最高裁で強姦事件に逆転無罪判決 3(完)

続き。
最高裁で無罪判決が出た強姦事件の真相は、判決を読むかぎり、被告人の男性が、被害者とされた女性に、3万円を払う約束で「手で抜いてもらった」だけのようです。
男性が3万円を支払わずに逃走したことから、ややこしくなった。

ではこの男性、3万円を払う約束を破ったことについて、刑事責任は問われないのか。
刑法の教科書などには、売春代金を支払わなかったら犯罪になるか、ということが論じられています。本件も同じ問題であると考えてよい。

たとえば飲食店で食事したあと、「財布を忘れたから取ってきます」と言ってそのまま逃げると詐欺罪になるし、「こんなマズイ料理でこの俺からカネを取るのか!」などと凄んで食事代を踏み倒すと恐喝罪になる。

売春代金についても、同じように詐欺罪や恐喝罪になる、という考え方もありますが、一方で、売春でお金を稼ごうなどと考える女性側も間違っているから、男性側に刑罰まで与える必要はない、という考え方も有力です。

最高裁はどう言っているかというと、こういうケースについての判例はないようです。おそらく、そんな事例は滅多に刑事裁判にならないからだと思われます。

もし女性が、「やらせてあげたのに代金を払ってくれなかった」と言って警察に駆け込んだとしても、警察はまともに取り合わないでしょう。せいぜい、その男性を呼び出して注意し、女性にも「そんな商売やめなさい」と諭して終わり、となることが多いでしょう。

今回の事件も、女性が「強姦された」と被害届を出したから刑事裁判に発展したのであって、「手で抜いてあげたのに3万円払ってくれなかった」と申告していたら、ここまで大ごとにはならなかったはずです。

そういった、有罪・無罪が微妙である点に加えて、強姦の裁判で無罪判決が出ているため、「ならば詐欺罪か恐喝罪で」と改めて起訴されることもないでしょう。
「一事不再理」の原則で、いったん無罪になった事件を蒸し返すことはできないということです。

(このケースで詐欺・恐喝罪での再起訴に一事不再理が適用されるかどうかには議論の余地があると思いますが、専門的になりすぎるので省略します。刑事訴訟法を学んでいる方は、公訴事実の同一性の範囲に入るか否か、考えてみてください)

逆に、この事件を「強姦」と届け出た女性には、虚偽告訴罪(犯罪でないものを犯罪と申告すると罪になる)が成立しないのか、ということも問題となると思います。
理論上は、そうなると言えそうです。

もっとも、今回の被告人男性が虚偽告訴罪で女性を逆に告訴したとしても、元はと言えば手で抜いてもらおうなどとしたのが間違いじゃないか、身から出た錆じゃないか、ということで、警察官に諭されて終わりなのではないかな、と思います。

つまらない事件が偉大な法原則を生む、と何かの教科書で読んだ記憶がありますが、今回も、つまらない事件が注目すべき最高裁判決を生んだ、そんな事件だったという感想です。
終わり。