PC遠隔操作事件に感じたこと

前回書いたパソコン遠隔操作事件で、片山被告人が、22日の法廷で、一連の事件はすべて自分がやったと自白したそうです。これまで無罪を争ってきた片山被告人の弁護人(佐藤弁護士)も、裏切られた思いでいるのかも知れません。

 

この顛末に関して、我々弁護士、それぞれ思うところもあるのですが、おおよその思うところは一致していると思います。

それは、ウソをつく被告人でも弁護する必要があるということです。その理由はいろいろありますが、最大の理由は、日本国憲法に、被告人には弁護士をつけなければならないと書かれていることです。

私も、同じ立場にあれば、憲法上の職責として、佐藤弁護士と同じような弁護方針を取ったと思います。

 

付け加えて言えば、たいていの弁護士は、民事事件の依頼者や、刑事事件の容疑者・被告人に、ウソをつかれたことがあります。だから今回の事件を見て、多くの弁護士は、程度の差はあれ、同じような経験をしたことを思い出したことでしょう。

私にも、詳細は書きませんが、そういう経験があります。私自身は、事件の当事者というのは、自分に不利なこと、恥ずかしいことは隠したがるのが人情なので、ウソをつくのはある程度は仕方がないことと思っています。

だから、もし依頼者がウソをついていることが判明したとしても、私はその人を非難やら叱責することはありません。ただ、最初から本当のことを言っててくれれば、もっと別の弁護のやりようはあったのにな、とは毎回思います。

 

さて、多くの弁護士が、この一件の顛末から感じていることがもう一つあります。

それは、この事件に関しては、警察・検察の捜査が自白に頼り切りであったのがおそろしいということです。

片山被告人が逮捕されるまでの間、パソコンを遠隔操作された無実の人が4人も逮捕され、そのうち2人は「自白」したことです。警察が無実の人に「私がやりました」と言わせたのだから、相当に苛烈な取調べをしているはずです。

一方で、片山被告人は、「自作自演」で自滅するまで、「私は無罪」と言い続け、保釈までされていました。今回の自滅から自白に至る流れがなければ、裁判は検察側に不利な状況だったと、多くの法曹関係者は見ていたようです。

 

証拠で事実を明らかにするのでなく、容疑者や被告人の自白に頼るのは、捜査手法としては前時代的なものです。

今回は、私も仕組みがよくわかりませんがパソコンを遠隔操作したという事件でした。これから時代とともにいろんな新技術が現れてきて、警察も裁判所もよく理解しえないような複雑怪奇な事件も起きるかも知れません。

そんなとき警察が、証拠で犯人を突き止めるのは困難だから怪しいヤツに自白させてしまえ、という意識で捜査にあたってしまうと、またきっと同じようなことが起きます。多くの弁護士はそれを心配しています。

 

(注:片山被告人は現在まだ裁判中で、有罪が確定したわけではありませんが、その自白が真実であるという前提で書きました。)

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