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コラム

コ ラ ム
■ 仕事のコラム1【弁護士の仕事と司法書士の仕事】
1.調整型と闘争型
2.司法書士のアイデンティティーについて
3.書面を書くという作業の性質の違い


弁護士の仕事と司法書士の仕事

  ――司法試験と司法書士試験の違いを別のコラムで書きました。では試験に受かってのちの、弁護士としての仕事と司法書士の仕事はどう違うのか、その一端を紹介したいと思います。


1.調整型と闘争型

 弁護士の仕事と司法書士の仕事のもっとも大きな違いは、
紛争の中に身をおいているか、それ以外のところに身をおいているかの違いでしょう。
 例えば、司法書士の仕事の中で大きなものに、不動産の売買の立会いがあります。土地や建物を売り買いするとき、当事者の間に司法書士がいて、登記名義の移転に必要な権利証などの書類がきちんと揃っているか確認する。揃っていれば、
「結構です」と司法書士が一言。これで、買主から売主へ、何千万という売買代金が動くことになる。
 上の例は、売買契約の締結が問題なく進んだ事案。弁護士が出てくるのは、売買契約締結までにトラブルが生じた場合(売る売らないでもめた場合とか)か、契約締結後にトラブルが出てきた場合(物件に瑕疵があったとか)です。弁護士は基本的に、紛争が生じて初めて現れる。司法書士は、紛争にならないよう、手続をきちっとやっておく。
 こういうことから、
司法書士は調整型の人、弁護士は闘争型の人が向いてる、という話を聞いたことがあります。単純に言ってしまうとそうかも知れません。
 ある知り合いの司法書士は僕にこう言いました。
 「僕は司法書士の仕事が好きなんや。マイホームの購入の取引に銀行の奥の部屋で立ち会って、売買契約書を取り交わして、書類を揃えて、銀行の口座からお金を動かして、買主が『いやーこれで何十年のローン背負いましたわー』とか言いながらも、念願のマイホーム購入がかなって嬉しそうにしてる、そんな笑顔を見るのが好きなんや。人と人の関係がこじれてトラブルになってるような状況を見たくないんや。」
 たしかに司法書士には、こういうタイプの方が多いのかも知れません。
 弁護士をやってる自分自身は闘争型かというと、必ずしもそうは思っていません。僕は何か紛争になっても、裁判でがんがんやりあって白黒つけるよりは、和解が好きです。それでも何とか弁護士をやれている。でも僕はいかに和解が好きとはいえ、心のどこかには、いつでも争う用意がある、不本意な和解ならしない、という気持ちをもって事件処理をやってる部分があります。心の底のほうでは、闘争型の部分も持っているのかも知れません。僕が司法書士の仕事に必ずしも満足しなかった理由の大きなものの一つに、「依頼者が何らかの法的紛争に陥ったときにそれ以上介入できない」ということがあるのですが、それは僕の心の奥にある闘争的な部分のゆえかも知れません。
 ごく大雑把に、タイプの違い、向き不向きの問題としては、以上のようなことが言えるかと思います。では、仕事内容、仕事ぶりについての違いはどうか、これを以下に書きます。
2.司法書士のアイデンティティーについて

(1)簡裁代理権問題に思う
  司法書士も、簡易裁判所に限り訴訟代理権を持つことができる、という方向で法改正がされましたね。これまで弁護士の専売特許だった訴訟代理権に、司法書士の方も進出するわけです。
 金額のそう多くない事件(簡易裁判所で扱えるのは請求金額が90万円以下の事件)で、裁判したいけど、周りに弁護士がいない、という例は潜在的にはかなりあるでしょうから、裁判制度の利用促進ということにとってはかなりの程度のプラスになるでしょう。司法書士としても活躍の場が広がるでしょう。
 ただ、
「司法書士のアイデンティティー」という側面から考えると、この改正は、司法書士の方々にとってはどうなんでしょう。司法書士の簡裁代理権の問題は、僕が司法書士実務をやっていた平成7年前後から言われていたように記憶していますが、司法書士時代の僕がもっとも悩んだのは、この「司法書士としてのアイデンティティー」という問題です。簡易裁判所の事件ならできるが、地方裁判所以上はダメ。90万円以下の事件はいいが、それを超えるとダメ。これだと何だか、裁判所という場では、上級職である弁護士と、下級職である司法書士、というふうにランクづけができてしまいそうな気がする。司法書士という職能の独自性がいっそう希薄になる気がする。

