DNAだけで親子の縁は切れない 1

前回、PTAのことについて書いたら、意外な反響があって驚いています。反響と言っても、ご意見・ご感想・参考情報のご教示などのメールが2件と電話が1件だけなのですが、普段、ブログの内容に関してメールや電話いただくことなど滅多にないものですから。

で、その話はいずれ書かせていただくとして、今回は昨日の最高裁判決を取り上げます。

DNA鑑定の結果として実の父と子でないと判明したとき、戸籍上の親子であることを取り消せるか否かの点について、最高裁は「取り消せない」と言いました。

 

この問題は昨年の末に、大澤樹生と喜多嶋舞の間で、その子が実は大澤と血がつながっていなかったという話のときに紹介したと思います(こちら)。

この2人がどうなったかは知りませんが、実際、「親子関係不存在」を訴えて、最高裁まで争っていた夫婦がいたわけです。

 

法律上は何が問題かというと、民法772条1項で、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」とあります。最高裁で争われていた事案は、妻が婚姻中に他の男性の子供を身ごもったようなのですが、この規定のために、血のつながった父親でなく、戸籍上の夫の子とされたわけです。

もっとも、この規定が合理性ある条文であることは、争う余地がないと思われます。この規定がないと、とんでもないことになります。

たとえば子供が産まれたとき、父親が喜び勇んで役所に出生届を出しに行く。母と子の関係は、出産に立ち会った医師が出生証明書を書いてくれるから問題なく証明できる。しかし父と子の関係についての証明書はない。

役所の戸籍課で「この赤ちゃんの父親があなたであることの証拠はあるんですか。なければ出生届は受付できませんよ」と言われたら、怒り出さない父親はいないでしょう。

世の中の大半の夫婦において、妻が婚姻中に懐胎すれば、その夫が父親といえるでしょう。その事実(難しく言えば「経験則」)を制度にしたのがこの規定です。

 

婚姻中に他の男性の子を身ごもるというのがどういう状況の下で行われたのかは、特に詮索しません。ただ、DNA鑑定の結果として血がつながっていなかったら父子関係を否定することができるとすると、明らかに不合理なことが生じるでしょう。

一つは、妻の側が愛人の男を作って、その男性の子を産み、夫の子供であると偽って育てさせておいて、あとから「あなたは父親じゃないから縁を切ってくれ」などと言いだすことが可能となる。

もう一つは、夫の側でも、妻が別の男性との間に作った子がかわいくて、「俺の子供として育てよう」と言って戸籍にいれておきながら、「やっぱりやめた、籍から出てくれ」などという身勝手が可能になる。

(本件事案がそうであったということではありません。あくまで極端な例として考えうるケースを書いております)

 

上記の過去のブログ記事の中でも、DNA鑑定だけで親子関係不存在を認めて良いかどうかについては慎重に考えている法律家が多い、という話をしましたが、結論としては今回の最高裁の判決で妥当だと考えています。

もう少しだけ次回に続く。

DNA鑑定と父子の関係 1

芸能ニュースネタではありますが、ちょっと興味深い話。

大沢樹生と喜多嶋舞との間に出生したと思われた男子が、DNA鑑定の結果、実は大沢樹生の子ではなかったと判明したそうです。

 

喜多嶋舞はわかっていたのだろうし、それを隠していたのもどうかと思います。大沢樹生も、かわいそうな気がするけど、なぜ今になってDNA鑑定などして、その結果を公表したのか、よくわかりません。

もちろん、大沢樹生が、直ちに親子の縁を切って、だましていた喜多嶋舞に慰謝料を請求します、と言うのなら筋は通っているけど、父としての気持ちは急には変わらない、みたいな煮え切らないことを言っていて、それなら最初から鑑定などすべきでないと感じます。

 

この2人の関係は、ウィキペディア情報によると、平成8年にいわゆる「できちゃった結婚」をし、平成17年に離婚。その際、子供の親権は喜多嶋舞が取りましたが、平成19年には大沢樹生が親権者となったとのことです。

ちなみに、協議離婚の際、親権者は夫婦の協議で決まりますが、その後、親権者を変更することもできます。ただし、変更することについての家庭裁判所の許可が必要です(民法819条)。ですから許可を得た上での親権者の変更だったのでしょう。

 

その後、大沢樹生は、自分と子供のDNA鑑定をしたところ、DNAからして親子関係が存在する確率は0%との結果が出ました。

なぜ鑑定などしようと思ったのか、また、本当の父親は誰なのか、そのへんは私は興味はないので、芸能雑誌に譲るとして、法的なところを検討したいと思います。

 

DNA鑑定は、専門の業者に頼めばやってくれます。

私も、10年ほど前、ある男性依頼者からの相談で「うちの子は絶対に俺の子じゃない、嫁が浮気して生んだ子だ」というので、親子関係の不存在を確認するための調停を家庭裁判所に申し立て、その過程で専門業者に鑑定してもらったことがあります。鑑定費用に20~30万円かかったと記憶していますが、いまはもう少し安くなったのでしょうか。

その結果はといいますと、大沢樹生の一件とは逆で、「親子である確率は99.999%」という結果が出ました。

「100%じゃないんですか?」と鑑定業者の人に聞いたら、「父親(男性依頼者)と全く同じ型のDNAを持つ人が、世界のどこかに存在する可能性があるので、科学的には100%と言い切ることはできません。100%の鑑定結果を出そうと思ったら、世界中の男性すべてのDNAを調べる必要があります」と言われました。

その男性依頼者は、鑑定結果に納得したのか、調停を取り下げました。たぶん今は奥さんお子さんと仲良く暮らしているはずです。

 

大沢樹生の「0%」という結果は、「この父のDNA型からこの子のDNA型があらわれるはずがない」ということで、これはたぶん、科学的に言い切れることなのでしょう。

寄り道が多くて長くなってしまったので、次回に続く。