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夜の山内 憲之

■ 夜の山内 憲之6【我々は「つきだし」といかに向き合うべきか】
1.緒言
2.つきだしの諸類型の考察
3.つきだしとの付き合い方
4.余談


1.緒言

 バーに飲みに行くと、軽くつまむものが出ることが多い。あれを何と呼ぶかについては、 つまみ、アテ、チャーム等、様々な用語があるが、私は「つきだし」と呼んでいる。
あれはもちろん、お酒を飲むとき何か少しつまむものが欲しいという客のために出されるものであり、また酒だけ飲むのは胃にも悪いという店側の配慮に基づくものでもある。

 もっとも、たとえばお腹がいっぱいの状態でつきだしを出されると、食べられなくて困るときもある。そういうときは当然、食べなければよいのであろうが、特に手の込んだつきだしのような場合、全く手をつけないのも悪いと思ったりする(店側ではそんなこと思っていないだろうけど)。

 また、バーでハードボイルドを気取りたい方には、「酒を飲むときに食い物は要らない」などという見解の人もいる。私も、そこまで言わないにしても、カウンター上でグラスの横にいつまでも食べ物の皿が置いてあるのはあまりカッコよくないと思うたちであるので、つきだしが出ると早めに食べてしまって下げてもらうようにしている。しかしそうすると「この人はお腹がすいてるのだ」と思われて、また別のつきだしが出てきて困ることもある。

 果たして我々はつきだしといかにして向き合うべきなのか。本稿においては、この問題に検討を加えてみたい。つきだしをどのタイミングで食べるか、お腹がいっぱいだったらどうするか、嫌いなものが出たらどうするかなど、つきだしに関する諸論点を、以下論じることとする。

2.つきだしの諸類型の考察

 まず、バーにおけるつきだしの諸類型について整理してみたい。つきだしにも様々なパターンがあるが、大まかに分類すると以下のようになろうかと考えられる。

(1)オードブル風の一品料理
 それなりに手の込んだオードブルが出される場合。
 軽めのもので、生ハム、燻製、酢漬けの野菜など。ちょっとしっかりしたものでは、ミニサンドイッチ、オープンサンドなど。
この手のつきだしはかなりウマイものであることが多い。きっとおいしくいただけると思う。でも(私自身そうだが)飲むときはあまり食べないという方であれば、このタイプのお店にはお腹をすかした状態で行くのがよい。手もかかっているし、残すのは勿体ない。

 私が見たところ、このタイプの店では、割と長居する客が多いように思った。店側も、客に時間をかけてくつろいでもらうつもりで、しっかりしたものを出しているのだと思われる。だからこういうバーでは、時間とお腹に余裕があるときに行って、つきだしも酒も、じっくり味わうのがふさわしい。

(2)乾き物
 ナッツ類や、おかきなど。数としてはいちばん多いパターンだと思う。たとえば「サンボア」各店でのピーナツは定番。
 飲みながらつまめばよいし、全く要らなければ置いておけばよい。この手のつきだしはたいてい多めに出てくる。店側も、客がこれらを平らげることを前提にしていないと思われる(たとえば小皿に盛られて出てくるナッツ類をすべて食べたとしたら、かなりのカロリーになるはず)。であるので、要らない分は置いておけば、店側で処置してくれるはず。
 サッと飲みたい人は、この手のバーで、1、2杯飲んでナッツを数個ほおばって出ればよい。長居は似合わないように思う。もちろん、ナッツでちびちびと飲むのも悪くないが、長くやりすぎるとせこく見える。

 マスターと懇意にしてもらえるようになれば、要らないときは「今日は結構です」と自然にいえるようになろうし、たとえばナッツ類に飽きたら「おかきはないですか」といえば、何らかの対応してもらえる(たぶん)。
 あと、乾き物は食べるときに音がするので、あまりボリボリ言わせないようにしたい。食べるときは少量を、口を閉じて食べるようにしないと、音が出てしまって店の雰囲気を壊しかねないし、自分自身もカッコ悪い。

(3)スープ
 飲む前、または飲んだ後のお勘定前に、小さなカップでスープが出てくる場合がある。胃をいたわってください、との心遣いが感じられる。結構飲み食いしたあとの状態であったとしても、スープなら大丈夫だろう。中には、「一杯目はビールと決めてるからスープなんて飲みたくない」という方もいようが、その場合はカップをわきに置いといて、後で飲めばいい。

(4)つきだしは出さない
 つきだしは出さないが、フードメニューが充実している店もある。
また、つきだしはないが、ナッツ類などを格安(100円ないし300円程度)で出す店もある。「つきだしは出さない分、少しでも安くしとくからね、欲しかったら言ってね、つきだしも安いから」というご了見なのだと思う。欲しくなければオーダーしなければいいし、欲しければ安く食べられる。気楽でいいと思う。

(5)つきだしが数種から選べる
 日替わりのつきだしメニューが出てきて、オードブルや乾き物の類から一種選べる、というタイプの店があって、ここなら自分の好みや胃の状態にあわせてオーダーすればよいから助かる。
 選択肢の中に『今日は遠慮しておきます』という項を掲記している店がある。つきだしの出る店で「つきだしは要らない」と言うのは心理的負担を感じる人もおられようが、こういうメニュー表示だと、つきだしを選ぶのと同じ感覚で、つきだしが不要な旨を意思表示できる。一つの配慮だと思う。

