相談者 エリカ、2回目のご相談
山内「こんにちは。前回に引き続きのご相談ですね。その後いかがされましたか」
エリカ「夫に離婚したいと言ったんですけど、夫は、『僕はエリカを離したくない、エリカは悪い黒幕にだまされているんだ』っていうんです」
山内「はあ、よくわかりませんが、とにかくご主人には離婚意思はないのですね。離婚条件の話をする前に、まずは離婚を認めさせることから始めないといけないですね」
エリカ「どうやったら離婚を認めさせることができますか」
山内「離婚の方法には、まず協議離婚、さらには家庭裁判所の調停離婚、最終的には裁判離婚があります。相手が離婚に反対なら協議離婚は無理です。家裁の調停も、相手がノーといえば成立しません。裁判離婚を視野に入れないといけないですね」
エリカ「どうすれば、裁判離婚できるのですか」
山内「夫婦の一方が離婚に反対していても、裁判所の判断で離婚させてしまえるのが裁判離婚です。それだけに、よくよくの事情が必要です」
エリカ「どんな事情があれば良いのでしょうか」
山内「民法770条に5つ書いてあるんですがね、1つめは『不貞行為』、いわゆる不倫です。2つめは『悪意の遺棄』、肉体的または精神的虐待ですね。3つめは3年以上の生死不明、4つめは強度の精神病、5つめは、これらに匹敵するくらいの『婚姻関係を継続しがたい重大な事由』のあるときです。ちょっと難しい用語が出ましたが、分からなかったところはありますか」
エリカ「別に…」
山内「では続けます。いま申し上げたような離婚原因が思い当たりますか。たしか前回のご相談では、仕事をよくサボるということでしたよね。家計が苦しいのに仕事もしないのなら、婚姻を継続しがたい事由にあたるかも知れません。そういえば、お子さんはおられるんでしたっけ」
エリカ「いえ、いません。それに、夫の両親に買ってもらったマンションに住んでるので、生活が苦しいってほどではないんです」
山内「そうすると、他に何か、裁判離婚原因になるような事情はありますか」
エリカ「前回の先生のお話を聞いて、証拠を集めておいたんです。うちの主人、どうも他の女性とデキてる気配があったので、こないだ、夜に外出したときに尾行したんです。そしたら…」
山内「何かあったのですか」
エリカ「この写真、見てください。ホテルに主人と他の女が入る現場写真が撮れたんですよ」
山内「ほう…ホテル『やんちゃなピエロ』ですか。まあ明らかにラブホテルですね。よく興信所にも頼まず、ご自身で撮影されましたね。これは強力な証拠になりますよ」
エリカ「いや、私も情けなかったです。あまりに腹が立ったので、夫にこの写真を見せて問い詰めたんです。そうしたら、この女はただの友人で、ホテルには映画を観るために入っただけだと。そんな言い訳が通用するんですか」
山内「いや、それは通用しないでしょう。大人の男女がその手のホテルに入って、することは一つですよ。不倫した、つまり肉体関係を持ったという推定が働きます。映画鑑賞のために行ったと言うのであれば、どうして映画館でなく、こともあろうに『やんちゃなピエロ』に入ったのか、合理的な説明がされないことには、ご主人は裁判上不利になるでしょう」
エリカ「じゃあこれは、裁判離婚の材料になりそうですね」
山内「そうですね。ただ、順序としては、まずは離婚調停を行なわないといけないことになっているんです。そこで、離婚をするかしないか、離婚条件をどうするか、といったことを話し合うことになります。ですから、ご主人の資産や収入など、そういった資料を、次回のご相談のときにでも持ってきていただけますか」
エリカ「わかりました」
(続く) 離婚相談3