離婚相談4(完) 離婚調停

大阪家庭裁判所 調停室にて。

裁判官「では、申立人である妻・エリカさんと、相手方である夫・ツヨシさんの離婚調停について、本日合意が成立した内容を読み上げます。

エリカさんとツヨシさんは本日をもって調停離婚する。ツヨシさんはエリカさんに対し、慰謝料として金100万円、財産分与として金150万円を支払うこととし、本年10月末日までにエリカさんの口座に振り込む。……」

 

家庭裁判所前の歩道にて。

エリカ「先生、どうもありがとうございました。1回の調停で話がついてホッとしました」

山内「意外に早く終わりましたね」

エリカ「慰謝料はちょっと値切られたかな、という気もしますけど」

山内「まあでも、裁判になれば、例のラブホテルの写真を提出して、ドロ沼みたいな話になったでしょうから、その負担を考えると、合理的な範囲の数字だと思います」

エリカ「そうでしょうね。私の友達でも、夫に資産が全くなくて、1円も取れなかったという人もいるんで、それを思うとずいぶん良かったです」

山内「ご主人、いや、もう『元』ご主人ですけど、それなりに真面目に新聞配達の仕事をしておられたんでしょうね。不倫は感心しませんけど」

 

後ろからバイクのエンジン音。

ツヨシ「おーい、エリカ~」

エリカ「あら、ツヨシ」

ツヨシ「先生、エリカとちょっとしゃべっていいかい?」

山内「構いませんよ。どうぞ」

ツヨシ「エリカには迷惑かけたなって、それだけ謝りたくてな。それと、これからがんばれよ」

エリカ「うん。あなたもがんばって新聞配達してね」

ツヨシ「いや、俺はもう新聞配達をやめることにしたよ」

エリカ「え、これからどうするの?」

ツヨシ「友達のツテで、スペインに行くことにしたんだ」

エリカ「スペインで何するの?」

ツヨシ「パエリア屋を開くんだ。『ハイパー・パエリア・クリエイター』になって、いつか日本に凱旋するよ。エリカもさあ、実家に帰るくらいだったら、しばらく俺の家にいてくれていいぜ。じゃあな」

ドドドド…と遠ざかるハーレーのエンジン音。

山内「……」

エリカ「……」

秋の風。

 

山内「スペイン人が日本に来て寿司屋をやるようなもので、到底うまくいくとは思えないんですけどね…」

エリカ「いつもああいう、地に足のつかないことばかり言ってたんです、彼。でももう、私がとやかく言う立場にもないですし…」

山内「スペインに行く前に、きちんと慰謝料を振り込んでくれればいいんですけどね」

エリカ「もし振り込んでくれなかったら、どうなるんですか」

山内「先ほど裁判官が読み上げた調停条項が、後日、調書になります。これは判決と同じ効力を持つので、お金を払ってくれなければ差押え手続ができます。元ご主人は家を持っておられますから、最悪、その家を差し押さえて競売にかけることになるでしょう」

エリカ「そこまで悪い人じゃないと思うんで、信じて待つことにします」

山内「それともう一つ、今日をもって離婚は成立したことになりますが、市役所にはこのことを届け出る必要があります。調停調書はエリカさんのところに郵送されますから、それを役所の窓口に持参してください」

エリカ「わかりました。手続きは以上ですか。他に何かすべきことはありますか」

山内「別に…。これからは新たな人生をお過ごしください。また新たな幸せをつかまれることを、祈っております」

エリカ「ありがとうございました」

 

(了)

小沢一郎の元秘書、3人の「被告」に有罪

小沢一郎の元秘書ら3人に、政治資金規正法違反で有罪判決(26日、東京地裁)。さかんに報道されたとおりで、特にここで付け加えるほどの話はありませんが、少し触れます。

 

裁判上の争点としては単純で、秘書らが、ゼネコンから億単位のお金を受け取っていながら、それを政治資金として帳簿に記載しなかったことが虚偽記入にあたるか、またそれが秘書らの共謀によるものであるか否かが争われました。

3人の秘書が罪を自白したとされる供述調書が、検察側の威迫や誘導によるものだという理由で証拠として採用されず却下されたという、郵便不正事件で厚労省の村木氏に無罪判決が出たときと似たような経緯をたどりましたが、お金の流れや帳簿の記載などの証拠からして、3人を有罪にしたようです。

