大阪地検の元検事、犯人隠避罪の公判始まる

おととい(12日)、大阪地裁で、大阪地検の(元)検事の犯人隠避事件の公判が始まったようです。検事が逮捕・起訴されたという前代未聞の事件ですが、この経過をざっとまとめてみます。

 

平成21年、「凛の会」という団体が、障害者団体は郵便料金が安くなるという制度を悪用し、その認定を受けようとした。そして厚生労働省の担当者が、障害者団体の実態がなく不正であるとわかっていながら、認定証を発行した(とされた)。

その発行権限を持つ厚生労働省の村木局長が、認定証を発行するよう部下に指示したとして、虚偽公文書作成罪で逮捕・起訴された。しかし裁判の結果、そんな指示をした事実は認められないとして、村木氏に無罪判決が出た(平成22年9月)。

 

その直後、この事件の捜査を担当していた大阪地検の前田検事が、押収したフロッピーディスクの文書の作成日時を変更していたことが発覚。

ことは村木氏の事件の捜査段階だった、平成21年の話です。

検察側は、「平成21年の6月上旬ころ、凛の会が村木氏にニセの認定証を発行するよう申し入れ、村木氏がそれを受けて認定証を発行するよう、部下に指示した」と考えた。しかし検察が押収したフロッピーにある認定証の作成日付は6月1日未明の時間で、検察の読みと違う。そこで前田検事は、フロッピー押収後の平成21年7月13日、この文書の作成日を「6月8日」に変えた。

前田検事がうっかりフロッピーのデータをいじってしまって、データの更新日時が「7月13日」(当日)に書き換わってしまったというのであれば、「過失」であって犯罪ではない。しかし、7月13日の時点でデータの更新日時を「6月8日」に変更するのは、普通のやり方ではできません。前田検事は特殊なソフトを使ったようです。明らかに、「故意」でフロッピーを改竄したことになる。

 

このフロッピーは最終的に、村木氏を有罪にするための証拠としては使われなかったようです。しかし、もし裁判の中で弁護側が、認定証の作成日が検察側の主張と食い違う(6月上旬に申し入れを受けたのであれば、6月1日未明に認定証を作成しているはずがない)と主張していたら、検察側は何食わぬ顔で「いやこの認定証は6月8日に作成されてるじゃないか」と反論したことでしょう。そんなことで無実の人が有罪になっていたかも知れないと考えると、たいへん恐ろしい話です。

前田検事は逮捕・起訴され、証拠偽造罪で懲役1年6か月の実刑判決受け(平成23年4月)、今は刑務所にいるはずです。

ちなみに、では6月1日未明の認定証は誰が作ったのかというと、村木氏の部下が独断で作った疑いがあるということで、裁判が継続中のようです。

 

今回始まったのは、前田検事の上司の大坪検事、佐賀検事の裁判です。

両検事は、前田検事から、改竄後の平成22年2月ころ、その事実を伝えられ、黙っているよう指示した、ということで罪に問われています。罪名は「犯人隠避罪」で、罪を犯した人を匿う犯罪です。

今後の裁判のポイントは単純です。

前田検事の犯した証拠偽造罪は、故意でないと成立しない。つまり大坪・佐賀両検事は、前田検事がわざとフロッピーを書き換えたことを知った上で、黙っているよう指示した、ということでなければ、犯人隠避罪になりません。その点を知っていたかどうかが、今後、裁判の中で明らかにされるのでしょう。

 

過去にもブログで書きましたが、部下のミスをわかった上で、上司が「何も言うな、俺に任せておけ」と言ったとすれば、これは温情的な良い上司であるように思えます。しかしよりによって検察が、一個人の有罪・無罪の瀬戸際で、そんな温情を発揮してはならないのでしょう。

検察組織自体の構造的問題だ、と報道では大きく論じられていますが、裁判自体は、上記のポイントを中心に淡々と進むと思われます。