PTAを経験して思うこと

歌手のダイヤモンド☆ユカイさん(以下、長いので「ユカイ氏」と略記)が、ご子息の通っていた幼稚園で2年間、PTA会長をされていたという記事を見ました。この方、名前だけ知っていて、歌は聞いたことなかったですが、ネット記事などで、ジャンル的にはロックシンガーだと知りました。

私も、息子の幼稚園で2年間、PTA会長をやりました。その後、小学校でも2年間、PTA会長をやりました。小学校2年目の任期が間もなく終わるところです。

PTA会長の仕事はと言いますと、頼まれるときには「年3回、入学式・運動会・卒業式でスピーチするだけやで!」と言われて引き受けるケースもあるようですが、実際には、保護者の意見や利害を調整して学校・幼稚園に届けたり、いろんな行事にあたって学校と地域の根回し・調整をしたりなど、結構やるべきことはあります。

零細法律事務所の弁護士と違って、有名ロックシンガーのユカイ氏ですから、仕事との調整が大変だっただろうな、と思います。

 

そのユカイ氏、PTA活動に関してどんなことを言っておられるかというと、「子供達の教育の環境作りにPTAは必要」「心が豊かになり得たものは大きい」という発言が見られます。

これはまさに、私自身がPTA活動をやってきた上での実感でもあります。

具体的な話は長くなりますし、伏せておきますが、学校・幼稚園の運営は、教員のみならず、保護者、さらには地域・行政とも密接に結びついています。

子供たちの好きな(私自身も大好きだった)、運動会等の学校行事や、お祭りなどの地域行事は、そういう結びつきの中で、多くの関係者の協力があって行われていたんだなということを、私もPTA活動を通じて知りました。

そういった社会全体のつながり、関わりと、それが自分の子供や自分自身にどう及んでいるか、それを知っているのと全く意識しないのとでは、物の見方が全く違ってくると思えます。

ユカイ氏が、どういう点で「心が豊かになり得たものは大きい」と思ったかは存じ上げませんが、そういう物の見方ができるようになったという点も、含まれているのではないかと想像しています。

 

私の周囲でも、父親・母親を問わず、「頼まれて断り切れずに引き受けたけど、やってみて初めて、PTAの必要性がわかった」と言う人は多いです。

ユカイ氏だって、無理やりやらされて面倒で嫌な思いをしたのだとしたら、ロックシンガーだけにアナーキーさを発揮して「PTAをぶっ壊せ~」とか歌ってもおかしくないのに(勝手な想像です)、肯定的なコメントを残してくださったことで、我々経験者と同じ思いを通有してくれたと思っています。

PTAに関しては最近、なぜかネガティブな記事が多かったですが、長年関わってきた者として、久々に肯定的な記事に接したと思いました。

PTAと地域活動への「ただ乗り」について

PTA問題については、引き続き、ちらほらとご意見メールをいただいております。

もっとも、「これ読んでください」って感じでリンクをたくさんはったり、一気にたくさんのメールをお送りいただいたりすると、私のアウトルックが「迷惑メール」と判断してしまいますので、ご注意ください。

また、「PTAが抱える問題をわかってください」的なメールをいただいても、どこの誰が(名乗ってくる人はいない)、具体的にどんな問題に直面しているのかについて、何ら言及がないので、この問題に興味を持つ私としても残念ながら論評のしようがありません。

私自身は、繰り返しになりますが、PTA活動は重要で、私も今後その中で求められる役割を果たしていくつもりです。結社の自由だから加入を強制はできませんが、PTAには加入しないけどその成果(教師や地域との意思疎通、行事運営の円滑化など)にただ乗りするような生き方は、他人がするのは勝手だけど、私自身は恥ずかしいからしたくないと思います。

 

その延長上で、似たような話をします。

例年この季節は、地元の夏祭りや盆踊りやらで、私もPTA役員の一人として運営に関わり、町内会の中堅や長老さんたちとお話しする機会が多いです。

私が居住する大阪市西区は、近時、マンションがどんどん新築されており、私の地域の幼稚園・小学校の園児・生徒数は増加の一途をたどっています(私自身も4年前に東成区から引っ越してきた新しい住民なのですが)。

町内会としては、新築マンションが建つと、そこの管理会社か自治会長と話に行き、マンション住民が町内会に所属してくれるようお願いするらしいのですが、最近は、断ってくる人も多いとのこと。月々の管理費が数百円あがる程度ですが、権利意識の強い住民は「よくわからない活動に数百円でも出すのはイヤ」と言ってくるのだそうです。

 

町内会の長老はなげきます。

うちの地域がなぜ、公立の学校も幼稚園も伝統がある人気校とされるのか、小学校には全国有数の広い運動場と大きいプールがあるか、西区の中でもとりわけ街並みもきれいとされるのか(この地域にマンションがどんどん建って、しかも売れるのは、そういった地域としての評判も大いにあるはずです)。

それは明治のころから、地域の人たちが町内会を結成して、公のインフラ整備のために寄付をしたり募ったりして協力してきたからだと。

これから地域に入ってくる人が、町内会には入らない、でも町の公共設備は使うというのも、まさに「ただ乗り」ということになります。

 

町内会も任意団体ですから加入を強制できず、この手のただ乗りは「違法」ということはできません。でも私は上記のとおり、そのような生き方は恥ずかしいと思っています。

それを恥ずかしいと思わない人が増えれば、共同体というものが崩壊していくことになります。その先にあるのは、ずいぶん異質な社会でしょう。それが果たして、良いものであるかどうかはわかりません。

