為替デリバティブ被害相談3 デリバティブが含む問題点

小島「その後、準備は進んでいますか」

山内「ええ。ADR手続きの申立てをして、早期に解決したいと思ってます」

小島「どれくらい早く解決できますでしょか? あと1週間くらいで何とかなりますか?」

山内「いや、ADRは裁判よりは早いですが、さすがに1週間というの無理です。4か月から半年は見ておいてください」

小島「やっぱりそうか…。いや、1週間後にね、今月もまたUSB銀行に300万円を払わないといけないんですよ。ドルを買わされるので…」

山内「その支払いは、ストップしてしまって良いと思います」

小島「え、銀行への支払いを止めるんですか?」

山内「ええ、銀行に申し入れてください。弁護士を立ててADRの場で決着させたいから、それまで支払いをストップさせていただきますと。銀行側が何かややこしいことを言ってきたら、私が出ます」

小島「大丈夫でしょうか。そんなことして融資を引き揚げるって言われたら、借りた資本金もまだ全部返せていない状況だし…」

山内「多くの場合、銀行はたいてい、話し合いに応じてくれます。もし仮に融資を引き揚げるとか言い出したら、それこそ、銀行協会に苦情申立てをしますよ。銀行はそこまでモメることは望まないですから

小島「そうですか、わかりました。支払いがストップすれば、うちの資金繰りもずいぶん楽になるし、また宗右衛門町で…いやいや冗談です。で、先生、ADRの手続きは、いつごろ始まりますか」

山内「いま、申立書を作成していて、今月中には、全銀協へ提出できます。いま、この手の申立てが増えていて、割と待たされるみたいなので、調停の場が持たれるのは、2、3か月後くらいですかね。支払いはストップしていいのですから、気長に待っていてください」

小島「ADRのときには、どんなことが聞かれるんでしょうかね。私が商品先物に手を出したときの裁判みたいに、証言を聞いてもらって、お互いの落ち度を考えて痛み分けになるんでしょうかねえ」

山内「極めて大ざっぱに言えば、そうです。しかし、通貨オプションなどの為替デリバティブのADR手続きでは、独特の重点があります」

小島「と、言いますと?」

山内「商品先物取引は、多くの人にとって、明らかに投資なんですよ。もっと言えばギャンブルなんです。相場の上下を利用して儲けるために行なわれる」

小島「ええ、確かに」

山内「でも、為替デリバティブはそうじゃない、という建前になっています。銀行は先物業者と違って、相場を利用して顧客にギャンブルをさせる商品など、販売してはいけないんです。それが銀行としてのプライドでもある。だから銀行としては、お客様の為替リスクのヘッジのために必要な商品ですよ、という触れ込みで勧誘してくることになります」

小島「そういえば、そういう勧誘をされましたなあ」

山内「そこでお聞きしますが、小島さんが『康楽』の仕入れのために必要なドルは、いくらくらいでしょうか」

小島「年に2、3回ほど、中国やアメリカで食材とか調味料を買ってくる程度でして、日本円で年間せいぜい2~300万円、ドルだと3~4万ドルくらいですかねえ」

山内「であるのに、USB銀行との契約では、少なくとも毎月1万ドル、多いと3万ドルも買わされることになる。年間にして12万ドルから36万ドルです。あきらかに、小島さんの会社の取引量を無視した、過大な取引をさせているんです」

小島「冷静に計算するとそのとおりですね、先生。最初は儲かっていたので、あまりその点を考えていませんでした」

山内「リスクヘッジのために必要だと言いつつ、実は不要なまでのドルを買わせた、そこがこの手の契約に含まれる重要な問題です。ADR手続きの中でも、そのあたりが主要な争点になります」

小島「なるほど、そういうところを突いていくわけですね。先生、ADR手続きに向けてがんばって準備を進めてください」

山内「わかりました」

 

(続く)

為替デリバティブ被害相談4へ

為替デリバティブ被害相談1 為替デリバティブとは(前編)

