(再録)ダルビッシュの離婚と養育費

ダルビッシュの離婚がようやく決まったということで、この検索ワードで当ブログを見に来てくださる方が多いようなので、過去(おととし11月)に書いたものを再掲載します。ちょうど、旧ブログからの移行期にこの話を書いていたので、旧ブログの記事もここで閲覧できるようにしておきます。

以下長いですが、以前、5回にわけて書いたものを、多少だけ補足しながら切り貼りします。 

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離婚慰謝料について(平成22年11月16日記)

離婚慰謝料とは、離婚の原因を作った側が、婚姻を破綻させたことのお詫びの意味で払うもので、法的に言えば、相手の精神的苦痛に対する損害賠償にあたります。



損害賠償の金額は、たとえば交通事故や暴行など肉体的苦痛に対するものであれば、ケガの程度に応じてだいたいの基準が決まっています。他人にケガをさせたときの賠償金が、支払う側が金持ちかどうかで変わらないのと同じで、離婚慰謝料もだいたいの相場は決まっていると思ってもらって良いです。

男の浮気が原因であれば、結婚年数、子供がいるかどうか、浮気相手は何人で、どこまでのことをしたのか、などによって金額が決まります。私が経験した裁判では、200万円から500万円くらいです。ダルビッシュが本当に浮気しているかどうかは知りませんが、そうだとしても、裁判で認められる慰謝料はせいぜい500万円くらいがいいところでしょう。

しかし、実際には、特に芸能人やスポーツ選手などが離婚する際には、もっと多額の、たとえば億単位のお金が支払われることも多いと聞きます。これは何かと言いますと、「協議離婚」だからそういうことができるのです。

裁判離婚ではなくて協議離婚なら、裁判所が介入するわけではないので、慰謝料の相場は関係なくなり、夫婦が合意しさえすれば、慰謝料はゼロでも億でも、いくらでも良い。

お金のある男性なら、長い裁判をするよりは、多少高くても、さっさとお金を払って別れるという選択を取る人が多いのだと思います。この場合、協議が整わなければ裁判、ということになりますが、そうすると上述のような相場が適用され、安くなるでしょう。経済的見地からのみ言えば、受け取る側は、いいところで手を打つことが必要になります。

たまにテレビなどで、あの女優は離婚に際していくら慰謝料を取ったかという、極めて下世話なランキングが発表されたりして、アメリカなどでは何十億ドルの慰謝料をもらっている人もいるようです。

それをうらやましいと見る向きもあるのかもしれませんが、あれは考えてみれば、夫側が、何十億ドルのお金を失う苦痛よりも、その女性と夫婦でいることの苦痛の方が大きいと考えている証左なわけでして、女性にとってみれば非常に不名誉なことなのです。

平成24年1月追記。ダルビッシュは慰謝料を払わなかったようです。養育費が充分もらえるし、大した金額も出ないのに慰謝料のことで争うのも実益がない、とサエコ側が判断したのでしょうか。


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財産分与について(平成22年11月19日記)

離婚の際の金銭給付には、慰謝料とは別に「財産分与」というものがあります。これは、結婚後、二人で築いてきた「共有財産」を、離婚に際して二人でわけるというものです。

共有財産の簡単な計算方法としては、結婚後、夫婦二人で働いて増えた預金額を足してもらえば良いです。それを2で割ったものが、妻の受け取る財産分与です。専業主婦で夫だけが働いている場合は、夫の預金増加分を2で割って分与します。妻に所得がなくても、「内助の功」を評価するわけです。

マイホームを買った場合は、その不動産を時価に換算して共有財産に算入します。ですから、夫が家を取るのであれば、それに見合うだけのお金を妻に分与する必要があります。

やっかいなのはマイホーム購入時にローンを組んでいる場合です。夫婦の住む家として買ったものだから、ローンが夫名義でも、その残額分は共有財産から差し引かれる。

ローンがたくさん残っている場合は、差し引くと赤字になることもあります。この場合、理論上は、赤字の半分を妻が背負わないといけないことになるのですが、実際には、夫が銀行に「離婚したからローンの半分は妻から取ってくれ」と言っても、銀行は了承しないでしょう。

