弁護士の「負け方」を考える

誰だったか、プロ棋士のエッセイで読んだことがあるのですが、プロは負けるとわかったら、あとは「きれいな負け方」をするような手を指してから投了するのだそうです。

たしかに、プロの将棋の試合は、棋譜がずっと残されるし、投了図(勝負がついたときの盤面)は新聞や雑誌の観戦記事に掲載される。あまりに無様な負け方はできないということです。

 

どんな勝負ごとにも、負けるときの作法みたいなものがあると思います。

弁護士なら、裁判がある程度すすんでくれば、この事件は「勝ち筋」か「負け筋」か、だいたいわかります。負けが見えてきたら、弁護士の取るべき態度としては次の3種類が考えられます。

最も望ましいのは、当然ながら、主張や証拠を補足して、何とか逆転勝訴に持っていくことです。

それが無理なら、争う姿勢だけは示しておいて、一方で相手と話しあいを進め、和解に持ち込むことです。

この2つが不可能であれば、あとは、必要な主張はすべてしたということが、依頼者にも裁判官にも相手の弁護士にもわかる程度に手を尽くした上で、敗訴の判決を聞くことになります。これが弁護士なりの「きれいな負け方」ということになります。

 

しかし、これら3つのどの方針を取るにしても、依頼者の協力は必須条件です。弁護士の口先だけで裁判の流れが変わるものではないので、主張を尽くすにも話しあいをするにも、依頼者の理解と協力がなくてはできません。

残念ながら、そこが理解いただけていないことが、しばしばあります。特に、最初は裁判に乗り気だったけど、敗色濃厚となるにつれて、打合せにも来ない、必要な資料も用意してくれない、電話しても出ない、という態度を取る方が、たまにいます。

そうなると弁護士は法廷で「依頼者と連絡が取れないため、今回は何も主張の準備ができてません」と言わざるをえなくなります。そんな状態が続くと、それ以上争う意思なしと見なされて、そのまま敗訴となるでしょう。プロとしてはかなり恥ずかしい負け方です。

 

恥ずかしい負け方といえば、最近の報道で、民主党の横峯議員が、週刊新潮の「賭けゴルフ」の記事が事実無根で名誉毀損だと訴えていた事件で、自ら「請求放棄」した、というのがありました。

請求放棄とは、簡単にいうと、裁判を起こした当の原告が、私の請求はすべて間違いでしたとして、負けを認めるものです。

昨年5月にも、旧ブログで、民主党の山岡議員の請求放棄に関して書きました。請求放棄についてはこちらをあわせてご参照ください。

これなど、弁護士としては最も恥ずかしい負け方でしょう。もちろん、請求放棄するのはあくまで原告である横峯議員や山岡議員の意思ではあります。しかし弁護士なら、裁判を起こす前の段階で、最後まで争っていけるだけの材料があるかどうか確認していなかった、つまり見通しが甘かった、と言われても仕方ないのです。

 

負けるときにはきれいに負けたい、そのためにも依頼者と強固な信頼関係を結ぶ必要がある、請求放棄の記事を見て、自戒を込めてそう思った次第です。

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