「緊急事態」とはいかなる事態か

引き続き、地震関連の話を書きます。

被災者の安否や、原子炉の状況など、現状が気になる事柄が多々ありますが、残念ながら私にはどうすることもできないので、ここでは、今回の震災に対する法律面での現状を書いてみたいと思います。

菅総理が「緊急事態」を宣言したと報道されていますが、これは何を意味するのか。
もちろん、単に「えらいことになった」と言っているだけではなくて、法律の根拠に基づく宣言です。

災害時の緊急事態宣言とは、前回紹介した、「災害対策基本法」と、「原子力災害対策特別措置法」に規定があります。長いので以下、「基本法」と「措置法」と略します。

基本法105条によると、「異常かつ激甚」な非常災害が発生したとき、総理大臣は「災害緊急事態」の宣言をします。これが行なわれると、内閣の命令(政令といいます)によって、物資の流通や価格を統制できることになります。

今回のケースであてはめると、「水や食料などの生活必需品を東北の被災地に集中させ、被災していない西日本では一定数量以上は販売してはいけない」とか、
「水の価格の高騰を防ぐため、ペットボトルの水は1リットルあたり150円を超える金額で販売してはいけない」といったことを、菅総理が流通業者に命令で
きることになります。

本来は、業者がどんな商品を、どこでいくらで販売するかといったことは、「営業の自由」(憲法22条)であって、総理大臣でも口出しできることではない。
ですから緊急事態とは、国家の危難を回避するため、総理大臣に一時的に極めて強力な命令権を与え、本来であれば許されないような権限行使をさせることを意味するのです。

ただ、今のところ、ここまで強い意味での緊急事態宣言は発せられていないようです。
内閣府のホームページによりますと、いま発せられているのは、措置法15条による「原子力緊急事態宣言」のようです。

これは、測定される放射線量が異常なものとなった場合などに出されるものです。
これが行なわれると、総理大臣は、避難勧告、さらには避難命令(条文には「指示」と書かれています)を行なえるようになる。報道されているとおり、現に原発周辺の住民に対して避難命令が出ているようです。

これにしても、本来であれば、住み慣れた自分の家を捨てて30キロ先に避難しなさいなどと、総理に言われる筋合いはない。緊急事態だから例外的に、総理に国民の居住場所を指示する権限を与えるわけです。

いずれにせよ、強い権限には重い責任が伴います。
菅総理が原子力緊急事態宣言をしたということは、この度の原発事故について自ら強い権限を行使し、その結果責任のすべてを自ら負うと宣言したことを意味します。

民主党そして菅総理のことなので、そのことの意味が「わかっていなかった」などと言いだす懸念がなくはないですが、今はひとまず、菅総理の権限行使を見守るしかないでしょう。