商標権侵害とパロディのはざま

昔から、ポール・サイモンの歌が好きで、事務所でたまにBGMに流したりするのですが、私の好きな歌の一つに「僕のコダクローム」というのがあります。

CDジャケットを見ると、この曲名の右肩あたりに、丸の中に「R」と書かれたマークがついています。このRは「register」、つまり登記や登録を表します。歌詞カードの隅っこを見ると、英語で「コダクロームはコダック社のカラーフィルムの登録商標です」と書かれています。

 

この歌は、写真を撮るのが好きな少年を描いているのですが、ポール・サイモンがこの歌を発表したとき、アメリカのコダック社が、「うちの商品名を使うんなら、ちゃんと『R』マークを入れてくれないと困る」と言ったそうです。

ポール・サイモンが歌詞にしてくれるなら「宣伝になるから是非使ってください」と感謝してもいいくらいなのに、「うちの登録商標だと明記してくれ」だとは、なんと無粋なことをするものだと、誰かがCDのライナーノーツか何かで書いていたと記憶しています。

ちなみに、この歌の歌詞に「僕はニコンのカメラを持っている」というくだりがあるのですが、日本のニコン社はRマークを入れてくれとは言っていません。

 

これとはずいぶん異なる話かも知れませんが、大阪の吉本が土産用の菓子に「面白い恋人」というのを販売していたら、北海道で「白い恋人」を販売している本家本元の製菓会社(石屋製菓)が、吉本に対し「商標権の侵害だ」と提訴したそうです。

商標法によると、特許庁に登録された商標については、同種の商品において、他者が類似の商標を使う場合に、その差止めを求めることができるとされています。「白い恋人」は登録商標で、菓子に「面白い恋人」などと名付けるのは類似商標にあたる、というわけです。

 

こうした商標法の趣旨は、おわかりだと思いますが、長年の営業努力によって培われてきた登録商標に対する信用を、関係のない他者が、それと紛らわしいネーミングを利用することで顧客を横取りするのを防ぐという点にあります。

 

ただ、「面白い恋人」に関していえば、それを「白い恋人」と勘違いして買う人がそうそういるとは思えず、多くの人は、本家本元の「白い恋人」とは別物だと分かった上で、「また大阪の吉本がアホなことしてよるで」くらいにしか思わないのではないかと感じます。

果たしてこれを、許される範囲のパロディだと見るか、便乗商法だとみるか。今回の提訴を、無粋な行為とみるか、商標を守るための当然の行為とみるか。この点はそれぞれの考え方があるかと思います。

 

ただいずれにせよ、本家本元の石屋製菓は、「面白い恋人」について、「悪ふざけが過ぎて、ちっとも面白くない」とコメントしたそうです。

パロディというのは、他者を不快にしない程度であってこそ、面白いものだと思います。

「白い恋人」と「面白い恋人」が類似商標だといえるか否かという司法の判断は非常に興味あるのですが、吉本側も、自主的に販売をやめるということでよいのではないかと思います。何より、大阪の人にとって「面白くない」と言われるのは最も不名誉なことなのですから。