暴力被害相談3 民事裁判

大阪簡裁の法廷にて、市川鯛蔵の民事裁判、第1回口頭弁論。

 

裁判官「原告の市川さんの訴状を陳述します。暴力を振るわれたことの損害賠償として、50万円を払え、ということですね」

山内「はい」

裁判官「被告の伊藤さんは来ていませんが、答弁書が出ていますので。殴ったことは認めますが、お金がないので話し合いの上で、分割で賠償金を支払いたいとのことです」

山内「はい」

裁判官「では、次回は話し合いを試みてみましょうか。次回期日は…」

 

その後、大阪簡裁の控室にて、市川鯛蔵・真於夫妻と。


市川「今日の手続きはあれで終わりなんですか?」

真於「私たち夫婦もいつ発言を求められるかと緊張して見てたのですけど、あっさりしたものですね」

山内「はい。民事裁判の第1回目はあんなものです。ですから傍聴に来ても面白くはないって言ったでしょ」

市川「被告の伊藤は出てこなかったですよね、こんなの認められるんですか?」

山内「民事裁判の第1回は、被告の都合を聞かずに日時が決められるので、第1回目は答弁書だけ出しておけば良いという扱いになっているんです」

市川「で、伊藤はなんて言ってるんですか」

山内「法廷で聞いてもらったとおりです。殴ったことは認めると。ただ、何十万も支払えるお金がないので、話し合って、分割払いにしてほしいということです」

市川「私としては、払うべきものはきっちり一括で払ってほしいので、話し合いなど応じたくはありません」

山内「まあ、そこは現実的に考えてください。裁判に勝っても、賠償金を支払う財力が相手にないなら、取立てはできないですよ」

市川「私が鶴橋のホルモン焼き屋で見かけたときは、高そうな肉を注文してましたけどねえ。賠償金を払う余裕もないとは思えないんですが」

山内「そこがまさに肝心なところなのですが、お金を持っているはずだというのであれば、どこの銀行に預金があるとか、どこの会社から給料をもらっているとか、そういったことをあなたが特定しない限り、取立てはできないんです」

市川「え、そういうのは、裁判所や弁護士さんが調べてくれるわけじゃないんですか」

山内「残念ながら、裁判所や弁護士にそんな能力や権限はありません」

真於「あのぉー、そしたら、せっかく裁判で勝ったのに、実際に被告から回収できるお金は、ゼーロー、ってこともあるんですか?」

山内「ええ、可能性としてはありますね。ですからその、ゼーロー、って何なんですか」

市川「いいから真於は黙ってなさい。わかりました。実際お金が取れるか取れないかわからない判決をもらうくらいだったら、少しずつでも返してもらったほうが賢い、ってことですね」

山内「そういうことです」

市川「わかりました。次回の裁判も出席しますので、よろしくお願いします」

山内「はい。相手の出方を見て、落としどころを考えていきましょう」


続く 暴力被害相談4

暴力被害相談2 加害者の住所がわからないとき

市川鯛蔵 2回目の相談

 

山内「こんにちは。おや、今日はおひとりですね。ケガの具合はどうですか」

市川「はい、ほぼ治りました。幸い謹慎にならずに済んで、公演にも出ています」

山内「よかったですね。ところで、今日はえらく荷物が大きいですね」

市川「舞台の衣装が入ってるんです。それから演技の勉強をしようと思って、でんでんタウンで中古のDVDを買いこんできたんです」

山内「勉強熱心ですね。大衆演劇の参考になるような作品があるんですか」

市川「(DVDのパッケージを取りだしつつ)先生これご存じですか?『赤城の山も今宵限り』ってやつ」

山内「ああ、『名月赤城山』ですか。国定忠治の話ですね…って雑談はともかく、その後、何か進展はありましたか」

市川「私を殴ったヤツですけど、略式とかで罰金を払って出てきたみたいです」

山内「略式起訴ですね。書類審査だけで裁判して、罰金を納めて終わり、というやつです」

市川「では、私は今後どうすればよいですか」

山内「民事訴訟を提起して賠償を求めることになります。相手の住所氏名はわかりますか」

市川「名前は確か伊藤といいます。住所はわからないのですが」

山内「刑事裁判は終わっているので、事件記録を取り寄せできます。それで相手の住所もわかるでしょう」

市川「そうですか。弁護士さんに依頼するとしたら、弁護料はどれくらいですか」

山内「ざっと見て10万円前後でしょうか」

市川「請求できるのは30万くらいって話でしたよね。その割には、費用は安くはないのですね」

山内「ええ、1億円を請求するのも、30万円を請求するのも、弁護士の手間としてはそんなに変わらないので、お安くできるのにも限度があるんですよ。ご理解ください」

市川「わかりました。先生にお願いしますので、今後の手続きを教えてください」

山内「あなたの委任状をもらえれば、私のほうから検察庁に事件記録の開示を求めます。これらの記録に基づいて被害状況を明らかにして、訴状を裁判所に提出します」

市川「裁判は勝てそうですか」

山内「罰金刑の有罪判決を受けているのですから、暴力を振るった事実は否定できないでしょう。裁判に負けることはまず考えられません。あとは裁判所がどれだけの賠償額を認めてくれるかです」

市川「30万円を請求するんでしたよね」

山内「まあ、訴えるときは、少し多めに見積もって請求することが多いですけどね。裁判所が多めに認めてくれる可能性もなくはないので」

市川「だったら、いっそ1000万円くらい請求してやったらどうですか。相手もびっくりしますよ」

山内「それは構いませんが、訴状に貼る印紙代は実費をいただきますよ」

市川「と、言いますと?」

山内「請求額に応じて訴状に印紙を貼らないといけないんです。1000万円請求するなら、印紙代は5万円、別途かかります」

市川「それはちょっと痛いなあ」

山内「50万円の請求なら、印紙代は5000円です。これくらいでいいんじゃないですか」

市川「そうですね。わかりました。よろしくお願いします。では、今日も稽古がありますので今日はこのへんで」

山内「あ、DVDが落ちましたよ…何ですか、『美少女仮面ポワトリン プレミアムDVDボックス』って。こんなの買いあさるために今日は奥さんを家に置いてこられたんですね」

市川「そんなことは…ありません。女形の勉強のためなんですよ。じゃ、じゃあ、失礼します」


続く 暴力被害相談3