メニュー偽装問題の違法性の検討

大手ホテル等でのメニュー偽装の問題がやかましくなっていて、この3連休、テレビをつけると連日、この話をしていました。私は正直なところ、この問題には興味ないのですが、妻からのリクエストもあって、ちょっと整理してみます。

 

メニュー偽装は法律的に何が問題か。

たとえば、外国産の牛を和牛と称するとか、バナメイエビを芝エビと称したりすると、景品表示法という法律に触れます。この法律は、景品・商品の広告等を規制するもので、不当な方法で顧客を誘引する行為を禁じるものです。

この法律、少し前にも当ブログで紹介しました。コンプガチャの問題が取りざたされたときです。インターネット上のゲームで、レアなアイテムが出る確率を極めて低くし、ユーザーをあおってたくさんお金を使わせたことが、この法律に触れるとされました。

このときにも書きましたが、景品表示法は、あくまで、行政庁(お役所)が企業を規制するための法律です。これに違反すると、行政処分(営業停止など)を食らうことがあるものの、お客さんに代金を返さないといけないとは、どこにも書かれていない。

現に、コンプガチャが問題になったときも、ユーザーに利用料を返金したという事実はなかったはずです。

いま、一部のホテルが返金に応じていますが、あれは法的義務があってそうしているわけではありません。あくまで、老舗のホテルとしての道義的責任を感じて、自主的に行なっているものです。

 

民法上は、お金を返せという理屈も成り立ちえます。

たとえば、民法95条の「錯誤」という条文は、ひとことで言えば、勘違いに基づく取引は無効にできる、というものです。

では「芝エビだと思ってたからエビの炒め物をオーダーしたんだ、バナメイエビならオーダーしていなかった」、というほどにエビにこだわっている人が、世の中にどれだけいるでしょうか。

私は、バナメイエビは近くのスーパーで売ってる、という程度の認識はありましたが、芝エビとどっちが上かなど知らなかったし、いま並べて出されてもたぶん違いは分からないと思います。

 

そういう私にも、食べ物・飲み物に対するこだわりが、皆無というわけではありません。たとえば行きつけのバーで奮発して、マッカラン(スコッチウイスキー)の30年ものをオーダーしたとして、マスターがごまかして12年ものを出したとします。

私はたぶん気づくと思います。マッカランという銘柄にこだわって飲むからには、それくらいの自信はあります。

もしそのとき気づかずに、後日、他人からのうわさで「あの店は30年ものと偽って12年ものを出している」と聞いたらどうするか。

私は、まずはそのとき気づかなかった自分を恥じます。その上で、その店には行かなくなるでしょう。返金を求めようとは思いません。そんな面倒なことしなくてもそんなバーは潰れると思うからです。

 

たしかにホテルのメニュー偽装は、返金義務までないとしても、商売のやり方としてどうかと思うし、行政庁が処分を下すというのなら仕方ないと思う部分はあります。

しかし、客としては、食材にこだわるなら自分の舌を頼りにすべきであって、それで気づかなかったのなら後からギャアギャアいうほどの問題ではない、というのが私の考えです。

そういう理由で、この問題にはあまり興味を持てないのです。

「コンプガチャ」 返金請求は認められるか 3(完)

続き。

景品表示法に違反するだけで、直ちにコンプガチャにつぎ込んだお金を返してもらえるわけではありません。ただ、極めて限定的ながら、返金を求める理屈はあります。

 

まず、未成年が親の同意なく、コンプガチャを含む携帯ゲームの利用契約を結んだ場合が考えられます。未成年者が親の同意なくした契約は、あとから取り消せるからです(民法5条)。ただし、契約の際に成年者だと偽ったような場合は取消しできません(同21条)。

 

また、表示に明らかなウソがあった場合、たとえば「こんなアイテムが当たる」と言っていながら、そのアイテムが決して出てこないような設定になっていた場合は、詐欺(民法96条)などを理由に、利用契約を取り消す余地もあるかと思います。しかし、業者としてもそこまでひどいことはしていないでしょう。

 

さらに、コンプガチャのシステムが、あまりに人々の射幸心(しゃこうしん。偶然の儲けを得ようとする心情)をあおるようなものであれば、公序良俗違反(民法90条)で無効と主張する余地もあります。たとえば、賭博は公序良俗に反するとされており、お金をかけてバクチをして負けても、法的には相手にお金を払う義務はありません。

