弁護士 山内憲之 プライベート・サイト 弁護士 山内憲之 プライベート・サイト 弁護士 山内憲之 プライベート・サイト
連載小説「熱弁飛龍」

連載小説 [熱弁飛龍]
■【熱弁飛龍 血涙法廷】 その4


八月の中旬。
大阪の街の暑さはピークに達していたが、飛垣は事務所の夏季休暇を利用して、高野山に来ていた。
その山麓で、飛垣が所属する拳法道場「空心少林拳」の夏季合宿が行われているのだ。
2泊3日に渡り、各支部道場たちの門下生が入り混じって、共に突き蹴りの稽古をし、型を習い、組手試合で拳を交わす。

今日は合宿の最後の日。
本部道場と神戸支部道場との練習試合が行われ、飛垣は穂積と組手を行うことになった。今年の5月、初めて穂積と会ったときにも練習試合をし、飛垣はその強さに押され気味だった。そしてその日の夜、彼は穂積を通じて、梅野梢の刑事弁護を頼まれたのだった。
二人は再び、左の手刀をかざし、右の拳を脇下に引いた伝統的スタイルで相対した。
多くの門下生と、宗家師範が、この有段者同士の対戦を見守っている。
「はじめ!」
宗家の掛け声とともに、穂積は例の速い踏み込みで突いてきた。一歩引いてかわすと今度は蹴りが飛んでくる。予想通りの展開である。
飛垣の黒帯も伊達ではない。彼は前回の手合せを通じて、この直線的な動きを読みつつあった。再びの踏み込みを曲線の動きでかわす。
穂積の左腕のジャブの下をかいくぐって、飛垣も左の拳を突き出す。それが穂積の胸板に当たる。「一本取った」と思った瞬間、穂積の左脚の蹴りが飛垣の腹部をとらえていることに気づいた。
「引き分けじゃな」
宗家師範が言った。
「いや、私の蹴りのほうが早かったはずです。何ならもう一度、手合わせさせてください」
二段の穂積は、初段の飛垣と引き分けたことが気に入らないのか、勝敗にこだわって宗家に詰め寄る。
「そう勝ち負けにこだわらんでもよかろう。練習試合なんじゃから」
しかし宗家師範は取り合わず、穂積は不満げに引き下がった。


合宿が終わった翌日から早速、盆休み明けの業務開始である。
合宿で全身に筋肉痛とアザを抱えた飛垣と、それぞれの夏休みを過ごした秘書の夏恵と令子が、事務所で顔を合わせた。
令子は休みの間、京都の実家に戻っていたらしく、お土産に黒ごま味の「おたべ」を買い込んできた。夏恵は友人たちとハワイへ行ったらしく、お土産は「マカデミアンナッツ」だった。
「何だか、変わり映えのしないお土産だな…」
素っ気なく言う飛垣に令子が食ってかかる。
「そういう飛垣先生は、何か変わったお土産があるんですか?」
「ああ、僕は高野山で合宿があったからね。『高野豆腐』を買ってきたよ」
「……。それをどうしろっていうんですか?」

全身が痛むが、飛垣にとって今日は休むわけには行かない。お盆明け早々から、梅野梢の刑事事件の第1回公判が開かれる日なのであった。
午後1時に飛垣が神戸地裁に着くと、ロビーで、保釈中の被告人・梅野、そしてその傍らに穂積がいた。
穂積とは昨日、組手試合をしたばかりだ。穂積の表情が硬そうに見えるのは、これから梅野の公判を控えている緊張のためか、それとも昨日の組手で引き分けた不満のためか。一方、当の梅野は平然とした表情で落ち着いている。

公判までの時間、3人は地裁1階の控え室にいた。
「え? 被害者とは、まだ連絡が取れていないのですか」
穂積が怪訝な顔で言った。公判が始まるというのに示談がまだ終了していないことで、弁護人の飛垣の手腕を疑問に思っているのかも知れない。
「やめて、穂積さん。富井さんとは本当に連絡がつかないのよ。それに私だって、示談はしてほしくないって、先生に言ってるの」
梅野が穂積をたしなめる。穂積はいっそう不満げである。

午後1時半。公判開始の時間になって、3人で法廷に向かう。
飛垣は弁護人席に、梅野は被告人席についた。穂積は依然、面白くなさそうな顔をして、傍聴席からこちらを見ている。

検察官が起訴状朗読のあと、冒頭陳述を行っている。
「被告人は、同じ会社に勤めており、また恋人でもあった富井優との別れ話のもつれから、手にした果物ナイフによって富井の右脇腹を刺したものであります。証拠として、実況見分調書と、凶器のナイフ、そして関係者および被告人の供述調書を提出します」
「さて、弁護人のご意見は」
裁判長に促され、飛垣は立ち上がった。
「検察官主張の事実関係に、基本的に争いはありません。ただ、関係者・加堂清美の供述調書の提出には不同意です」

弁護人は、検察官が提出しようとしている供述調書が被告人にとって不利な内容であれば、それを裁判所に提出することに「不同意」をとなえることができる。その場合、検察側はそれを提出できなくなるので、その供述をした証人を法廷に呼んだ上で、証言させることになる。弁護側は、その証人に対しうまく反対尋問する必要がある。
加堂清美は、刺された富井の元彼女であり、被告人の梅野をことさら悪し様に供述していた。彼女の情状が悪くならないよう、飛垣はその調書の取調べを不同意としたのだ。
それを受けて検察官が立ち上がった。
「では次回公判にて、加堂清美を証人として尋問することを申請します」

「では、弁護側の立証予定をお聞かせ願えますか」
裁判長の問いに、飛垣が再び立ち上がった。
「被害者の富井と、示談をまとめる予定です。残念ながら、まだ連絡がついていないのですが、次回公判期日までの間に、示談を成立させる予定です」

第1回公判は主に手続的な事柄だけを確認して、30分程度で終了した。
次回公判は10月上旬に決められた。

神戸地裁からの帰り道、飛垣、穂積そして梅野の3人は、地裁の横、湊川神社の掃き清められた境内を歩いていた。
「私は罪が重くても平気です。次回までに本当に、何もしてくれなくていいですのよ」
梅野がまだ言っている。
「弁護人として、それはできません。事件の全貌を明らかにして、妥当な判決を得るためにも、僕は被害者との示談をまとめますよ」
飛垣は言った。
「当然です。弁護人なんだから、それくらいはやってもらわないと」
穂積がさらに追い討ちをかける。

次回公判期日までになすべきことを考えている、その飛垣の頭の中に蝉時雨が鳴り響いていた。
午後2時すぎの陽射しを浴びて、神社の鳥居をくぐり抜けるまでの時間が長かった。
続く ...







All Rights Reserved, Copyright(C)2002-2008 yama-nori.com.
Web Designed by Media Graphics Institute Inc.


Yahoo! JAPAN Google |メディアグラフィックス研究所|広告デザイン制作/ホームページ制作 |トレジャーJP|化粧品/スキンケア/コスメ |エム・イー・サイエンス|循環器系医療機器のサプライ&サポート |ケイマシン|中古機械/工作機械/販売・買取 |弁護士 山内憲之|南堀江法律事務所 |法曹公正会|大阪弁護士会 |栗東スポーツ|競馬予想サービス |源八 本店|炭火焼鳥・鶏料理 浪華茶臼山・堀越神社(大阪天王寺) |ブリゾー|ピンクのくまキャラクター デザインTシャツ通販|HiDock|オリジナルデザインTシャツ通販 オリジナルデザインTシャツ通販|HiDock|デザインTシャツ通販 |TEE.VC|ラブ・Tシャツ AREA373