(2)登記実務の現場における司法書士の独自性
 僕個人は、司法書士のアイデンティティーは、登記の仕事にあると思っています。司法書士の仕事をしていたころからそう思っていました。たしかに登記実務は司法書士の独占業務でなく、法律事務に含まれるから弁護士もできる、というのが判例の解釈です。司法書士には、いずれ弁護士が登記実務の分野に入ってきて職域を侵される、という懸念を持っている方もいる。
 しかし、司法書士のこの懸念は杞憂です。
司法書士は、不動産登記でも商業登記でも、登記実務なら弁護士以上に完璧にこなせます。登記実務という点については、司法書士なみに通じている弁護士はほとんどいないと思う。細かい法令、そして実務上の取扱(法務局ごとで異なったりする)について司法書士は正確な知識と経験に裏付けられたノウハウを持ってて、弁護士はこの点では司法書士には遠く及ばない。
 それだけじゃない。もっと重要なのは、登記の現場における司法書士の気配りの細やかさです。例えば、登記手続のため登記所(法務局)に書類(登記申請書等)を提出して、手続が終わって法務局で書類にハンコを押してもらったものが
「権利証」として交付される。司法書士はそれにきちんと厚紙の台紙をつけて、依頼者に返す。厚紙の台紙なんて、付けておくと紛失してしまうおそれは少なくなるかも知れないけど、法的にいうと何の意味もない。しかし、依頼者にとっては、大金を払ってやっと手にいれた不動産の権利証、ペラペラの紙切れ一枚にハンコを押したものだけでもらうよりは、厚紙のついたもののほうが、ありがたみがあるはず。それは司法書士が自分の仕事に重みを持たせるためにするんじゃなくて、依頼者が買った不動産の「権利」に重みを持たせてやりたいということ。単に気持ちの問題なんだけど、一般の人にとっては一世一代といっていいくらいの大取引、ペラペラの紙だけもらうよりは、いかめしい厚紙に綴じられて渡されるほうが、喜びもひとしおのはず。
 弁護士で、こういう気配りができる人は、なかなかいないんじゃないかと思う。登記申請手続をしたある弁護士から聞いた話では、法務局から戻ってきた紙切れをそのまま渡して終わり、とか。さらに、法務局で登記申請するときに、窓口で、この書類のここが間違っているから訂正してほしいと言われ、ワープロ打ちした書面にボールペンで線を引いて修正印を押して修正したとか。戻ってきた権利証には、修正がされた跡がある。司法書士は、これは「権利証を汚す」と言ってすごく嫌がるものなんです。
 弁護士としては、台紙がついていまいが、ボールペンで修正していようが、権利証は権利証であって何の違いもない、という感覚なんです。法的にはもちろんそのとおりなんだけど、依頼者にとっては、このへんの気配りの違いが、満足度の違いとして現れてくると思う。
 このように、僕は、司法書士という職能のアイデンティティーは、登記という仕事については完璧にやれる、しかも依頼者の満足感を図れる仕事をやれる、という点にあると考えていました。これから、簡裁の代理権につき職域を拡大した司法書士が、どんな風に独自性を見せてくるのか、これは司法書士の世界でがんばっておられる若い皆さん方が考えていかれることだと思います。
3.書面を書くという作業の性質の違い

 弁護士の仕事と司法書士の仕事の違いについて書くつもりが、何やらずれた気がしないでもない。とにかく私は、司法書士のあり方について悩んだ末、ええいもう弁護士になっちゃえ、と思いました。なってみてどうかというと、僕には弁護士のほうが合っている気がする。理由はいろいろあるけど、上記1に述べたことのほか、僕はあまり細かい仕事ができないということがあります。書面を書くという作業は、弁護士でも司法書士でも重要なのですが、書面作成作業の性質が、弁護士と司法書士では大きく違う。
 司法書士の作る登記関係書類は、一字でも間違いがあるとダメ。登記申請書に一字でも誤字脱字があると受け付けてもらえない。例えば人の名前にしたって、「高橋」と「高橋」、「恵」と「惠」の違いまできっちりと戸籍どおりに書かないといけない。間違うと登記申請が通らなくて、登記できない。登記という、権利保全にとって大変重要な手続を、法務局は日々大量にしかも迅速にこなす必要があるから、厳密な手続になるのはやむをえない。そこで、司法書士としては、
書面を間違いなく作るということが、仕事の中で大きなウェイトを占めることになる。
 弁護士が書く訴状や準備書面は、そのへんは実にアバウトです。本当はそうじゃダメなんだけど、司法書士の書面に比べたら、大幅に許されているのは間違いない。裁判の当日に、法廷で裁判官から書記官から、ここ誤字じゃないですか、と言われても、ああそうですね、いま訂正します、とか、後日書き直して出します、と言えば、その日の裁判に何の支障もない。
 弁護士は、自分の主張を法的にどう理論づけるか、いかなる証拠で事実を立証するか、ということが仕事の中で大きなウェイトを占めていて、書面をつくるのは、それを裁判官や相手方に説明するための道具にすぎない。書面作成自体に重要な意味があるわけではない。
 余談ながら、こういう具合ですので、あわてて書面を書くとよく書き間違いをします。秘書がよく気づいて直してくれるのですが、裁判所で初めて気づいて恥ずかしい思いをすることもある。相手の書面にも、たまに物すごい誤字が見つけられる。例えば以前、相手方弁護士からの書面に、「愛犬際無関係」という意味不明の単語があって、何のことだろうと悩んだ末、「債権債務関係」のことだとわかりました。ローマ字入力の最初の「s」が抜けてしまったのですね。
 書面作成にあたって、一字一句間違いなく書くということに大きなエネルギーを使わないといけない司法書士の仕事は、僕には向いていないように思われました。こういう細やかな作業が好きな方は、司法書士に向いていると言い得るでしょう。






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