 

今後、小沢一郎の裁判が控えていますが、ここでは、小沢一郎が秘書らにそういった虚偽記入を行うよう指示したか否かが問題になるでしょう。

こちらのほうは、検察側がいったん不起訴にしたところ、検察審査会の決議に基づいて起訴された(マスコミのいうところの「強制起訴」)という経緯をたどりました。検察が、有罪かどうか微妙だと思って起訴を見送ったわけですから、どういう結論になるかは予測がつきません。

ただ、民主党の大好きな「国民の目線」で考えると、ボス(小沢)が指示もしないのに、秘書だけの判断で億単位のお金を帳簿に記入しないということは考え難いでしょう。

私も職業柄、お金を預かることは多いですが、事務員は私の指示がないことには1円のお金も動かしませんし、帳簿に載らないようなお金を私に代わって受け取るようなことはありえません。私に限らず、ほとんどの自営業者はそうでしょう。

もっとも、グレーなだけでは有罪にできないのが刑事裁判であり、小沢一郎が「黒」である証拠や証言が出てくるのかどうかが注目されるところです。

 

少し話が変わって、これも以前に書いたことですが、新聞などでは今回有罪になった秘書を「石川被告」などと表現していますが、小沢一郎については、起訴され刑事裁判を受ける立場であるのは同じなのに、「小沢氏」「小沢元代表」と書かれています。

検察審査会の議決に基づく強制起訴の場合、マスコミは「被告」呼ばわりしないのか、とも思っていたら(それもおかしな話ですが)、一方で、JR脱線事故の報道では「JR福知山線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の元社長、井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の3被告の公判前整理手続きの…(以下略)」と「被告」の肩書を使っているものも見受けられます(上記は9月27日の「MSN産経ニュース」から引用)。

結局、小沢一郎に遠慮してるのだな、としか思えない報道ぶりなのです。このようにマスコミは、同じように「刑事被告人」の立場である人に対し、ある人は「被告」と書き、ある人は「氏」と書くのです。このことは、刑事事件報道を見る際に、少し念頭に置いていただきたいと思っています。

なぜ裁判は長い時間がかかるのか、モンテスキューの言葉から考える 2

モンテスキューの話しの続きです。前回、裁判に長く時間がかかる根本的な理由は、個人の自由を守るためである、と書きました。

モンテスキューは「法の精神」の中でこう言っています(第6編・第2章、要約)

自分の財産を返却させるため、あるいは何らかの権利侵害に対し賠償を得るために市民の払う労苦との関係で見れば、裁判の手続きはあまりにわずらわしいと思われるだろう。しかし、市民の自由と安全との関係でみれば、それはむしろ簡易に過ぎると思われるだろう。

裁判に払う労苦、出費、遅滞は、各市民がおのれの自由のために払う対価なのである。

 

モンテスキューは近代の裁判制度との対比として、大昔のトルコでの裁判制度を以下のように紹介しています。

トラブルになった当事者(つまり原告と被告)は、裁判担当の役人のところに出頭すると、役人は双方の話をだいたい聞いて、あとは、その役人が棒を持ちだしてきて、当事者の一方または双方の脚を棒で叩いた上で、家に帰すのだそうです。

モンテスキューが「法の精神」の中で紹介している諸外国の制度の中には、誤解に基づくものも結構あるそうなので、トルコで昔このような裁判が本当に行なわれていたかどうかについては私も知りません。しかし、未開の国では似たようなことが行われていたでしょう。

こうした制度であれば、裁判はその日のうちに終わります。しかし、そんな制度を利用したいと考える人はいないでしょう。人はいつでも、訴える立場になることもあれば、訴えられる立場になることもあります。そのときに、一方または双方が脚を叩かれて終わるという裁判が合理的であるはずがない。

正しい裁きを下そうとすれば、双方の主張と反論を尽くさせて、それを証拠に基づいてきちんと吟味するというプロセスは必須になるのです。

 

と、ここまで説明しても、紛争の当事者は、納得されないことが多いでしょう。

「互いの言い分を時間をかけて聞かないといけないのは、どちらが正しいかが微妙なケースでしょう。私の事件に関していえば、私の言い分が正しいのは明らかではないですか」と、そういうニュアンスのことを言う相談者もしばしばおられます。