ですから、共有財産はゼロとして、妻にローンまでは負わせないかわりに、財産分与はナシとなり、家は夫が取るかわりにローンも払い続ける、となることが多いでしょう。私が扱った事件ではそうなっています。

 

ダルビッシュのサエコに対する財産分与を検討しようとして、一般論に流れてしまいましたが、ダルビッシュの場合は年に何億も稼いでいるから、相当の財産分与になるのは間違いない。

しかしここで疑問を感じる向きもあるでしょう。

ダルビッシュは、サエコの内助の功のおかげでプロ野球選手になったわけではない。もともと運動能力が高く、結婚前からプロとして稼いでいた。彼の稼ぎは、サエコが心の支えになっていたことはあるでしょうけど、どちらかといえば彼自身の能力に負うところが大きい。そういう場合にまで、妻の取り分を当然に「稼ぎの半分」と評価すべきかどうか。

裁判例などを見ると、財産分与は必ず半分、とされているわけでもないようで、事案により、2割~5割くらいの幅で決められているようです。夫の収入の中で、何割が妻の寄与によるのか、夫の職業や収入や、妻の果たしてきた役割に応じて判断されるのでしょう。

だからダルビッシュの場合も、裁判になれば財産分与は半分でなく20%くらいに下がる可能性もあるでしょうが、それでも相当な金額になるとは思います。

平成24年1月追記。財産分与については目立って報道されませんが、どうなったのでしょうか。これも、養育費で充分だから別途求めないということでしょうか。 


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養育費について(平成22年12月1日記)


妻が夫に生活費をよこせと言える法的根拠は、民法752条に「夫婦は互いに協力しあわないといけない」とあるからです。離婚が成立すると、夫婦関係は終了するので、妻に生活費を払う必要はなくなる。しかし、夫婦が離婚しても、親子の血縁関係は一生残ります。

ダルビッシュとサエコが離婚して、親権をサエコに渡したとしても、父親であるという事実は変わらない。父親である以上は、その子供を養育する義務を負います(民法877条)。それが養育費支払いの法的根拠です。

ですから養育費はあくまで子供に払うものですが、実際には親権者である母親が管理することになるので、その使い道には基本的に父親は口出しできないことになります。


その養育費の金額は、協議離婚の際に合意で決めることもできますが、協議がまとまらなければ家庭裁判所で調停を行なうことになります。

なお、子供が何歳になるまで払うかについても、協議で決まらなければ調停となります。だいたい、20歳までと決まる場合が多いでしょう。

 養育費の金額の決め方としては、家裁に養育費の算定基準があって、夫婦それぞれの収入や、子供の年齢や人数によって、公式にあてはめて計算します。

その算定基準はここでは省略しますが、具体的に算定してみたい方は、弁護士会や市役所の法律相談に行くか、街なかでやってる弁護士事務所を訪ねてください。たいていの弁護士は算定基準表みたいなものを持っているので、すぐ計算してくれます。

 

たとえば、ダルビッシュ夫婦みたいに、5歳くらいと0歳くらいの小さい子供が2人いるとして、夫の年収が1000万円、妻は専業主婦で収入なしだとすると、夫が払うべき養育費の月額は合計16万円前後(子供1人あたり8万円前後)です。

年収500万~600万の夫なら、単純に考えてこの半分前後です。多いと思うか少ないと思うかは人それぞれでしょう。

妻が子供2人を抱えて、月に8万円もらえるかどうか、という程度なら、女性なら少ないと思う方が多いでしょう。しかし、夫と離婚して子供を引き取ったからには、母親として自立して子供を育てる義務を負うので、不足分は自分で働くなどするしかありません。

さて、算定基準にダルビッシュの実際の年収をあてはめると、すごい数字になるでしょう。

彼がいくら稼いでいるかは知りませんが、仮に年収3億とでもします。サエコはタレント活動などでそれなりに収入があるはずですが、単純化のため収入ゼロとします。これで計算すると、養育費の月額は400万円前後となります。

平成24年1月追記。月500万円とか200万円弱とか言われていましたが、週刊誌等の報道では、月約200万円のほか、入学準備金とかいう名目のお金を支払うようです。ダルビッシュの稼ぎからすれば、不当に高いとも思えません。


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養育費について、続き(平成22年12月6日記)