やや抽象的な締めくくりになりましたが、ひとまずこのへんで。

PTAへの加入は「義務」か 3(完)

前回の続き。たとえばある保護者、便宜上「Aさん」としますが、子供の小学校入学の時点で、PTAへの加入を拒否したらどうなるか。

次回に続くと勿体つけましたけど、結論はすでに出ています。結社の自由という大原則があり、PTAが任意団体である以上、AさんをPTAに加入させることはできない。

 

その結果どうなるかというと、いろいろなことが想像されます。

たとえば、どこの学校にも、PTAが主体となって開催する行事があると思います。地域参加の運動会や、バザー、夏祭りなど、PTA会員が準備・運営し、必要経費はPTA会費から出たりもするでしょう。

これらはPTAの行事である以上、会員でないAさん家族は参加できないことになります。そのことに法的問題は全くありません。小学校の義務は義務教育を教えることであり、PTA関係の行事に全生徒を参加させるような法的義務はないからです。

 

それから、たとえば子供同士や保護者間でトラブルがあったとか、子供が地域でちょっとした問題を起こしたということがあったとします。その場合にはPTAの役員が間を取り持ったり、町内会長など地域の協力を取り付けたりして、丸く収めにかかることもあるでしょう。

その場合でも、Aさん一家に関しては、そんな労は取らない、自分で解決しろ、と言うべきことになりそうです。

 

PTA会員でない人は、行事にも参加できない、何かのトラブルに巻き込まれても手助けしない、だってPTAにはそんな義務はないんだから、というのが法的な帰結ということになります。

しかし、そんなことは、小理屈の好きな弁護士なら平気で言えるかも知れませんが、普通の心ある保護者一般はとても言えないでしょう。Aさんはともかく、その子供がかわいそうだからです。

そうすると、周りのPTA会員の人たちは「まあAさんもお子さんと一緒にどうぞ」と行事に参加することを認めてあげることになる。結果、Aさん一家は、PTA会員が苦労して費用も出して開催する各種行事に「ただ乗り」することになるわけです。

Aさんなら「いや、うちはそんなただ乗りはしない」と言うかも知れません。それならAさんは自分の子供に対し、「うちはPTAの行事に参加してはいけないんだよ」ということを語って聞かせてやらないといけない。それはどう考えても子供に良い影響を及ぼすとは考えられない。

 

以上、私の考え方を整理しますと、保護者はPTAに加入する法的義務などない。しかし、教育現場においてはPTAの存在は子供の育成や諸々の問題解決のために不可欠であって、そこに加入するのは親としての当然の義務であると考えています。

PTAに限らず、人の世には、多数の人のちょっとずつの善意や協力の集まりによって、いろんなことがうまく回っているということが、多々あると思います。そこに法的観点を持ち込んで、それに参加する法的義務のあるなしを問題にすること自体がナンセンスであるというのが、私の結論です。

PTAへの加入は「義務」か 2

前回の続き。

PTAというのは法的に言えば「社会教育関係団体」という団体の一種であることがわかりました。私も昨日知りました。

そして、われわれ国民は、ある団体を作ったり、団体に加入したりしなかったりするのは自由で、入りたくもない団体への加入を強制されることはありません。

結社の自由というもので、憲法21条1項には「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めてあります。

 

もっとも、例外は多々あります。

たとえば私たち弁護士は、司法試験に受かって司法研修所を卒業しても、それだけでは弁護士としての業務ができません。各都道府県の弁護士会を通して日本弁護士連合会(日弁連)に加入し、その名簿に登録する必要があります(弁護士法8条・9条)。つまり、弁護士会と日弁連に加入することが強制されています。

私は、日弁連が出してる意見書(特定秘密保護法を廃止せよとか、死刑制度を見直せとか、取調べを可視化せよとか)には、たいてい反対の立場なのですが、だからといって日弁連の登録をはずしたり、弁護士会費を納めなかったりすると、弁護士として活動できなくなります。

その理由はいろいろありますが、カッコよくいうと、我々弁護士は時として国家権力を敵に回して戦わないといけないこともあるので、国や省庁の監督下に置かれると、国家権力にとって好ましくない弁護士が資格剥奪されるかも知れない。だから弁護士の統制や監督は弁護士会と日弁連が行う必要があり、弁護士はそこに所属しなければならない、ということです。

 

そういう例外を認める理由がない限りは、団体への加入・非加入は自由です。

学校や幼稚園のPTAにも、特に強制加入を認めさせるべき理由が見当たらず、そのため、公立学校や幼稚園が保護者にPTAへの加入を強制すると、憲法違反ということになります。

この点は、私が改めて述べるまでもなく、多くの方は気づいていると思います。

それでも、入学説明会のときに何となくPTA活動や会費の説明があって「よろしくお願いします」と言われて、そんなものかと聞き流しておいて、知らない間に加入していたことになっていた、というのが、多くの方にとっても実情だと思います。

説明があって特に断らず、文句も言わずに会費を支払っていたのだとすれば「黙示の承諾」があったと言えそうです。

ですから、前回紹介したPTA会費を返せという裁判では、PTAに入る義務がないのはその通りだけど、特に拒否もせず会費を払ってきたのだから、今さら返せというのは認められませんよ、ということになるのではないかと思っています。

 

では、さらにさかのぼって、入学説明会の時点である保護者が「うちは入会しませんよ」と明言したとしたらどうなるのか、この点は次回検討します。