東京電力の賠償責任 1

福島の原発はまだ予断を許さない状況のようですが、そろそろ、今後の「賠償」をどうしてくれるのか、という話が出ているようです。

例えば、農作物の出荷停止などによる被害を受けた農家に対しては、農協(以下JA)が融資や補償を行い、その分は農協が取りまとめて東京電力(以下東電)に請求する、ということになるようです。

その東電の賠償責任について書きます。
問題は大きくわけて2つで、1つめは、東電に法律上の賠償責任があるか否か、2つめは、誰がどれだけの賠償額を負担するか、です。

まず1つめの問題。
電力会社の賠償責任については、「原子力損害の賠償に関する法律」が定められていると、少し前にも書いたとおりです。

この法律は、原子力事業者(ここでは東電)に対し、原子力災害については「無過失責任」を負わせます。つまり、原子炉の管理に落ち度はなかったとしても、結果に対する責任を負わせるものです。
本来は、故意も過失もない人に結果責任を問うことはできないというのが法の大原則ですから、これはこれで重い責任です。

ただし、原子炉の事故が「異常に巨大な天災」などにより生じた場合は責任は負わない、とされています(3条)。
私は少し前のブログで、今回の地震は「異常に巨大な天災」にあたるであろうと書きました。しかし政府は「あたらない」として、東電が責任を免れるものではないと考えているようです。

何をもって「異常に巨大」とするのかは、これまでほとんど論じられず、判断基準もないと言えます。この問題を、誰がどう決めるかというと、もちろん裁判所です。

具体的には、JAが東電に賠償を求めて裁判を起こす、東電側が「異常に巨大な天災」であると主張して賠償を拒否する、そうなれば裁判所が判決を出して決着させることになります。

ただ、現在の状況では、東電がこの条文を持ち出して賠償を拒否することはなさそうです。そんなことをすると、東電は轟々たる非難を受けるでしょう。法律を持ち出せば勝てるかも知れないけど、企業の社会的責任を考えて、裁判に持ち込まずに賠償に応じるというのも、ままあることです。

ということで、1つめの問題の回答は、東電に法律上の賠償責任はないかも知れないけど、おそらく東電は自ら任意に賠償責任を負うであろう、ということになります。

そこで2つめの問題。東電はいくらの賠償責任を負うか。ここ最近の報道では、東電が負担するのは1200億円までで、あとは国が負担する、などと言われています。
このことの意味については次回に書きます。

教育不足の板長のごとき総理

この度の震災で被害を受けた方々にお見舞い申し上げます。

報道は地震一色でして、伊藤リオンが東京地裁で懲役1年4か月の実刑判決を受けましたが、もはや「え、リオンって誰だっけ?」と思わしめるような、小さな扱いで済まされています。

未曾有の大災害を前に、法律家のブログとしてはどんなアプローチが可能かを考えあぐねた末に、ここはひとまず雑談でも書いてみることにします。

居酒屋評論家として有名な太田和彦さんが、ダメな店の典型は客の前で店員を叱る店だ、とどこかで書いておられ、私もまさにその通りだと思います。

少し高級な店で、板長が客の前で若い板前さんを叱りつけて、そのあと板長が客に「いやすいませんねえ」と笑顔を作ってみせるようなことがあります。

板長としては、仕事は厳しくやっていると見せつけたいのだろうけど、理由は何であれ、食事中に人が叱られているのを見せられると、お酒や食べ物が不味くな
るし、何より、営業中に店員を叱らないといけないのは、普段の教育ができていない証拠だと、そんなことを書いておられました。

私が菅総理に対して気色の悪さを感じるのも、まさに同じ理由です。

菅総理は今般の原発の問題で、東京電力の本店に乗り込み、職員に「どうなっているんだ」「覚悟を決めろ」などと、報道陣に聞こえるように怒鳴りつけたそうです。そのあと記者会見で国民に対し「心配をおかけします」などと述べたとか。

少しは法律家らしいことも書きますが、災害に対する国の責務がどうあるべきかは、法律にきちんと書いてあります。
昭和34年の「伊勢湾台風」を受けて昭和36年にできた「災害対策基本法」がそれで、さらに平成11年には「原子力災害対策特別措置法」という法律が定められています。

詳細は省きますが、これらの法律によると、国は、原子力災害の予防や事後対策のために必要な措置を講じなければならない、と定められています。

菅総理をトップとする日本国政府は、原発が暴走しないよう、関係省庁や電力会社に然るべき指示をして安全な仕組みを確立し、もし事あらば速やかに対処できるような体制を作っておかねばならなかったのです。

今回の東京電力の対応は、確かに素人目に見てモタモタしている印象を受けますが、それでも彼らは現場で文字どおり命がけでやってくれているのだと思います。
そして彼らが命を賭けないといけないような状況に陥らせた最終的な責任は、法律を読む限り、どうしても政府にあると考えざるを得ない。

その政府のトップが、自らの職責を果たさなかったことを棚にあげて現場を怒鳴りつけるという光景に、普段の教育をしないくせに板前をしかりつける板長と同じような不快感を持ってしまうのです。