最高裁で強姦事件に逆転無罪判決 2

前回の続き。
痴漢事件では最近、無罪判決が増えつつあり、強姦事件でも今回、最高裁で無罪判決が出ました。これまで、無実なのに見過ごされて有罪とされた事件も、おそらく皆無ではないでしょう。

この手の事件で冤罪が生じやすい理由は、客観的な証拠が乏しいことや、目撃者が少ないために被害者の証言が決め手になってしまう点にあります。

被害者は、自分が刑事裁判に巻き込まれ、法廷で証言するのも恥ずかしいことであるのに、あえてウソの被害申告をするはずもない、だから被害者の証言は信用してよい。一方、容疑者や被告人は、自分が有利になるよう弁解するのが常であるから、その証言は疑ってかかる必要がある。これが従来の傾向だったと思います。

前回書いたとおり、大多数のケースでは、その考え方でよいのです。ただ、その一般論が妥当しないケースも少数ながら存在する。 

記憶に新しいところでは、2年前、大阪の地下鉄の車内で、女性が乗り合わせた男性客を痴漢として訴え、その男性客が一時、身柄拘束されるという事件がありました。女性は示談金をあてにしてその男性をゆするつもりだったのです。

これは、背後にその女性の友人の男子大学生(後に虚偽告訴罪で実刑)がいて、計画的に行なわれたという、かなり特異なケースであったといえます。

しかし、被害者の証言には時としてウソが混じること、そして、真実であれウソであれ、女性の「このひと痴漢です」の一言で男性は簡単に逮捕されてしまうことを、この事件は明らかにしました。この事件ではたまたま早い段階で真実が露呈したとはいえ、たいていのケースでは長い身柄拘束となり、痴漢と言われた男性は社会的に抹殺されてしまう。

ですから、被害者の証言を重視することは当然であるとしても、それを偏重することはあってはならない。それは刑事訴訟法の教科書にも出てくるような基本的なことなのですが、これまでは軽んじられてきたのです。

今回の無罪判決が出た事件に話を戻しますが、前回書いたとおり、被告人の男性が当初から言っていたのは、「3万円払うからと言って手で抜いてもらった」ということです。しかし男性は3万円を払わず逃走した。

最高裁の判決には明確には触れられていませんが、判事の頭の中には「3万円を払ってくれなかった腹いせで強姦と訴えたのかも知れない」ということがあったでしょう。
そういう点でも、被害者の証言はよくよく吟味される必要があった。今回の最高裁のスタンスは妥当であったと思います。

さて、ではこの被告人、強姦ではないとしても、3万円を払わなかったことについては何の責めも負わなくてよいのか。その点は次回に検討します。

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