け」という裁判を起こされる。それに対し、被告側がまともな対応をするのであれば、以下の3つの出方が考えられます。

① 何か正当な言い分があるなら、法廷に出て、書面または口頭で主張する。

② 話し合いによる解決を求めるというのであれば、その意向を裁判所に伝えておく。そうすれば、裁判官が仲裁の役目を果たしてくれます。

③ 第1回口頭弁論の日時がどうしても都合が悪くて法廷に行けないなら「詳細は次回までに主張します」という簡単な答弁書だけ提出しておけば、第2回は事前に時間を調整してくれます。

自分自身が法廷に出るのでなく、弁護士に依頼することもできます。そうなれば、弁護士が代わりに法廷に立つことになります。

 

オセロ中島はこのどれをも行わず、訴えられたことに対して無視したわけです。するとどうなるかというと、原告側の主張に対し何も争いはないと見なされて、審理は終結し、すぐに判決が出ることになります。原告の主張を争わないわけですから、基本的には原告側の求めるとおりの判決が出ます。

本件で、すぐに審理が終結して2週間後に判決が出るというのは、こういう理由です。

 

書面一本出しておけば良いものを、何の対応もしないという被告の対応は異常です。被告側がこういう対応を取るのは、以下の2つのいずれかの理由であることが大半です。

A 原告の主張に対して被告には何も反論がないので、争っても仕方ないと考えている場合か、または、B 前回書いた未公開株詐欺や先物詐欺のように、被告が、判決が出るまでに資産を隠して雲隠れしようとしている場合です。

いずれも、被告としてのまともな対応ではありません。普通の人にとって裁判を起こされるということは人生の一大事であり、いずれの理由にせよ、その一大事に何の対応もしないというのは、人生を半ばあきらめている人だろうと感じます。

 

オセロ中島だって、然るべき人に相談すれば、きちんと対応してくれたはずです。それを勧める人もいたでしょう。オセロ中島は、それも聞き入れないくらいに、人の意見に耳を貸さなくなったのかも知れません。

週刊誌などによればオセロ中島は自称占い師みたいな人に入れあげているようですが、こういう人も、前回書いたとおり、話をややこしくする人々の一例といえます。

今後は、オセロ中島に立ち退きを命ずる判決が出て、それでも立ち退かないなら強制執行で無理やりにでも出させることになります。それは占いよりももっと確実に予想しうることです。目を覚まして今からでも弁護士に相談に行ってほしいものです。

今後も法律相談シリーズにお付き合いください

昨年末ころから、ブログのテーマとして法律相談シリーズが増えておりまして、時事問題ネタを期待いただいている方がおられましたら、そっちのほうは怠りがちですみません。もしリクエストがありましたら、極力書きますのでお寄せください。

今後も、当事務所の業務案内も兼ねて、私(山内)の得意分野の法律相談をシリーズ化して書いていくつもりです。中には、読者の方々になじみのないテーマもあるかと思いますが、ご了承願います。

 

今さらながらの話ですが、正しい法律知識は本当に必要なことであると、常々思います。

たとえば、最近、未公開株や社債を買えば儲かる、といった類いの話に騙されて高額のお金を預けてしまったという話が、新聞などでも報道されています。

この手の詐欺が増えた理由の一つは、前回のテーマに書いた先物取引と関連しています。もちろん健全な業者も少なくないと思いますが、違法すれすれ(または違法そのもの)の先物業者は最近の法改正で淘汰され、あぶれた社員らが、その手の詐欺に関わっていることが推測されるのです。

 

それから、インターネットの普及によって、法律問題に言及するサイトも増えて、それはそれで望ましいとは思うのですが、内容的には玉石混淆です。無責任なことを書き散らしているだけとしか思えないものも散見される。

 

無責任に「相談」を請け負って話をややこしくする人も多い。

当事務所の依頼者にもいますが、たとえば、多額の負債を抱えて、その整理のために弁護士を代理人につけて破産や民事再生を申し立てることが考えられる場合に、その人の「ブレイン」を自称する人が「俺に任せておけば債権者とうまく話をつけてやる」などと言って出てきて、余計にこじらせてしまったということも、何度か経験しました。

あと、離婚問題などで、離婚カウンセラーとか自称する人がいますが、その手の知識が豊富だと自認する人が、当事者にあれこれ誤った知識をふきこんで、事態をややこしくさせるということも経験しています。

 

