日本のトップに立つ政治家は劣化しているとよく言われますが、それは政治家が劣化しているということなのか、国民全体が劣化しているのか、という話に触れようとしております。
もっとも、私には政治のことはよくわかりませんので、自分に身近なところから説き起こす他なく、そのため、まずは弁護士を題材にとってみます。
弁護士といってももちろん、ピンからキリまであり、極めて優秀な人もいれば、依頼者のお金を着服してしまう人もいます。それでも、全体の平均というものをとってみれば、おそらくここ最近、弁護士は劣化していると思います。
その理由は何かというと、一つには、司法試験の合格者数が、一昔前は500人程度だったのが現在は2000人になったということです。とはいえ、試験の成績が下のほうの人でも合格するようになったということが直接の原因ではなく、ただ結果として弁護士の数が増えたことで、競争を強いられるようになったということが挙げられると思います。
加えて、今となっては信じがたいことですが、一昔前は弁護士が広告をすることが禁じられていたのが解禁されたことと、近年のインターネットの普及ということが、それに拍車をかけています。
これらの要因によって、一般市民の弁護士へのアクセスは、間違いなく良くなりました。
本当に、一昔前は弁護士事務所なんて紹介がなければ行けなかったところです。それが今では、テレビやラジオでも宣伝が流れ、インターネットを見れば、食べ物屋さんを探すかのように弁護士も選び放題といった感があります。
私はこのようにして、弁護士へのアクセスが従来に比べれば良くなったこと自体は良かったと思っています。昔は、大した仕事もしていないのにエラそうにしている弁護士も多かったはずで、それでも数が少ないから弁護士というだけで有難がられたはずです。そういう弁護士が淘汰されることは、望ましいことです。
このようにして弁護士へのアクセスが容易になることで、本当に法的救済が必要な人々の多くが救われたであろうことは容易に想像されるからです(一例として、サラ金各社への過払い金返還請求を弁護士が広く行うことで、借金苦から倒産、失踪、自殺といった行動を取ることを免れた人は多数いたはずです)。
ただその一方で、弁護士へのアクセスが容易になりすぎた結果、一昔前ならわざわざ弁護士に相談しなかったような相談、仮に相談されても弁護士は受けなかったであろうと思わせる相談が増えている、とも感じます。
そして、そういういわば「くだらない事件」でも、最近の若手弁護士は人数も増えて競争過多であるため、自身が食っていくために、受任せざるをえない。
くだらない事件とはどういうものか、それは次回にもう少し書きますが、こうして、委任される事件の質の低下が、それを代理人として引き受ける弁護士の仕事の質を低下させる状況となっているわけです。
(なお注。こういうことを書くと、当事務所にご依頼・ご相談いただいている方々の中でブログを見てくださっていて、くだらない事件とは自分の依頼のことではないか、と気遣われる方もおられるかも知れませんが、幸いにも私にはくだらない事件は受任を拒否する程度の余裕はありますので、私が受任している事件について云々しようとしているものではありませんことをあらかじめ述べさせていただきます)