福岡の飲酒事故で考える「危険運転」とは何か

福岡で平成18年に起きた、飲酒運転の車に追突され3児が死亡した事故で、被告人である元公務員の男性に危険運転致死罪が適用され、懲役20年の刑が確定しました(最高裁、11月2日)。

この判決、3人も亡くなったのだから決して重くはない、と感じる方が多いのではないかと思います。もちろん、亡くなった子供たちはあまりに可哀そうで、飲酒事故として極めて悪質なケースであると思います。それでも私はこの判決は、いろんな意味において「重い」と思っています。そのことを以下書きます。

 

この事件での一番大きな争点は、この被告人に、業務上過失致死(5年以下の懲役)が適用されるのか、危険運転致死罪(20年以下の懲役)が適用されるのかという点でした。

ざっとまとめますと、裁判は以下のような経緯をたどっています(詳しくご覧になりたい方は、旧ブログにアクセスし、左下の「ブログ内検索」で「危険運転致死罪」で検索してください)。

 

平成20年1月、1審の福岡地裁は、検察側が危険運転致死罪で起訴したのに対し、業務上過失致死罪プラス道交法違反(酒気帯び運転)で、合計7年半の懲役としました。

判決に至る経緯も異例で、いったん審理が終結したあと、福岡地裁は審理を再開し、検察側に「訴因変更」を促しました。つまり、危険運転致死罪の適用は無理っぽいので、業務上過失致死罪にしときませんか、と裁判官が示唆したのです。

危険運転致死罪(刑法208条の2)は平成13年にできた条文で、どういう場合に適用すべきか、判例も固まっておらず、裁判官も重罰の適用に慎重になったのでしょう。

しかし2審の福岡高裁は平成21年5月、危険運転致死罪の適用を認め、20年の懲役刑を下します。被告人の上告を最高裁がこのたび棄却し、懲役20年が確定したわけです。

 

このように「危険運転致死罪」が適用されるか否かで、刑罰に大きな差が生じます。

危険運転とは、刑法208条の2に「アルコールや薬物で正常な運転が困難な状態とありますが、最高裁が言うには、それは「前方を注視し危険を的確に把握して対処できない状態」で運転することだそうです。ただそれだと、「酒気帯び運転」とどう違うのか、いま一つ判然としません。

 

しかも、危険運転致死罪の条文には、これだけでなく、「車を制御困難な高速度で走らせた場合」、「高速度で通行妨害目的で他の車に接近した場合」、「高速度で赤信号を無視した場合」も同様に扱う、と書いてあります。

ちょっとスピードを出しすぎた、ちょっと強引に車線変更した、信号が変わりそうだからスピードを上げたetc、車を運転する人なら多くは経験しているのではないかと思います。

そのはずみに人をひいてしまった場合、これまでは「業務上過失致死プラス道交法違反」で裁かれていたのが、今後は「危険運転致死傷罪」で裁かれる可能性が、今回の最高裁判決をきっかけに、間違いなく高まるでしょう(しかも、被害者が死んでいなくてケガだけであったとしても、適用される条文は同じです)。

 

繰り返しますが今回の事件が悲惨で悪質なものであることは異論がありません。ただ、その悪質さを重視するあまり、危険運転致死罪の幅を広げすぎて、道交法違反との境界があいまいになってしまったのではないか、そういう点で今回の最高裁の結論は重いと思うのです。

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