一般的に、調停で養育費が決められた場合、夫側から不満顔でよく尋ねられます。「不景気でいつ収入が下がるかもわからないのに、それでも決まった8万円を支払い続けないといけないのですか」と。

れに対する答えは「その通り」です。それは別に不当なこととは思えません。逆に、がんばって仕事して年収が倍になっても、決まった金額以上に払う必要はないのですから。

女性からよく聞く不満としては、「将来、子供に何があるかもわからないのに、月8万円程度では確実に安心させてやれない」、というものがあります。これは、前回書いたとおり、自助努力で何とかしてもらうほかないです。そもそも世の中、幸せな結婚生活を送っている夫婦だって、確実に安心な生活などありえない。

例えば私だって、いつ不祥事を起こして弁護士資格を失うか知れないし、酒の飲み過ぎで死ぬかも知れない、そうなれば自宅のローンも払えなくなるかも知れないのです。

離婚すると「家計」が2つになって、食費や住居費などの生活関連費用が増え、一緒に暮らしていたとき以上に夫婦とも過酷な状況に置かれることになります。それがイヤなら離婚をガマンするか、そもそも、結婚や出産自体をガマンすべきです。
どうしても経済的に裕福な離婚をしたい、という方は、サエコみたいにがんばってダルビッシュくらい稼ぎのある人を捕まえるしかないです。

さてそのダルビッシュ、養育費は相当な金額になるだろうと前回書きましたが、それでも、プロスポーツ選手の選手生命はそう長くないから、ダルビッシュの2人の子供が成人するまでプレーできるとは思えない。

彼がメジャーに行って収入がもっと増えるかも知れないし、ケガで引退して収入が激減するかも知れない。それでも冒頭に書いたように、ダルビッシュは決まった養育費を支払う義務を負います。また、仮にサエコがダルビッシュ以上のお金持ちと再婚しても同じです。

だ、ダルビッシュに限らず誰でも、養育費の支払い期間中に収入が大幅に下がることはあるし、妻が再婚して経済的に裕福になることもある。そういう場合は、夫側から再調停を申し立てて、養育費の金額を下げてもらうことはできます。からも、夫の収入が上がったときには、それを前提に養育費を上げてもらうよう、調停を申し立てることができます。

のような正式な手続きを踏まずに、養育費の額を一方の事情だけで勝手に上げ下げすることはできないということです。

平成24年1月追記。いかにダルビッシュがすごい選手でも、子供が成人するのは10数年先でしょうから、月200万円の養育費が妥当とされるほどの稼ぎをその間ずっと維持できるのかは、さすがにわかりません。お子さんのためにがんばっていただくほかありません。

再録終わりです。


離婚相談3 請求すべき内容と請求方法

相談者 エリカ 相談3回目

 

エリカ「今日は夫と私の源泉徴収票を持ってきました」

山内「なるほど、ご主人の年収は200万円、エリカさんは…250万円。エリカさんのほうが多いんですね」

エリカ「この状況で離婚したら、いくらくらい取れるんでしょうか」

山内「まず慰謝料ですが、これは離婚原因を作ったほうが支払います。ご主人の不倫が離婚原因だと認められれば、だいたい200万円前後は払ってもらえることになるでしょう」

エリカ「他に何かあるんですか」

山内「財産分与ですね。これは結婚後、2人で築いてきた財産を分けるという趣旨です。結婚してから、お二人で貯めてきた預貯金はどれくらいありますか」

エリカ「私のお給料は生活費で消えるんですが、主人は300万円くらいは貯めていたと思います」

山内「すると単純に考えて150万円ですね」

エリカ「家はもらえないのですか?」

山内「たしかご主人の両親が買ってくれたってことでしたよね。その場合はあくまで、夫が親からもらったものであって、夫婦で築いた財産とはいえないので、分与の対象になりません」

エリカ「じゃあ、ハーレーのバイクはどうなりますか。あれは結婚後に夫が貯めた給料で買ったんです」

山内「それは分与の対象ですね。ご主人がバイクを取るなら、代わりに、バイクの現在の時価の半額相当を、お金で払ってもらうことになります」

エリカ「今後、どうやって請求していけばいいんですか」

山内「お聞きしている限り、協議離婚は難しそうですから、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てることになるでしょう」