しかし、人と人の紛争において、当事者の一方がそのように思っている場合は、まず間違いなく、相手も同じように思っています。

結局、どちらも自分の言い分が正しいと思っているから紛争になる。その際にどちらを勝たせるかを合理的に決めようとすれば、時間がかからざるを得ない。それは裏返してみれば、訴えられる立場になったとしても言い分は充分に聞いてもらえるという安心につながるのです。

現に、現代の日本の裁判でも、刑事事件では冤罪がたまに生じ、民事事件でも、地裁・高裁・最高裁と判断がそれぞれ異なることも多々あります。我々が不当な判決で自由や財産を奪われないためには、裁判制度はまだまだ「簡易にすぎる」というモンテスキューの言葉も、決して誇張ではないように思えます。

離婚相談3 請求すべき内容と請求方法

相談者 エリカ 相談3回目

 

エリカ「今日は夫と私の源泉徴収票を持ってきました」

山内「なるほど、ご主人の年収は200万円、エリカさんは…250万円。エリカさんのほうが多いんですね」

エリカ「この状況で離婚したら、いくらくらい取れるんでしょうか」

山内「まず慰謝料ですが、これは離婚原因を作ったほうが支払います。ご主人の不倫が離婚原因だと認められれば、だいたい200万円前後は払ってもらえることになるでしょう」

エリカ「他に何かあるんですか」

山内「財産分与ですね。これは結婚後、2人で築いてきた財産を分けるという趣旨です。結婚してから、お二人で貯めてきた預貯金はどれくらいありますか」

エリカ「私のお給料は生活費で消えるんですが、主人は300万円くらいは貯めていたと思います」

山内「すると単純に考えて150万円ですね」

エリカ「家はもらえないのですか?」

山内「たしかご主人の両親が買ってくれたってことでしたよね。その場合はあくまで、夫が親からもらったものであって、夫婦で築いた財産とはいえないので、分与の対象になりません」

エリカ「じゃあ、ハーレーのバイクはどうなりますか。あれは結婚後に夫が貯めた給料で買ったんです」

山内「それは分与の対象ですね。ご主人がバイクを取るなら、代わりに、バイクの現在の時価の半額相当を、お金で払ってもらうことになります」

エリカ「今後、どうやって請求していけばいいんですか」

山内「お聞きしている限り、協議離婚は難しそうですから、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てることになるでしょう」

エリカ「そうですか。でも一つ、気になることが」

山内「何ですか」

エリカ「前回のご相談のあと、夫に離婚調停を考えていることを伝えたんです。そしたら夫が、そんなことをしたら友人のスペインの弁護士に依頼して、スペインの裁判所で慰謝料請求の裁判を起こすとか言い出したのですが」

山内「は? よくわかりませんが、ほっておけばよいでしょう」

エリカ「私、スペインで訴えられたらどうなるんでしょう」

山内「どうともなりません。スペインの裁判所で判決が出たところで、日本国内では何の効力もありませんから。安心して日本の家庭裁判所で手続きを進めてください」

エリカ「私も弁護士をつけたほうがいいでしょうか」

山内「離婚調停の手続きは難しくはないので、弁護士なしでやる人も多いです。申立ての書式は裁判所のホームページからダウンロードできますし、必要な費用は、裁判所にもよりますが数千円程度です。弁護士を依頼すると、30万円くらいは着手金として必要になりますから、よく検討なさってください」

エリカ「弁護士をつけたほうが有利になりますか」

山内「家庭裁判所では、中立の立場の調停委員がついて双方の話をよく聞いてくれるので、弁護士がついてなくても、一方的に不利な内容の離婚をさせられることは、まずないと思います」

エリカ「じゃあ、弁護士に依頼するメリットは何かあるんですか」

山内「安心感でしょうね。調停の場に同席できるのは弁護士だけですし、その上で、相手方の主張が正しいのかとか、妥協すべきか裁判に持ち込むべきかとか、状況に応じてアドバイスを受けることができるので。離婚という人生の重大局面で、その安心感があるというのは、大きなメリットだと思います」