3.つきだしとの付き合い方

 以上、いろんなタイプのつきだしを考察したが、バーでのつきだしは、そのバーのマスターの考え方(「うちの店、うちの酒にはこれが合う」)の端的な表出であるとみることができる。かくてつきだしは、店の雰囲気、置いてある酒、マスターの人柄などと相まってその店を形成しているのである。
 そういうものであるから、出されたつきだしは、それぞれのお店の思いがこもったものとして受け止めるべきである。乾き物の類は別として、残さず平らげるのが望ましいように思う。
 つきだしは店により色々なので、この店ではどういう一品が出るかを踏まえた上で、自分の状況に合わせて、店を選んでいくのがよい。

 つきだしを食べるタイミングは自由だが、乾き物の類に関しては、一気に食べないほうがよいと思う。どうしてもボリボリと音が出てしまうし、ナッツ類だと消化にも悪そうだし、もう要らないのにおかわりが出てきたりすることがあるからである。

 初めていったバーで、苦手なものが出てきたとか、お腹いっぱいなのに手の込んだものが出てきた、といった場合はどうするか。その場合は、置いておけばよいと思う。やはり、いかにつきだしに凝っているとはいえ、バーにおいては酒がメインであり、つきだしは副次的なものだからである。無理に食べる必要はない。これまで、酒の飲み残しを注意するマスターというのは見たことがあるが、つきだしの食べ残しを注意するマスターは見たことがない。

 あまりないケースだと思われるが、店自体は好きだが出てくるつきだしがどうしても苦手、という人がもしいれば、それを伝えればよい。きちんとしたところなら、店のほうで配慮してくれて、以後別のものを出してくれる(はず)。
 ハードボイルドはバーでは食べない、バーに食べ物はそぐわない、という考えの人はどうすべきか。そういう方は、つきだしも出ないし、フードメニューも出さない、そういう店がたまにあるから、それを見つけて通うべし。

 かようにして、様々な扉を開きつつ、店を知り、つきだしを知ることによって、つきだしに関する諸問題は未然に解決しうるのである。それによって、いっそう、つきだしを、酒を、そしてそのバーを楽しむことができるようになるのである(むりやり総括)。

4.余談

 以下、つきだしに関して、書こうと思ったけど上記本編に収まらなかったことについて書く。

(1)つきだしについての先賢の考察
 先賢たちもつきだしには手を焼いたようで、たとえば故・山口瞳氏は「江分利満氏の優雅な生活」(昭和37年度下半期直木賞)の中で、「バーへ行ってオードブルが出てくるとゾッとするね。(中略)こいつが出てくると興ざめなうえに女給さんが無理に口へ持ってくるのも閉口だね」と仰る(新潮文庫版p49)。もっともここでいうバーとは、いわゆるショットバーではなくて、ホステスさんが横に座る、いまでいうところのクラブやラウンジのことを指しているようである。
 クラブ・ラウンジでは、バーよりたくさんの、それこそ過剰なくらいのつきだし(たいてい「チャーム」という)が出る。それらとの付き合い方は後日検討したい。

(2)つきだしもフードもない店
 食べるものが全くない店にも、たんに手抜きで出さない場合と、店側の信条として出さない場合がある。

 過去の店だが三ツ寺会館の「洋酒壽屋」(西心斎橋、平成16年5月閉店)では、閉店前の半年ほど、つきだしは無し、オーダーしてもフードもない、という状態だった。そのかわり、フードは持ち込み可で、常連さんは袋菓子を持参したり、向かいの「味穂」でたこ焼きを買ってきたりしていた。かなりいい加減のようではあるが、マスター大谷氏のキャラで許されていたように思う。大谷氏の現在の店「ウイスキーキャット」(大阪府堺市)では、フード専門のシェフもいて料理も充実。

 「CLUB DESERT」(京都)では、つきだしはないし、食べる客もいない。フードメニューも置いてない(そういえばお酒のメニューもなかった)。「何か食べるものを」とオーダーしてる客が過去に一人だけいて、マスターが何か作ってたのを見た記憶があるので、厳密に全く何も出さないというわけではないと思うが、食べる客はほぼ皆無。この店に食べ物は似合わない。本当にうまい酒があり、極上の雰囲気があれば、つきだしを食べることすら忘れてしまう。ここにおいて私は、「つきだしのないのが最上のつきだしである」という深遠なパラドクスに行き着くのである。

(3)いちばん笑えたつきだし
 これまででいちばん笑えた(笑えない?)つきだしの話。
とあるご縁でお会いした若い「おかま」がいて、いちどお店に来てよと言われ、新歌舞伎座裏の雑居ビルの中のおかまバーに行った。店に座ってそのおかまにハイボールを出してもらって飲み始めたら、ママ(もちろんおかま)が突然店のコンロでもうもうと煙を出しながらサンマを焼き始めた。
 従業員の「賄い」なのか、それともビル内の他の店舗に食事の出前もしてるのか、と思って見ていると、「はいどうぞ!」と、焼きあがった丸々1尾のサンマがどんと私の前に。
「つきだしかい!」
と心の中でつっこみつつ、煙たち込める店内で、おかまにホモ雑誌を見せられながら、サンマをつつきながら飲んだハイボールの味が忘れられない(忘れたいけど)。


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to be continued





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