相談者 前回に続き、小島さん(50代、男性)。中華料理店「康楽」店主。


山内「こんにちは、小島さん。改めてのご相談とは、また何かあったんですか?」

小島「ええ、私個人の先物の件は、先生のおかげで片付いたのですが、今度は、うちの会社のほうが…」

山内「え、会社って」

小島「先生にはお伝えしていなかったのですが、うちの店、3年前に法人化して『株式会社康楽』になったんですよ」

山内「そうだったんですか。ずっと個人事業主として中華料理屋をやっているかと思っていました」

小島「多角化経営をと思いましてね。親族に手伝わせて、餃子をインターネットで通販したりして、いろいろやり始めたんですよ」

山内「たいしたものですね。では、多角化経営に行き詰ったとか…?」

小島「いえ、幸い、お店も通販も、業績はいいんですよ。でも、銀行への支払いがね…。言いにくいですけど、デリバティブとかいうやつですよ」

山内「ああ、もしかしたら、為替デリバティブですか。通貨オプションとかかな」

小島「そう! それです。さすが、先生もご存じなんですね」

山内「最近、その手の相談が増えてますよ。円安に備えましょうとか言われて契約したら、逆に最近は円高になって、大変な状況になっているんでしょう?」

小島「そうなんです。3年前に、お店を会社にして通販を始めるときに、USB銀行から資本金を借りたんです。餃子はよく売れて、借入れは少しずつですが順調に返済していたんです。で、2年前、銀行の担当者が店に来て、通貨オプションとかいうのを勧めてきたんです」

山内「担当者は何と?」

小島「会社として、海外に目を向けてやっていくには、外貨の準備が必要になるし、円安になると外貨が高くなるから、そのリスクに備える必要があるとか言ってきました」

山内「しかし失礼ながら、商品先物取引のことも分かっておられなかった小島さんが、海外通貨でオプション取引をするとか言われても、いっそう分からなかったのでは」

小島「全くそのとおりです。今日は契約書を持ってきているんですが、先生、わかりますか?」

山内「なるほど…。ええと、ざっと解説しますね。今から2年前、1ドルがだいたい90円くらいだったでしょうか、そのときに、あなたの会社は毎月、1ドルあたり80円で、1万ドル手に入れる権利を得ています」

小島「それはどういうことですか」

山内「1万ドルを手に入れようとしたら、当時の相場で、1ドル90円ですから、90万円が必要となるはずです。ところが小島さんは、80万円で手に入れることができた」

小島「なるほど、ドルが安く買えるわけですね」

山内「そうです。安く手に入れた1万ドルで、海外のモノを買うこともできるし、買うモノがなければ、国内でドルを円に換えると90万円もらえるわけだから、差額の10万円が儲かるわけです」

小島「ああ、そうそう、2年前は、月々ちょっと小遣いが稼げてましたなあ」

山内「で、稼いだ小遣いはどうしたんですか?」

小島「宗右衛門町のキャバクラで…って、まあその話はいいじゃないですか。いやでもねえ、最初は儲かっていたのに、円高が進んだあたりから、逆にこっちがお金を払わないといけないって言われたんですよ」

山内「ええ、そういう契約内容になっています。1ドル80円以上の円高になると、今度は銀行が、あなたの会社に対して、3万ドルを売りつける権利を得ることになります。しかも1ドル100円という高値で、です」

小島「と、いうことは…」

山内「あなたは3万ドルを月々手に入れますが、代わりに1ドルあたり100円でその代金を払うわけですから、毎月300万円、銀行に支払わなければならなくなります」

小島「うちの今の状態がそれです。ドルをそんなに持ってても仕方ないので円に換えるんですけどね」

山内「今の相場は1ドル79円くらいだから、国内で3万ドルを円に換えると237万円が入りますよね。300万円で買ったものを237万円で売るわけだから、差し引き63万円、毎月損をしているわけですね」

小島「そんな大変な契約だったのかあ。先生、いつまでこれが続くのですか?」

山内「契約書には、5年契約って書いてあるので、あと3年続きます」

小島「え!円高が続く限り、あと3年も、毎月多額のお金が出ていくわけですか? 何とかなりませんか?」

山内「この問題は最近、訴訟や調停の申立てが増えています。この件も、任せていただければ代理人として手続きを進めさせていただきますよ」

 

(続く)

為替デリバティブ被害相談2へ