| 1.開業直後 |
平成16年10月6日(水)、ついに、わが湊町法律事務所は開業しました。
開業、とはいっても、デパートや飲食店と違って、オープンに客が詰めかけるということはありません。むしろ、開業直後はあわただしいと思って来客や打合せの予定をいれておかなかったので、仕事そのものはヒマでした。
それで、開業当日には、秘書Nといっしょに、文具を買いにいったり、事務所に導入するパソコンを選びにいったりしていました。
開業直後から、知り合いの弁護士が何人か通りすがりに寄ってくれましたが、中の様子を見て、みな一様に驚いてました。なんせ、当事務所にはバーカウンターがあるわけでして、たしかにこんな法律事務所は稀有でしょう。
みな、これは私のアイデアだと思ってるようですが、そうではなくて、同じオフィスをシェアしている司法書士カワラダ君のアイデアです。事務所レイアウトは基本的に彼がやっています。もっとも、私が来てからカウンターのお酒の数と種類は大幅に増えています。
カワラダ君ところのスタッフは、みな若い元気な司法書士たちです。この事務所では、私が最年長になってしまいました。事務所は常に活気があり、いるだけで楽しい気分でして、やはり、独立してよかったなと思いました。
開業直後の10月10日(日)からは、早稲田セミナーなんば校での講義が始まりました。私は少し緊張しながら、第1回目の講義を始めました。
「それでは六法全書を開き給え。『民法第1条第1項 私権ハ公共ノ福祉ニ従フ』 さて謹みて按ずるにそもそも公共の福祉とは・・(ホントはこんな講義じゃないですよ)」
土曜は京都で、日曜は難波での講義。しばらくは、土日の休みはなしです。
|
|
|
| 2.新事務所での仕事 |
本業のほうでは、新たな仕事はというと、ちょっとした書類の作成とか、市役所などでの法律相談(利用者は無料だが、担当弁護士には弁護士会から日当が出る。安いけど)などで、地味に収益を上げていきました。
訴訟案件(通常の弁護士にとって主な収益源)の依頼は、最初はありませんでした。それでよいと思っていました。当面はヒマな状態にして、これまで忙しさにかまけてさぼっていた実務面での勉強をしたいと思ってました。実は、講師の仕事の報酬と、わずかながら顧問会社からの顧問料があるため、依頼はなくても赤字にはならない計算なのです。そんなこともあって、これといった営業努力はしていませんでした。
もっとも、上坂LO時代からの事件をいくつか抱えたままでしたので、全くヒマというわけにはいかなかったです。加えて、税務署や社会保険関係の諸手続きや、同業者や知人あてのあいさつ状の送付などの用事もあって、これらは決して大変な仕事ではないはずなのですが、これまで勤務弁護士としては全く考えなくてもよかったことでしたので、どうも気分的に面倒でした。「経営者」になった以上、やらねばならないことなんだろうなと思いました。 |
|
|
| 3.熱狂のあとに |
そんなふうにして3週間ほどが経ち、開業直後の慌しさもいちおうひと段落し、事務所がひととおり機能するようになりました。
思ったよりは忙しく(雑用で)、じっくりと勉強もできないまま、時間が過ぎていきました。
すべきことがいろいろとあって何だか慌しくて、いろいろ勉強しないといけないのに、何もしないまま時間が過ぎてしまうという点では、前の事務所のころと変わりないな、と思いました。違うとすれば、土日の休みが両方なくなったため、いっそう慌しさを感じるようになったということでしょうか。これまでは開業のための作業に没頭していたのでそういうことを考えるヒマもありませんでしたが、開業前後の熱が冷めて、ふとそのようなことを感じました。
そんなある日の夜、私は一人、法善寺横町のとあるバーにて、シガー(葉巻)をふかしながら、コルトレーン(たぶん)をBGMに、マンハッタン(だったと思う)を飲んでいました。シガーの紫煙の行く先を眺めつつ、私は自分自身の行く先を思うのでした。
4年前、弁護士になる目標を果たして、そしてこの度、独立するという目標を果たした。しかし、その次の目標はというと、何も考えていませんでした。
同期の弁護士で、東京の巨大法律事務所に入った知人の中には、早くも論文や著書をどんどん発表したりしている連中もいる。彼らはきっとその分野で、今後も活躍を広げていくのでしょう。
私は自分の能力についてはある程度わかっているつもりなので、謙遜でなく言うのですが、私自身は、巨大事務所でバリバリやっている連中ほどに、専門分野があるとか、事務処理能力が高いとかいうわけではありません。将来、自分の事務所を巨大ローファームに育てることができるとも思っていません。
今みたいに、特に何ほどの大きな仕事をするでもなく、ただ何らかのなすべき諸事件や雑用はあって、日々それを取りあえずこなしていくのだろうと思いました。
――次はどこに向かったらいいのだろう。独立を果たしたら、あとは、同じ事務所で、同じような仕事を繰り返していくほかないのだろうか。そんな日々がこれからずっと繰り返されるだけなのだろうか。
私は店を出ました。
11月になろうとしていました。今年の秋は暖かいとは言われながら、たまに吹く夜の風は、確実に秋の深まりを感じさせるのでした。 |
| つづく... |
| top ▲ |