非嫡出子相続分差別に違憲判決 補遺

非嫡出子の相続規定に関してブログに書いているうちに、あれこれ思い出すこともあったので、補遺ということで続けます。

今回の最高裁の判断に対しては、やはり批判も強いようです。ネットや新聞の投書欄では、正式な婚姻と不倫との違いがあいまいになるとか、親の世話もしていない非嫡出子が相続だけ平等で良いのか、という意見も散見しました。それらの意見はもっともだと思いますが、ここではあえて最高裁の擁護をしてみたいと思います。

 

最高裁には15人の判事がいますが、今回の判決は、彼ら15人が適当に頭の中で考えただけで出てきたわけではありません。

最高裁には、判事の下に、全国選りすぐりの裁判官が就任する何十人かの「調査官」という人がいて、重要な判決を出すにあたっては、彼らが徹底して、事案の調査をしたり、こういう判決を出したら今後どんな影響が出るかなどを調べたりしています。

今回の判断にあたっても、上記のような批判があるのも当然わかっていて、それも織り込みずみのはずです。少なくとも、外野でヤイヤイ言ってるだけの私たちより、はるかにこの問題のことを熟慮した上での判断だったはずです。

 

加えて思い出すのは、尊属殺人罪を定めていた旧刑法200条が違憲とされたケースです。

殺人罪(刑法199条)の刑罰は、死刑、無期懲役、5年以上の懲役(昔は3年以上)のいずれかですが、かつて存在した尊属殺人罪というのは、親を殺すと死刑か無期懲役のいずれかという、重い刑罰を科していました。

この条文は、親との関係において子を低く見るものであって平等違反だ、という意見もありましたが、戦後、最高裁は長らく、この規定を合憲としてきました。

しかし、昭和48年に最高裁は判例変更し、この規定が違憲であると断じました。

問題となった事案は、父が実の娘に対し、幼いころから性行為を含む虐待を繰り返し、娘が思い余った末に父を殺してしまったというものです。

親を大事にすべきなのは当然のことである、しかし、親殺しにもいろんな事情があるのであって、どんなにひどい親でも、殺してしまったら一律に死刑か無期懲役しか選択できないのは重すぎる、ということで、この規定は違憲とされたのです。

(なお、実際には、情状酌量などで無期懲役よりは軽くできるのですが、刑法の規定上、一番軽くしても3年半の実刑となります。通常の殺人罪なら、執行猶予をつけることが可能で、結果としてこの娘は執行猶予となりました。)

 

非嫡出子の相続分に関しても、ケースごとに様々な事情があるのであって、一律に半分にしてしまうのは不合理だと、最高裁は考えたわけでしょう。

ただ、最後に私見を付け加えると、尊属殺の規定は、どんなひどい親であっても殺すと必ず実刑になってしまうという、比較的わかりやすい不合理さが含まれていたと思うのですが、非嫡出子の相続規定については、相続分が半分とされることで何か耐え難いような事態が生じていたのかというと、そこは実感しにくいところです。

そういう意味でも、今回の判断は、今後も議論を呼ぶことになるのかも知れません。

相続相談2 遺産の共有とは、分割の方法は

相談者 田中良翁 2回目のご相談

 

田中「今日は父親の通帳を持ってきました」

山内「なるほど、八尾信用金庫に約3000万円の預金があるのですね」

田中「不動産については何かわかりましたか」

山内「はい、あなたが住んでおられる東大阪の土地は、登記簿によると、名義が田中亀六さんになっていました」

田中「ああ、死んだ親父の名義ですね」

山内「1つの土地の上に、建物が2つあるようですね。『付属建物』が存在すると登記されていますが、何かわかりますか」

田中「ええ、母屋と離れがあるんです。母屋には、私と妻と息子2人がいて、親父と同居してました。弟のトキは独身で、離れで一人で住んでます」

山内「固定資産評価証明書によると、土地の価格は約2000万円ですね。建物は古いので、評価額はゼロに近いです」

田中「そうすると、一体どういうことになりますか」

山内「亀六さんの遺産は、預金3000万円、不動産2000万円の、合計5000万円です。これを3人で分けることになります」

田中「どう分けるのが良いでしょうか」

山内「典型的には、あなたが母屋を取り、トキさんが離れを取る。カイオウさんにはお金を分けてあげることが考えられます。亀六さん名義の土地は、2つに区切って、それぞれ、あなたとトキさんの名義に変えるのが良いでしょう」

田中「土地を二つに分けるんですか」

山内「はい、分筆(ぶんぴつ)と言います。土地家屋調査士さんに測量してもらって、それぞれの敷地の間に境界線を引いて、杭を打っておくんです」

田中「クイ…ですか?」

山内「杭といっても大げさなものでなくて、境界線の起点に金属の鋲を目立たない形で打つだけです」

田中「なるほど。で、兄や弟は何か言ってきましたか」

山内「はい、それなんですが、トキさんからは協議に応じると、文書での返答がありました。カイオウさんは、働いておられる民宿にあてて文書を送ったのですが、今のところ返答はありません」

