生活保護の不正受給が含む問題について

しばらくブログの更新が空いてしまいました。久々の投稿は、今さらながらの感もありますが、生活保護の話です。

次長課長というお笑い芸人がいて、その片割れの河本(敬称略)という人の母親が、河本にそれなりの収入があるにもかかわらず、生活保護を受給していたという話です。

この件についての結論はすでに報道されているとおりで、違法とまでは言えないけど、ほめられたものではないということで、私もそう思います。

 

いちおう法的解説を加えますと、民法877条1項には、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。これを根拠にして、たとえば貧しい暮らしをしている母親は、裕福な息子に対して、扶養してくれ、と求めて裁判を起こすことができる。

そうなると裁判所は、双方の資産や収入を考慮して、息子は母親に月々いくらを支払え、という形で具体的な扶養義務を負わせることができます。

しかし、この手の裁判はめったに行われないですし、私自身もそんな依頼を受けたことはありません。多くの人は、そんな面倒な裁判をするくらいなら、生活保護の申請をするでしょう。

 

親族による扶養と、国家による生活保護。

生活保護法によれば、親族による扶養が優先し、それすら受けられない人が国家による庇護を受けるということになっています。そのため、生活保護の申請を受けた役所は、親族に対する問い合わせをしているようです。

その問い合わせに対し、売れない芸人だったころの河本は、「母親を養うほどの余裕はありません」と答えたのでしょう。私はそのことを責める気にはなれません。私だって、もし役所から同じ問い合わせを受けたら、同じように答えたのではないかと思います。

河本の母親も、そういう経緯で生活保護を受給するようになったのでしょう。

 

ここで、不正受給を徹底的に防ぐべきだというのであれば、役所に強大な権限を与え、情報収集を容易にできるようにしてやるべきです。

個々の国民の資産や収入を、厚生労働省がすべて把握できるようにすべきです。全国の銀行は、厚生労働省からの照会があれば、預金者の口座情報(残高や入出金の履歴)を、直ちに回答するよう義務づけすべきです。

私などは、本気でそうすべきだと考えていますが、「個人情報」を国家が集中的に管理するのは望ましくない、と考える人も多いはずで、だからこの問題は直ちに解決することはないでしょう。

 

河本の一件が今後どうなるかというと、生活保護法77条は、扶養してやるべき義務を本来負う人がそれを果たさずに、生活保護が支給された場合、役所は後からそれを義務者に請求できる、とあります。

ですから今後、河本に対して、役所から「払った生活保護を返してくれ」という手続きが行われるかも知れません。河本がそれに応じれば、法的にはそれでお咎めなしです。

 

後味の悪い話ではありましたが、では私たちが同じ立場にいたとしたら、国家を頼らずに身を切って親族を支えてあげたと言えるのか。また今後このようなことを防ぐために、国家にもっと強大な権限と情報収集能力を与えるべきなのか。

この問題は、お笑い芸人が頭を下げて終わり、というような話ではなく、私たち個々の国民に対する、そういった問いかけを含んでいると思います。