告訴を受理させる50の方法 2

前回の続き。民事事件として解決すべきような事柄で告訴状を出しても警察はまず動かない、という話をしていますが、私の経験の中で、実際に警察が動いた数少ない事例を紹介します。

依頼者の明子さん(仮名)は若い女性で、仕事を通じて正夫(仮名)という同じ年ごろの男性と懇意になった。付き合っていく中で、正夫からは将来結婚しようという話も出ていた。そしていつごろからか、正夫は明子さんに「お金を貸して欲しい」と頼むようになり、明子さんは自分の預金から何万、何十万と貸すようになった。

正夫の要求は次第にエスカレートして、1回で何百万を借りることもあり、最終的に明子さんは合計で約1000万円を正夫に貸した。正夫は「必ず返す」と言いつつ1円も返さず、そのうち連絡が取れなくなった。

私はまず、貸した金を返せという民事裁判を起こしました。幸い、明子さんが正夫の実家を知っていたので、訴状を送りつけることができました。

それに対して正夫は、弁護士を通じて、「個人再生の申立て」をしてきました。つまり、お金を返せないから負債をカットしてください、という手続きです。いま武富士が会社更生法のもとで会社再建を目指していますが、その個人版みたいなものです。

しかし、裁判所は正夫の申立てを却下しました。正夫の負債の大半は明子さんからの借金であり、明子さんからの借金を踏み倒すためだけに個人再生手続きを利用することは認めない、ということです。そして、正夫に対して1000万円の返済を命じる判決が出ました。

それでも正夫はお金を返してこないので、私が正夫の勤務先をつきとめ(個人再生手続きの資料を閲覧して、勤務先が判明した)、給料の一部を差し押さえました。しかし、差し押えた給料から取り立てができたのは1か月分だけで、正夫はその後すぐ、会社を辞めてしまいました。そうなれば給料の取立てもできません。

さすがに私も、この正夫の対応があまりにひどいと思い、明子さんの了承も得て、詐欺罪で警察署に告訴しました。返すと言いつつ、1円も返さず繰り返し借入れをしているんだから、本当は返すつもりもなく借りていたはずだ、という理屈です。

私と明子さんで、3回ほど、所轄の警察署に事情を話しに行ったり、証拠書類を持っていったりしました。そして担当の警察官が「わかりました。告訴を受理させてもらいます」と言いました。

その後、明子さん単独で、何度も警察署に呼び出されたはずです。明子さんは被害者であって最も重要な証人ですから、たびたび事情聴取を受ける必要があるからです。

このようにして、あとは警察に任せたような形になって約1年が経ち、私がこの事件を忘れかかったころ、明子さんから私の事務所に電話がありました。

「正夫くんが警察に逮捕された」という連絡でした。

何だかドラマ仕立てになってきましたが、このあたりで「次回に続く」とさせていただきます。