エリカ「わかりました。山内先生は誠実そうなお人柄なので、正式に依頼することにします」

山内「はい、お受けします。調停を通じて、ご主人に対し、離婚と、慰謝料・財産分与の支払いを求めていくことにしましょう。他に何か、ご主人に求めたいことはありますか」

エリカ「別に…」

山内「そうですか、わかりました。ああ、ついでに申しますと、家庭裁判所で調停委員さんに向かって『別に』とか言わないほうがいいと思いますよ」

 

(続く) 離婚相談4

なぜ裁判は長い時間がかかるのか、モンテスキューの言葉から考える 1

一般的に、裁判というものは、民事でも刑事でも、長い時間と手間がかかります。依頼者の中にも例えば、「なぜ貸したカネを返してもらうだけのことで、これだけの時間がかかるんだ」と憤る方がたまにいます。

どうして裁判に時間がかかるのかというと、理由はいくつか挙げることができます。

 

一つは司法制度の人的限界、つまり裁判官が足りないということです。

司法改革とかで司法試験の合格者は飛躍的に増えましたが、裁判官に登用される人数はほとんど増えていません。合格者数は、20年前は毎年500人程度、私が受かった13年前で800人程度、現在は2000人程度ですが、その中から裁判官になるのは年間100人程度で、大きな増加はありません。

最高裁は「裁判官にふさわしい能力の人を選抜したらこの程度の人数になった」と言っています。しかし理由はどうあれ裁判官が増えず、裁判所の事務処理のスピードも速くならないのであれば、その部分だけ取ってみても司法改革は失敗だったと私は思うのですが、それはまた別の機会に述べます。

 

もう一つの理由は、司法制度を利用する側にもあります。

弁護士も忙しいため、きちんと主張を整理できないとか、必要な証拠を迅速に提出できないということも、確かにあります。自戒を込めて思います。

ただその点は、責任転嫁するわけではないのですが、代理人である弁護士だけの問題でなく、当事者、つまり依頼者本人が、訴訟を進めていくために必要な協力をしてくれないから、ということもあります。

たとえば、こういう主張をするからにはこういう証拠があるはずだから持ってきてほしい、とお願いしても、それをなかなか揃えてくれないとか、明らかに無理のある主張なのにそれを頑として通そうとするため、代理人としては無理な主張を重ねざるをえなくなるとかいうことも、なくはないです。

もっとも、特に民事では、当初は互いに相手が憎くて裁判になったものの、裁判に時間がかかっているうちに双方冷静になってきて、こんなことをしてるくらいなら話しあいましょう、ということで和解に至るケースも結構あります。ですから、長い裁判は悪いことばかりでもないと思っています。

 

前置きが長くなりましたが、以上の理由は実は瑣末な問題でして、裁判に手間と時間がかかる根本的な理由は何かと言いますと、われわれ個々人の「自由」を守るためです。

そのことに関して、モンテスキューの「法の精神」の記述を紹介しようと思っていたのですが、すでに長く書きすぎてしまいましたので、次回に続きます。

離婚相談2 裁判離婚の原因とは

相談者 エリカ、2回目のご相談

 

山内「こんにちは。前回に引き続きのご相談ですね。その後いかがされましたか」

エリカ「夫に離婚したいと言ったんですけど、夫は、『僕はエリカを離したくない、エリカは悪い黒幕にだまされているんだ』っていうんです」

山内「はあ、よくわかりませんが、とにかくご主人には離婚意思はないのですね。離婚条件の話をする前に、まずは離婚を認めさせることから始めないといけないですね」

エリカ「どうやったら離婚を認めさせることができますか」

山内「離婚の方法には、まず協議離婚、さらには家庭裁判所の調停離婚、最終的には裁判離婚があります。相手が離婚に反対なら協議離婚は無理です。家裁の調停も、相手がノーといえば成立しません。裁判離婚を視野に入れないといけないですね」

エリカ「どうすれば、裁判離婚できるのですか」

山内「夫婦の一方が離婚に反対していても、裁判所の判断で離婚させてしまえるのが裁判離婚です。それだけに、よくよくの事情が必要です」

エリカ「どんな事情があれば良いのでしょうか」

山内「民法770条に5つ書いてあるんですがね、1つめは『不貞行為』、いわゆる不倫です。2つめは『悪意の遺棄』、肉体的または精神的虐待ですね。3つめは3年以上の生死不明、4つめは強度の精神病、5つめは、これらに匹敵するくらいの『婚姻関係を継続しがたい重大な事由』のあるときです。ちょっと難しい用語が出ましたが、分からなかったところはありますか」