エリカ「そうですか。でも一つ、気になることが」

山内「何ですか」

エリカ「前回のご相談のあと、夫に離婚調停を考えていることを伝えたんです。そしたら夫が、そんなことをしたら友人のスペインの弁護士に依頼して、スペインの裁判所で慰謝料請求の裁判を起こすとか言い出したのですが」

山内「は? よくわかりませんが、ほっておけばよいでしょう」

エリカ「私、スペインで訴えられたらどうなるんでしょう」

山内「どうともなりません。スペインの裁判所で判決が出たところで、日本国内では何の効力もありませんから。安心して日本の家庭裁判所で手続きを進めてください」

エリカ「私も弁護士をつけたほうがいいでしょうか」

山内「離婚調停の手続きは難しくはないので、弁護士なしでやる人も多いです。申立ての書式は裁判所のホームページからダウンロードできますし、必要な費用は、裁判所にもよりますが数千円程度です。弁護士を依頼すると、30万円くらいは着手金として必要になりますから、よく検討なさってください」

エリカ「弁護士をつけたほうが有利になりますか」

山内「家庭裁判所では、中立の立場の調停委員がついて双方の話をよく聞いてくれるので、弁護士がついてなくても、一方的に不利な内容の離婚をさせられることは、まずないと思います」

エリカ「じゃあ、弁護士に依頼するメリットは何かあるんですか」

山内「安心感でしょうね。調停の場に同席できるのは弁護士だけですし、その上で、相手方の主張が正しいのかとか、妥協すべきか裁判に持ち込むべきかとか、状況に応じてアドバイスを受けることができるので。離婚という人生の重大局面で、その安心感があるというのは、大きなメリットだと思います」

エリカ「わかりました。山内先生は誠実そうなお人柄なので、正式に依頼することにします」

山内「はい、お受けします。調停を通じて、ご主人に対し、離婚と、慰謝料・財産分与の支払いを求めていくことにしましょう。他に何か、ご主人に求めたいことはありますか」

エリカ「別に…」

山内「そうですか、わかりました。ああ、ついでに申しますと、家庭裁判所で調停委員さんに向かって『別に』とか言わないほうがいいと思いますよ」

 

(続く) 離婚相談4

子供を連れ帰って約5億円請求された母親の話 1

あまり報道されていないようですが、日経(10日夕刊)の小さい記事から。
アメリカから子供を連れ帰った日本人の元妻に対し、アメリカの裁判所が、610万ドル(4億8900万円)の支払を命じる判決を出したそうです。

事実関係があまり書かれていないので、一部推測を交えて整理します。

クリストファーさんというアメリカ人の男性が、マキコさん(仮名です。新聞に名前は出ていなかったので、私の妻の名前を勝手に借用)という日本人女性と結婚し、アメリカで子供2人をもうけた。

その後、2人は離婚することとなり、子供はマキコさんが引き取ることとして、ただクリストファーさんには定期的に面会させるという約束をした。

マキコさんは子供2人と日本に帰り、福岡で暮らしました。クリストファーさんと子供が面会する約束は、日米の距離のせいか、他の理由があったのか、次第に果たされなくなった。

そうした中で、クリストファーさんは2年前、福岡にきて子供をアメリカに連れて帰ろうとし、誘拐容疑で逮捕されたこともあったようです。なお、日本の刑法の解釈としては、いかに実の父親でも、母が引き取って暮らしている子供を勝手に連れ帰ろうとすると、誘拐罪にあたります(その後、不起訴で釈放)。

クリストファーさんはアメリカのテネシー州に帰って裁判を起こしました。結果が、冒頭の判決です。判決の理由は、マキコさんが子供と面会させる約束を果たしていないから、ということのようです。

日本人の多くは、この判決を聞いて、「はあ?」と思うでしょう。
日本国内において子供の親権を有する母親が、子供と父親を会わせるのは妥当でないと判断して、父親との面会を拒否したら、何億もの賠償を命じられないといけないのか。

欧米では離婚後も両親に親権があるとされる国が多いので、こういう判決も出るわけです。またアメリカでは、賠償金の相場が日本とは全く異なるということもあるでしょう。

では果たして、マキコさんは何億円ものお金をクリストファーさんに支払わなければならなくなるのでしょうか?
…続く。

ダルビッシュの離婚と養育費 続き

養育費の話、続き。

前回紹介した例として、夫の年収が5~600万円で、収入のない妻が2人の子を引き取って離婚する場合、家裁で調停すれば、夫が支払うべき養育費として8万円程度(2人分合計で)と決められるであろうといった話をしました。

