「コンプガチャ」 返金請求は認められるか 3(完)

続き。

景品表示法に違反するだけで、直ちにコンプガチャにつぎ込んだお金を返してもらえるわけではありません。ただ、極めて限定的ながら、返金を求める理屈はあります。

 

まず、未成年が親の同意なく、コンプガチャを含む携帯ゲームの利用契約を結んだ場合が考えられます。未成年者が親の同意なくした契約は、あとから取り消せるからです(民法5条)。ただし、契約の際に成年者だと偽ったような場合は取消しできません(同21条)。

 

また、表示に明らかなウソがあった場合、たとえば「こんなアイテムが当たる」と言っていながら、そのアイテムが決して出てこないような設定になっていた場合は、詐欺(民法96条)などを理由に、利用契約を取り消す余地もあるかと思います。しかし、業者としてもそこまでひどいことはしていないでしょう。

 

さらに、コンプガチャのシステムが、あまりに人々の射幸心(しゃこうしん。偶然の儲けを得ようとする心情)をあおるようなものであれば、公序良俗違反(民法90条)で無効と主張する余地もあります。たとえば、賭博は公序良俗に反するとされており、お金をかけてバクチをして負けても、法的には相手にお金を払う義務はありません。

行政上の取締規定への違反があまりにひどい場合は、民法上も公序良俗違反となる、ということは、判例上も認められています。

しかし、コンプガチャ程度のものが公序良俗に違反すると言えるかどうかは、極めて疑問です。もしそうだとするなら、パチンコや夜店の「あてもん」など、偶然の要素が入る取引はすべて無効で、お金を返してもらえることになりそうですが、さすがにそれはないでしょう。

 

このように、景品表示法に違反するというだけで、イコール契約無効、カネ返せ、と言えるわけではなく、民法などにある効力規定に違反するとまで言える必要があるわけです。そして、そこまで言える可能性は、上記のとおり、ずいぶん低いと思います。

 

あともう一つ、業者側が自主的に返金する、という可能性は、なくはないかも知れません。

例として、東京電力は、東日本大震災による原発被害について、「異常に巨大な天災」で生じた事故の責任は負わないという条文(原子力損害の賠償に関する法律3条)で免責される可能性があるのに、賠償に応じるスタンスを取っています。これは被害の大きさや、公共性の高い電力会社としての社会的責任を考えてのことでしょう。

グリーやDeNAが、「社会的責任に鑑みてお金を返します」と言ってくれるかというと、さすがにそこまでは期待できないかと考えています。

 

以上でひとまず、コンプガチャの返金問題に関する検討を終わります。あくまで私(山内)の個人的見解です。そして繰り返しますが個人的希望としては、お金を返してくれるとなったら弁護士としてはありがたいなあと思っております。

「コンプガチャ」 返金請求は認められるか 2

コンプガチャの利用者が、これまで払った利用料の返金を請求できるかというと、おそらく無理であろうと書きましたが、その続き。

 

たとえば、サラ金業者に対して過払い金の返還請求が認められるのは、利息制限法という法律の第1条に、所定の利率(貸金の額に応じ15~20%)を超える利息の定めは「無効とする」と明確に書かれているからです。

無効の契約に基づいて利息を払う義務などないから、その利率を越えて支払った利息は返してもらうことができると、最高裁も認めたわけです。

 

これに対して、景品表示法にはどのようなことが書かれてあるかというと、事業者(グリーなど)は、不当に顧客を誘引するような表示を「してはならない」などと書いてあるだけです(4条)。

それに違反して不当な表示等をしてしまったらどうなるかというと、内閣総理大臣がそのような行為をやめるように命ずることができる(6条)とか、事業者に対し懲役や罰金などの刑を科する(15条以下)などと規定されています。

しかし、不当な誘引に乗せられて商品を買ったり、コンプガチャを利用したりした場合、その契約(商品を買うという契約、利用料を払ってコンプガチャを利用するという契約)はどうなるかというと、何も書かれていません。「無効とする」という規定はない。

 

教科書的にいうと、こうした観点から、法律は2種類に分けることができます。

一つは、利息制限法のように、それに違反した契約は無効とされる規定。これを効力規定と言います。

もう一つは、景品表示法など、行政が各種の業者に対して、健全な経済活動を行なうよう取り締まることを目的とする規定。これを取締規定と言います。取締規定に違反すると、行政からその業者に対しておとがめがあるけど、契約自体は直ちに無効になるわけではないとされています。

 

取締規定の例をもう一つ挙げます。

先日、高速バスの運転手が居眠り運転して、多数の死傷者を出すという事件がありました。バス会社は、道路運送法という法律に違反し、日雇いで運転手を雇っていたという報道がありました。

このとき、事故を起こしたバスに乗っていて、ケガをした人や、亡くなってしまった方の遺族は、損害賠償ということで、バス会社に賠償金を請求できます。

では、事故のとき以前に、このバス会社のバスに乗って、幸い事故なくバス旅行を終えた人たちは、「バス代を返せ」と言えるか、というと、ちょっと違和感を覚えるのではないでしょうか。バス会社に法令違反があったとはいえ、旅行は無事終わり、バスで運んでもらうという約束も果たされているからです。

バス会社は今後、運送事業者としての免許を取り消されるでしょうけど、バス利用者との間での契約(バス代を払って目的地まで連れていってもらうという契約)は無効にならない、ということです。

 

ただし、取締法規への違反があまりに甚だしい場合は、契約の効力自体が否定されることもあるとされているのですが、その点は次回に続きます。