エリカ「別に…」

山内「では続けます。いま申し上げたような離婚原因が思い当たりますか。たしか前回のご相談では、仕事をよくサボるということでしたよね。家計が苦しいのに仕事もしないのなら、婚姻を継続しがたい事由にあたるかも知れません。そういえば、お子さんはおられるんでしたっけ」

エリカ「いえ、いません。それに、夫の両親に買ってもらったマンションに住んでるので、生活が苦しいってほどではないんです」

山内「そうすると、他に何か、裁判離婚原因になるような事情はありますか」

エリカ「前回の先生のお話を聞いて、証拠を集めておいたんです。うちの主人、どうも他の女性とデキてる気配があったので、こないだ、夜に外出したときに尾行したんです。そしたら…」

山内「何かあったのですか」

エリカ「この写真、見てください。ホテルに主人と他の女が入る現場写真が撮れたんですよ」

山内「ほう…ホテル『やんちゃなピエロ』ですか。まあ明らかにラブホテルですね。よく興信所にも頼まず、ご自身で撮影されましたね。これは強力な証拠になりますよ」

エリカ「いや、私も情けなかったです。あまりに腹が立ったので、夫にこの写真を見せて問い詰めたんです。そうしたら、この女はただの友人で、ホテルには映画を観るために入っただけだと。そんな言い訳が通用するんですか」

山内「いや、それは通用しないでしょう。大人の男女がその手のホテルに入って、することは一つですよ。不倫した、つまり肉体関係を持ったという推定が働きます。映画鑑賞のために行ったと言うのであれば、どうして映画館でなく、こともあろうに『やんちゃなピエロ』に入ったのか、合理的な説明がされないことには、ご主人は裁判上不利になるでしょう」

エリカ「じゃあこれは、裁判離婚の材料になりそうですね」

山内「そうですね。ただ、順序としては、まずは離婚調停を行なわないといけないことになっているんです。そこで、離婚をするかしないか、離婚条件をどうするか、といったことを話し合うことになります。ですから、ご主人の資産や収入など、そういった資料を、次回のご相談のときにでも持ってきていただけますか」

エリカ「わかりました」


(続く) 離婚相談3

大阪地検の元検事、犯人隠避罪の公判始まる

おととい(12日)、大阪地裁で、大阪地検の(元)検事の犯人隠避事件の公判が始まったようです。検事が逮捕・起訴されたという前代未聞の事件ですが、この経過をざっとまとめてみます。

 

平成21年、「凛の会」という団体が、障害者団体は郵便料金が安くなるという制度を悪用し、その認定を受けようとした。そして厚生労働省の担当者が、障害者団体の実態がなく不正であるとわかっていながら、認定証を発行した(とされた)。

その発行権限を持つ厚生労働省の村木局長が、認定証を発行するよう部下に指示したとして、虚偽公文書作成罪で逮捕・起訴された。しかし裁判の結果、そんな指示をした事実は認められないとして、村木氏に無罪判決が出た(平成22年9月)。

 

その直後、この事件の捜査を担当していた大阪地検の前田検事が、押収したフロッピーディスクの文書の作成日時を変更していたことが発覚。

ことは村木氏の事件の捜査段階だった、平成21年の話です。

検察側は、「平成21年の6月上旬ころ、凛の会が村木氏にニセの認定証を発行するよう申し入れ、村木氏がそれを受けて認定証を発行するよう、部下に指示した」と考えた。しかし検察が押収したフロッピーにある認定証の作成日付は6月1日未明の時間で、検察の読みと違う。そこで前田検事は、フロッピー押収後の平成21年7月13日、この文書の作成日を「6月8日」に変えた。

前田検事がうっかりフロッピーのデータをいじってしまって、データの更新日時が「7月13日」(当日)に書き換わってしまったというのであれば、「過失」であって犯罪ではない。しかし、7月13日の時点でデータの更新日時を「6月8日」に変更するのは、普通のやり方ではできません。前田検事は特殊なソフトを使ったようです。明らかに、「故意」でフロッピーを改竄したことになる。

 