このように調停で取り決められた場合、夫側から不満顔でよく尋ねられます。「不景気でいつ収入が下がるかもわからないのに、それでも決まった8万円を支払い続けないといけないのですか」と。

これに対する答えは「その通り」です。それは別に不当なこととは思えません。逆に、がんばって仕事して年収が倍になっても、決まった金額以上に払う必要はないのですから。

女性からよく聞く不満としては、「将来、子供に何があるかもわからないのに、月8万円程度では確実に安心させてやれない」、というものがあります。

これは、前回書いたとおり、自助努力で何とかしてもらうほかないです。そもそも世の中、幸せな結婚生活を送っている夫婦だって、確実に安心な生活などありえない。
例えば私だって、いつ不祥事を起こして弁護士資格を失うか知れないし、酒の飲み過ぎで死ぬかも知れない、そうなれば自宅のローンも払えなくなるかも知れないのです。

離婚すると「家計」が2つになって、食費や住居費などの生活関連費用が増え、一緒に暮らしていたとき以上に夫婦とも過酷な状況に置かれることになります。それがイヤなら離婚をガマンするか、そもそも、結婚や出産自体をガマンすべきです。

どうしても経済的に裕福な離婚をしたい、という方は、サエコみたいにがんばってダルビッシュくらい稼ぎのある人を捕まえるしかないです。

さてそのダルビッシュ、養育費は相当な金額になるだろうと前回書きましたが、それでも、プロスポーツ選手の選手生命はそう長くないから、ダルビッシュの2人の子供が成人するまでプレーできるとは思えない。

今後彼がメジャーに行って収入がもっと増えるかも知れないし、ケガで引退して収入が激減するかも知れない。それでも冒頭に書いたように、ダルビッシュは決まった養育費を支払う義務を負います。また、仮にサエコがダルビッシュ以上のお金持ちと再婚しても同じです。

ただ、ダルビッシュに限らず誰でも、養育費の支払い期間中に収入が大幅に下がることはあるし、妻が再婚して経済的に裕福になることもある。そういう場合は、夫側から再調停を申し立てて、養育費の金額を下げてもらうことはできます。

逆に妻からも、夫の収入が上がったときには、それを前提に養育費を上げてもらうよう、調停を申し立てることができます。

そのような正式な手続きを踏まずに、養育費の額を一方の事情だけで勝手に上げ下げすることはできないということです。

以上、ダルビッシュ夫婦を勝手にモデルとして「離婚とカネ」についてシミュレートさせていただきました。連続講座をひとまず終了します。

ダルビッシュの離婚と養育費

ダルビッシュとサエコに学ぶ離婚連続講座の第4回は、養育費の話です。
 
現在、ダルビッシュとサエコは別居中のようですが、別居していても夫婦である以上、一家の生活費は互いに負担しあう必要があります。
 
別居中の妻が夫に生活費をよこせと言える法的根拠は、民法にも「夫婦は互いに協力しあわないといけない」とあるからです。法律家はこの生活費のことを「婚姻費用」、略して「こんぴ」と言います(なぜ「こんひ」と言わないのかは不明)。
 
離婚が成立すると、夫婦関係は終了するので、妻に生活費を払う必要はなくなる。しかし、夫婦が離婚しても、親子の血縁関係は一生残ります。
ダルビッシュとサエコが離婚して、親権をサエコに渡したとしても、父親であるという事実は変わらない。父親である以上は、民法上も、その子供を養育する義務を負います。それが養育費支払いの法的根拠です。
 
ですから養育費はあくまで子供に払うものですが、実際には親権者である母親が管理することになるので、その使い道には基本的に父親は口出しできないことになります。
 
その養育費の金額は、協議離婚の際に合意で決めることもできますが、協議がまとまらなければ家庭裁判所で調停を行なうことになります。
なお、子供が何歳になるまで払うかについても、協議で決まらなければ調停となります。だいたい、20歳までと決まる場合が多いでしょう。
 