私に限らず、弁護士は、破産でも離婚でも未公開株詐欺でも、出るところに出て、一緒に最後まで戦うことができる、という存在です。他にそういう業種は存在しません。

債務整理の自称ブレインや離婚カウンセラーなどは、自分たちは決して表に出てきません。裏であれこれ言うだけです。

でも弁護士は自分の顔も名前も所在もさらして、紛争当事者の身代わりになります。預かった事件に最後まで責任を持っています。たまに紛争の相手方に殺される弁護士もいます。大げさな言い方ですが、弁護士として事件を預かった以上は命がけです。

 

そんなふうにして、依頼者とともに悩んだり戦ったりしてきた話を、今後も思いつき次第、ちょくちょく書くと思います。ご興味のある範囲でお付き合いください。

先物取引被害相談4 証人尋問から事件終了まで

大阪地裁 第420号法廷。ゴールド物産の男性社員の証人尋問。

 

山内「あなたが小島さんの先物取引の担当者だったのですね」

社員「はい」

山内「あなたが担当されているときに、金のデイトレード、つまり1日のうちに買ったり売ったりが繰り返されているのですが、これはなぜですか」

社員「ええ、買ってすぐに金相場が上がることもあるので、その日のうちに売って、利益を確定させたいと、小島さんがおっしゃったのです」

山内「小島さんは毎日、中華料理店の仕込みで忙しいのだから、相場の動きを見て頻繁にあなたに電話するのは困難だったはずです。あなたが取引を主導したんでしょう」

社員「私から携帯に電話することもありましたけどね。そのときは出られなくても、後からかけなおしてくれました。デイトレードのことはきちんと説明して、小島さんにも納得してもらっていました」

山内「では、金相場が下落しているときにまでデイトレードをしているのはなぜですか。そんな状況で売れば損をしてしまうでしょう」

社員「いえ、相場がこれから大きく下がりそうなときは、下げ幅が少ないうちに売ったほうが、損失は少なくて済むので」

山内「それから、最初は金の取引を勧めておりながら、途中から、とうもろこしや大豆の先物にも取引が拡大しているのはなぜですか」

社員「これも、金だけの一点張りよりは、複数の銘柄で取引をしたほうが、リスクも分散できるということで、私と小島さんでよく相談して決めたことです」

山内「しかし、とうもろこしと大豆の買いを入れた3月○日の午後といえば、小島さんは上海に食材の買付けに行った帰りで、飛行機の中におられたと思うのですが、よく相談したって、どうやって連絡を取り合ったのですか」

社員「えー、ですから、小島さんが関西空港に着いたときに、電話連絡をしたんですよ」

山内「海外帰りで慌しいのに、小島さんが冷静に判断できる状況であったと思いますか」

社員「いや、小島さんの状況は知りませんけど、とにかく連絡して、納得してもらって買いを入れたんですよ」

(後略)

 

同日、証人尋問終了後、裁判官室にて。

 

裁判官「たしかに、小島さんのような先物取引の素人に、1か月で500万円も出させたのは、やりすぎの感があります。小島さんが落ち着いて判断できない状況下で取引が拡大させられた部分はあるでしょう。それにゴールド物産がデイトレードで多額の手数料を得たことも否定できない」

小島「ええ、そのとおりですよ」

裁判官「しかし、50代の分別ざかりの男性で、しかも自身で料理店を経営しているほどの方が、先物取引のことは何もわからなかったとか、損失を負うリスクが理解できなかったとか言っても、頷けないところもあります。軽い考えで先物に手を出した小島さんにも、落ち度はある」

小島「は、はあ、そうですなあ…」

裁判官「これは私の考えですが、双方の落ち度にかんがみて、ゴールド物産側は小島さんに、損失額の6割を返還するということで、和解するのはいかがでしょうか」

ゴールド物産の代理人弁護士「6割かあ…。ちょっと厳しいなあ。まあ、会社に連絡を取ってみましょう」

 

同日、南堀江法律事務所にて。

 

小島「いやあ、まあ何とか、首はくくらずにすみました」

山内「ゴールド物産が6割の返金に応じてくれてよかったですね。和解金の300万円は、今月末までに振り込まれるようです」

小島「残りの200万円は損しましたけど、これも勉強代と思えば我慢できます」

山内「そうですね、本業でがんばるのが、何より手堅く儲かるものです」

小島「ありがとうございました。また明日から『康楽』でコツコツやっていきます」


こうして、「康楽」にひとときの平和が訪れました。しかしこのときすでに、次なる波乱が幕を開けようとしていたのでした。


(注:先物取引を行なっている方に限らず、誰にでも平易に読めることを主眼に書いておりますので、先物取引の仕組みや、裁判でのポイントなどは、ずいぶん単純化して書いております。ご了承ください)