このフロッピーは最終的に、村木氏を有罪にするための証拠としては使われなかったようです。しかし、もし裁判の中で弁護側が、認定証の作成日が検察側の主張と食い違う(6月上旬に申し入れを受けたのであれば、6月1日未明に認定証を作成しているはずがない)と主張していたら、検察側は何食わぬ顔で「いやこの認定証は6月8日に作成されてるじゃないか」と反論したことでしょう。そんなことで無実の人が有罪になっていたかも知れないと考えると、たいへん恐ろしい話です。

前田検事は逮捕・起訴され、証拠偽造罪で懲役1年6か月の実刑判決受け(平成23年4月)、今は刑務所にいるはずです。

ちなみに、では6月1日未明の認定証は誰が作ったのかというと、村木氏の部下が独断で作った疑いがあるということで、裁判が継続中のようです。

 

今回始まったのは、前田検事の上司の大坪検事、佐賀検事の裁判です。

両検事は、前田検事から、改竄後の平成22年2月ころ、その事実を伝えられ、黙っているよう指示した、ということで罪に問われています。罪名は「犯人隠避罪」で、罪を犯した人を匿う犯罪です。

今後の裁判のポイントは単純です。

前田検事の犯した証拠偽造罪は、故意でないと成立しない。つまり大坪・佐賀両検事は、前田検事がわざとフロッピーを書き換えたことを知った上で、黙っているよう指示した、ということでなければ、犯人隠避罪になりません。その点を知っていたかどうかが、今後、裁判の中で明らかにされるのでしょう。

 

過去にもブログで書きましたが、部下のミスをわかった上で、上司が「何も言うな、俺に任せておけ」と言ったとすれば、これは温情的な良い上司であるように思えます。しかしよりによって検察が、一個人の有罪・無罪の瀬戸際で、そんな温情を発揮してはならないのでしょう。

検察組織自体の構造的問題だ、と報道では大きく論じられていますが、裁判自体は、上記のポイントを中心に淡々と進むと思われます。

モンテスキューの言葉と現代政治

いきなり私ごとですが、息子も2歳と8か月を越え、親の言うことやテレビで言っていることなど、舌足らずの口で何でもマネして言うようになりました。

私としては、どうせマネするなら少しはアタマの良さそうなことを言わせようと思い、本棚に眠っていた岩波文庫の「論語」を引っぱり出してきて、「巧言令色、すくなし仁」などと教え込もうとしています。

ちょうど、最近の雑誌(「日経おとなのOFF」本年10月号)の特集に「論語入門」があり、この号に「超訳 孔子の言葉」を寄稿されていた翻訳家の白取春彦さんが書いた「超訳 ニーチェの言葉」は、少し前にベストセラーになりました。

そういえばニーチェの文庫本も本棚に眠っていたので、引っぱり出してきて、「愛から為されることは、すべて善悪の彼岸に起こる」などと息子に教えようと思っています。

 

以上は全くの雑談ですが、最近、こういう形で「古典」が再び読まれようとする機運があるように感じます。

上から目線で偉そうなことを言っていますが、日常生活ひいては人生の中で何か問題が生じたときに、その解決のヒントを得る方法として、インターネットで検索して誰が書いたかわからないような情報にすがるよりは、古典を参照するほうがよほど参考になるでしょう。

世の中がいかに物質的に発達しようとも、悩んだり思索したりするのは当の人間であり、人間の一通りの思索は、すでに古典のどこかに載っていると思われるからです。

 

ということで、最近、私が読んでいるのはモンテスキューの「法の精神」です。

ここまで偉そうなことを言っておきながら、しかも法律関係の仕事をしていながら、法律学の古典中の古典を今まで読んでなかったのか、と言われそうな気がしますが、それはともかくとして、ここで論じられている問題は、現代の日本社会にも多くあてはまるものだと感心しながら読んでいます。

たとえば「法の精神」には、こういうくだりがあります。(第3編・第3章、適宜要約)

古代ギリシアの政治家は、自分を支える力として、「徳」を重視した。今日の政治家は、富や奢侈(ぜいたく)についてしか語らない。徳がなくなってしまえば、貪欲はあらゆる人々の心に入り込む。