養育費の金額の決め方としては、家裁に養育費の算定基準があって、夫婦それぞれの収入や、子供の年齢や人数によって、公式にあてはめて計算します。
 
その算定基準はここでは省略しますが、具体的に算定してみたい方は、弁護士会や市役所の法律相談に行くか、街なかでやってる弁護士事務所を訪ねてください。たいていの弁護士は算定基準表みたいなものを持っているので、すぐ計算してくれます。
 
たとえば、ダルビッシュ夫婦みたいに、5歳くらいと0歳くらいの小さい子供が2人いるとして、夫の年収が1000万円、妻は専業主婦で収入なしだとすると、夫が払うべき養育費の月額は合計16万円前後(子供1人あたり8万円前後)です。
 
年収500万~600万の夫なら、単純に考えてこの半分前後です。多いと思うか少ないと思うかは人それぞれでしょう。
妻が子供2人を抱えて、月に8万円もらえるかどうか、という程度なら、女性なら少ないと思う方が多いでしょう。しかし、夫と離婚して子供を引き取ったからには、母親として自立して子供を育てる義務を負うので、不足分は自分で働くなどするしかありません。
 
さて、算定基準にダルビッシュの実際の年収をあてはめると、すごい数字になるでしょう。
彼がいくら稼いでいるかは知りませんが、仮に年収3億とでもします。サエコはタレント活動などでそれなりに収入があるはずですが、単純化のため収入ゼロとします。
これで計算すると、養育費の月額は400万円前後となります。
ま、これは極めて特殊なケースと思ってください。
 
4回目で最終回にするつもりでしたが、養育費のことであれこれ書きたいことが出てきたので、第5回目に続く。

ダルビッシュの離婚と親権・監護権

ダルビッシュとサエコに学ぶ連続離婚講座(勝手にシリーズ化)、第3回です。

第3回は養育費の話にするつもりが、いま移動中の新幹線の中でこれを書いており、手元に資料がないと養育費の具体的な話が書きにくいので、今回は親権の話にします。
 
「おは朝」情報によりますと、ダルビッシュもサエコも2人の子供の親権を取りたがっており、ただダルビッシュは「養育権」はサエコにあげてもよい、と言っているそうです。
 
これは「監護権」のことを指していると思われるので以後この用語を使いますが、民法上、親が未成年の子に対して持つ権利には「親権」と「監護権」があり、離婚のとき、その2つが別々の親に行くケースもありえます。これが何を意味するかを書きます。
 
平たくいうと、親権者は法的な監督を行なう人、監護権者は一緒に住んであげる人だと考えてください。法的な監督とは何かというと、子供の財産を管理したり、子供が商売をやろうとするとき許可を与えたりする権限などがあります。
 
しかし、ダルビッシュの子供は幼くて多額の財産を持っているとも思われず、財産管
理権はあまり意味がない。むしろ養育費をサエコに払えば、そのお金はサエコが管理することになります。また、いまどき未成年で自ら事業をたちあげて商売を
する人も滅多にいないでしょうから、その許可をする権限もまず問題にならない。
 
そもそも現代においては、親権と監護権を分けておく意味はあまりなく、これは戦前の旧民法の遺物であると言われています(内田貴「民法4」など)。
つまり、戦前の家制度では、子供の親権は父親が持つのが当然で、ただ離婚の際に子供がまだ乳飲み子のようなときは、母に預けておくほうが良いからということで、親権とは別に、母親の監護権という概念ができた。
 
男女平等を建前とする今の民法では、親権者を母親とすることは何ら問題ないので、父でも母でも、子供を引き取る方が親権者かつ監護権者になればよいのです。
 
しかし現在でも、親権をどちらが取るかでモメたときに、妥協策として、父は親権、
母は監護権(その逆もありえますが)を取る、という形で協議離婚するケースもあります。私もそういう相談を受けたことがあるし、ダルビッシュ・サエコ間で
もそんな話があるらしい(あくまでテレビ報道ですが)。
 
しかし、ここは私個人の感想ですが、現代の家族制度において、監護権は取らないけ
ど親権だけ取るというのは、せいぜい精神的な意味しかなく、それは本来、親であることから来る様々な子育ての苦労を免れた上で、口先だけ「俺が親権者だ」
と言っているような印象しか持ちえません。だから私が相談されたときも「そんなやり方は実際には無意味だし、ややこしいだけだから、お勧めしません」とお
答えしています。