田中「返答がないなら、兄を無視して手続きを進めることはできませんか」

山内「いえ、それはできないですよ。現時点では、東大阪の不動産は、相続人全員で3分の1ずつ共有している状態になっています。これをあなた一人の名義に登記するためには、相続人全員が遺産分割協議書に実印を押す必要があるんです」

田中「面倒なことになるのなら、私はその共有とかいう状態で構いませんが。私ら一家も、弟も、今のまま住めるんでしょ?」

山内「確かにそうですが、あとで問題になることは多いです。もしカイオウさんが帰ってきて、俺も共有者だから住まわせろと言ってきたら、断れませんよ。それに、もしあなたやカイオウさんが亡くなったら、それぞれの奥さんやお子さんが共有権を相続しますから、トラブルの種を次の世代に残すことになります」

田中「そうかあ…。兄も淡路島で隠し子がいるとか、ウワサで聞いてましてね。じゃあウチの妻や息子とその隠し子が…」

山内「そうです。東大阪の不動産をめぐって争うことになりかねない。トキさんだって結婚して子供ができれば、将来的に相続人はもっと増えます。兄弟の多い家庭で相続問題をほうっておいたために、相続人が何十人にもなって収拾つかなくなることだって、よくあるんですよ」

田中「それはちょっと困りますね。と言っても、兄が話し合いに応じてこなければ、遺産分割協議はどうなるんでしょうか」

山内「考えられる方法としては、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、裁判所から呼出状を出してもらうことですね。調停が成立すれば、遺産分割協議書を作らなくてもよくなります」

田中「そうですか。わかりました。それでは、その調停というものに取りかかってください」

山内「わかりました。家庭裁判所での調停期日が決まりましたら連絡いたします」


続く 相続相談3

相続相談1 相続関係の調査

法律相談シリーズ2回目は、相続問題です。


相談者 田中良翁(40代、自営業)

 

山内(相談者シートを見ながら)「初めまして。えーと、これは、田中ヨシオさんと読むのですか?」

田中「いえ、田中ラオウです」

山内「そうですか、失礼しました。さて今日のご相談は」

田中「相続のことなんです。父親が先月に亡くなったので、今後の財産わけについてお聞きしたいんです」

山内「そうですか。お父さんの相続関係についてお聞きしますが、あなたのお母さんや兄弟の構成はどうなっていますか」

田中「母はずいぶん前に亡くなっています。兄弟としては、兄と弟がいます」

山内「そうすると、相続人はあなたたち兄弟3人ということになりますね。遺言書はありましたか」

田中「いいえ」

山内「お父さんの遺産にはどんなものがありますか」

田中「東大阪市にある自宅と、地元の信用金庫に預金が何千万かあるはずです」

山内「ではその不動産と預金を分けることになりますね。あなたたち兄弟が3分の1ずつの法定相続分を持ちますが、3人で遺産分割協議をして分配方法を決めることもできます。ご兄弟と協議はされましたか」

田中「いや、それが、話し合いできる状況じゃなくて、まだ何も進んでいないんです」

山内「ほう、連絡は取れないんですか」

田中「兄は遠くにいて、長らく音信不通です」

山内「えーと、そのお兄さんは何と言うお名前ですか」

田中「田中カイオウです。海に翁と書きます」

山内「カイオウさんはどうして音信不通なんですか」

田中「20年前に、俺は強い男になるために海を渡るんだと言って、出ていってしまったんです」

山内「ほう、では今、どこにいるかわからないんですか」

田中「いえ、淡路島で民宿の手伝いをしているんですけどね」

山内「はあ…瀬戸内海を渡ったんですか」

田中「はい、『料理民宿 しゅらの国』という宿で働いているということだけはわかっています」

山内「それから、弟さんは何オウさんですか」

田中「いや、田中トキといいます。登るに輝くと書きます。東大阪で、私の隣の家に住んでいるので、連絡は取れるのですが、病気がちなもので、あまり話しあいの場には出てきたがらないんです」

山内「そうですか。だいたいの事情はわかりました」

田中「私、相続でどれだけ取れるんでしょうか」

山内「いや、遺産総額がいくらになるかまだ把握できていませんし、他の兄弟の方が遺産分割協議に応じてくれるかどうかで、今後の方向性も変わってくると思いますので、今日の段階ではいくらとも言えません」

田中「私には難しいことはわかりませんので、すべて先生を通じてお願いしたいと思っているのですが、今後私は何をすれば良いでしょう」

山内「では私のほうで、東大阪の不動産の権利関係や評価額を調べてみます。あとは、お父さんの預金額がどれくらいか知りたいのですが、預金通帳は誰が管理しているのですか」

田中「私です。兄が家を出てから、私が父と同居しておりましたので。通帳は自宅のタンスにあるはずです」

山内「では、不動産は私が調べますから、次回までにお父さんの通帳を揃えておいてください。あと、私のほうから、カイオウさんとトキさんに、遺産分割協議に応じてくれるよう、文書で要請してみます。1か月もあればおおよそのことは判明するでしょうから、そのころにまたお越しください」

田中「わかりました。よろしくお願いします」


続く 相続相談2