これなど、何の前提もなしに聞かされれば、多くの人は、現代の日本の政治家の(特に民主党政権になってからの)「バラまき政治」のことを言っていると思われるでしょう。

モンテスキューはこれを、18世紀前半のフランスで書いています。この本は、それまでに存在していたあらゆる国家の法制度を検討した上で、法律というもののあり方を追求したものです(たぶん)。たぶんというのは私もまだ全部は読んでいないからです。

 

ということで、今後たまに、「法の精神」におけるモンテスキューの言葉や、その他の古典を通して見る現代の法的・政治的問題についても書いてみたいと思っています。

前回の法律相談シリーズといい、ブログに書いている内容があれこれ散漫になっている気がしますが、ご了承いただき、お好きなテーマは右上の「カテゴリ」を利用して適宜しぼってご覧ください。

離婚相談1 最初にすべきこと

主に時事的問題を取り扱っているつもりの当ブログですが、読者のご要望もありまして、今後、よくある一般民事的な相談を中心に、各種のテーマをシリーズ化して書かせていただくつもりです。まとまった内容になってきましたらブログを独立させるつもりですが、ひとまずこの場を利用して随時更新していきます。

まず初回のテーマは離婚問題から。


相談者 エリカ(20代、OL・兼業主婦)


山内弁護士(以下山内)「こんにちは。弁護士の山内です。初めてのご相談ですね。早速ですが、どういったことでお悩みでしょうか」

エリカ「はい、夫と離婚したいんです」

山内「ああ、離婚問題ですか。ご主人とは、離婚についての話し合いをされてますか」

エリカ「いえ、まだ何も」

山内「そうですか。相手に離婚意思があるかないかで、今後の対応は変わってきます。ご主人の意向を確認するためにも、まずは話し合いですよ」

エリカ「でも、『離婚したい』って言い出した方が不利になるんじゃないんですか?」

山内「いや、よくそう言われますが、そんなことはありません。重要なのは、離婚に至る原因を作ったのはどちらかということなんです」

エリカ「そうなんですか。じゃあ、これから話し合いをしていくとして、その前に、どんなことをしておけば、有利に話を進められるか、教えていただけますか」

山内「うーん、小手先で何かすれば有利に離婚できる、みたいなテクニックはないんですよ。何か言えるとすれば、裁判になったときに備えて、ご主人が浮気しているなら証拠写真を撮るとか、暴力を振るわれたら診断書を取っておくとかいう程度でしょうか」

エリカ「はあ。なかなか単純には行かないものなんですね」

山内「そういえば、あなたがご主人と離婚したいと思う理由は何なのですか。それによって、今後の準備も変わってくると思いますが」

エリカ「理由といえば、あの…夫がキモいんです。生理的に受け付けないというか…」

山内「は、キモい? えらく抽象的な理由ですなあ。でもね、いったんはあなたがそのキモいご主人を結婚相手に選んだのですからね。もっと具体的な理由でもないと、裁判になったときに通用しませんよ」

エリカ「そうですね…うちの夫、虚言癖があるんですよ。自分をカッコよく見せたがるというか…」

山内「なるほど、具体的にはどんなことがありましたか?」

エリカ「うちの夫、結婚前から、俺の職業は『ハイパー・メディア・デリバリー』だって言ってて、何だかカッコいいなって思ってたんです。でも、結婚してからよく聞いてみたら、やってることは新聞配達のアルバイトなんです」

山内「はあ…新聞もメディアですからね、それを朝夕デリバリーする、いや立派な仕事じゃないですか。でも『ハイパー』ってのは何ですか?」

エリカ「配達のとき、ハーレー・ダビッドソンに乗ってるんです」

山内「ほう、ハーレーのバイクに乗った新聞屋さんですか、たしかにハイパーな感じですな」

エリカ「そんなところでカッコつけるのがもう何だか、って感じで。それにバイクのエンジンの調子が悪いとか言って、すぐ配達の仕事をさぼりますし」

山内「確かに、仕事しないというのも、程度によっては離婚原因になりますね。まあ、いずれにせよ、出発点はご主人と離婚について話し合うことですよ。もしご主人が離婚に反対なら、何を離婚原因にして今後争っていくか、引き続き相談していきましょう」

エリカ「はい、わかりました」

山内「他に何か、ご質問はございますか?」

エリカ「別に…」

山内「では、今日はこの程度ということで、またご主人とモメたらお越しください」


(続く) 離婚相談2