大阪市職員アンケートに対し労働委員会が「勧告」

大阪府労働委員会が、橋下市長が進めようとした職員アンケートを行なわないよう、大阪市に対し勧告した、と朝刊各紙に出ています。この問題、弁護士として、また一市民としても興味あるので、どちらが正しいかといった評価は加えずに、いまの状況を整理してみたいと思います。

 

労働者は、労働組合を結成して、賃金などの労働条件について、使用者側と交渉したりする権利があります(公務員の場合、職種によって労働者としての権利の内容が制限されているのですが、ややこしいのでその解説は省略)。

橋下市長も当然、法的に認められた範囲で市職員が組合活動をするのは認めています。

問題視しているのは、勤務時間中に組合活動をしているとか、組合活動の名目で実は政治活動をしている、という点です。

たしかに、選挙の際に特定の候補を応援するとか、憲法改正反対とか原発なくせなどとデモ行進をするとか、それを個々の職員が休みの日にやるなら自由ですが、勤務時間中にやられると、市民としては「ちゃんと仕事してくれ」と言いたくなる。

で、橋下市長は、そういう活動をしてませんか、というアンケートを実施しようとしたわけですが、設問の中には、政治活動や労働組合に対する考え方について、思想調査とも取れるような内容のものがあったようです。

 

労働組合側は反発しました。その法的根拠は大まかに言って2つです。

1つは、憲法19条は思想良心の自由を保障していて、これには自分の思想信条を無理やり言わされないということも含まれる。思想調査はそれを侵害するということです。もう一つは労働組合法7条で、使用者(この場合は橋下市長)が労働組合の活動に介入したり弱体化を図ったりすることは「不当労働行為」として禁じられており、アンケートはこれに該当する、ということです。

それで、市労働組合連合会という市職員の組合の団体があり、そこが大阪府労働委員会に対し、不当労働行為が行なわれているから救済してください、と申立てをしたようです。


労働委員会とは、労使問題が発生したときに調停などに乗り出す機関で、各都道府県にあります。

大阪では、北浜と天満橋の中間あたり、フランス料理の「ル・ポンドシェル」の斜め向かいの「エルおおさか」という建物の中にあります。イソ弁(勤務弁護士)のころは、使用者側・労働者側を問わず、労働事件が多かったので、私も一時はよくここに行きました。すぐ東側の路地を入ったところに「カドボール」といういい感じのバーがありますが、それはともかく。

 

橋下市長のやったことが不当労働行為に該当するか否かについては、今後、大阪府労働委員会で審査が行なわれ、該当すると判断されれば「そんなことやめなさい」という救済命令が出ます。しかし、労働委員会の審査は裁判手続きと似た部分もあり、けっこう時間がかかる。その間、アンケートが強行されると、あとから救済命令を出しても間に合わないことになる。

それまでの間、労働委員会は、救済命令の効果を確保するために適切な措置を講じることができる、と労働委員会規則40条に定められてあり、今回の「勧告」はその規則に基づく措置です。

 

いずれにせよ、橋下市長と市職員の紛争は、労働法上の興味ある問題を多く含んでいます。極めて大ざっぱに解説しましたが、もし事実関係や法令解釈の誤りがあれば、ご指摘ください。

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