行政上の取締規定への違反があまりにひどい場合は、民法上も公序良俗違反となる、ということは、判例上も認められています。

しかし、コンプガチャ程度のものが公序良俗に違反すると言えるかどうかは、極めて疑問です。もしそうだとするなら、パチンコや夜店の「あてもん」など、偶然の要素が入る取引はすべて無効で、お金を返してもらえることになりそうですが、さすがにそれはないでしょう。

 

このように、景品表示法に違反するというだけで、イコール契約無効、カネ返せ、と言えるわけではなく、民法などにある効力規定に違反するとまで言える必要があるわけです。そして、そこまで言える可能性は、上記のとおり、ずいぶん低いと思います。

 

あともう一つ、業者側が自主的に返金する、という可能性は、なくはないかも知れません。

例として、東京電力は、東日本大震災による原発被害について、「異常に巨大な天災」で生じた事故の責任は負わないという条文(原子力損害の賠償に関する法律3条)で免責される可能性があるのに、賠償に応じるスタンスを取っています。これは被害の大きさや、公共性の高い電力会社としての社会的責任を考えてのことでしょう。

グリーやDeNAが、「社会的責任に鑑みてお金を返します」と言ってくれるかというと、さすがにそこまでは期待できないかと考えています。

 

以上でひとまず、コンプガチャの返金問題に関する検討を終わります。あくまで私(山内)の個人的見解です。そして繰り返しますが個人的希望としては、お金を返してくれるとなったら弁護士としてはありがたいなあと思っております。

「コンプガチャ」 返金請求は認められるか 2

コンプガチャの利用者が、これまで払った利用料の返金を請求できるかというと、おそらく無理であろうと書きましたが、その続き。

 

たとえば、サラ金業者に対して過払い金の返還請求が認められるのは、利息制限法という法律の第1条に、所定の利率(貸金の額に応じ15~20%)を超える利息の定めは「無効とする」と明確に書かれているからです。

無効の契約に基づいて利息を払う義務などないから、その利率を越えて支払った利息は返してもらうことができると、最高裁も認めたわけです。

 

これに対して、景品表示法にはどのようなことが書かれてあるかというと、事業者(グリーなど)は、不当に顧客を誘引するような表示を「してはならない」などと書いてあるだけです(4条)。

それに違反して不当な表示等をしてしまったらどうなるかというと、内閣総理大臣がそのような行為をやめるように命ずることができる(6条)とか、事業者に対し懲役や罰金などの刑を科する(15条以下)などと規定されています。

しかし、不当な誘引に乗せられて商品を買ったり、コンプガチャを利用したりした場合、その契約(商品を買うという契約、利用料を払ってコンプガチャを利用するという契約)はどうなるかというと、何も書かれていません。「無効とする」という規定はない。

 

教科書的にいうと、こうした観点から、法律は2種類に分けることができます。

一つは、利息制限法のように、それに違反した契約は無効とされる規定。これを効力規定と言います。

もう一つは、景品表示法など、行政が各種の業者に対して、健全な経済活動を行なうよう取り締まることを目的とする規定。これを取締規定と言います。取締規定に違反すると、行政からその業者に対しておとがめがあるけど、契約自体は直ちに無効になるわけではないとされています。

 

取締規定の例をもう一つ挙げます。

先日、高速バスの運転手が居眠り運転して、多数の死傷者を出すという事件がありました。バス会社は、道路運送法という法律に違反し、日雇いで運転手を雇っていたという報道がありました。

このとき、事故を起こしたバスに乗っていて、ケガをした人や、亡くなってしまった方の遺族は、損害賠償ということで、バス会社に賠償金を請求できます。

では、事故のとき以前に、このバス会社のバスに乗って、幸い事故なくバス旅行を終えた人たちは、「バス代を返せ」と言えるか、というと、ちょっと違和感を覚えるのではないでしょうか。バス会社に法令違反があったとはいえ、旅行は無事終わり、バスで運んでもらうという約束も果たされているからです。

バス会社は今後、運送事業者としての免許を取り消されるでしょうけど、バス利用者との間での契約(バス代を払って目的地まで連れていってもらうという契約)は無効にならない、ということです。

 

ただし、取締法規への違反があまりに甚だしい場合は、契約の効力自体が否定されることもあるとされているのですが、その点は次回に続きます。

「コンプガチャ」 返金請求は認められるか 1

「コンプガチャ」という見慣れない用語が各紙の見出しに出ています。

これはたぶん「コンプリート・ガチャガチャ」の略です。コンプリートは完成させるという意味で、ガチャはガチャガチャ(またはガチャポン。昔からある、お金を入れて取っ手を回すとカプセルに入ったオモチャが出てくるもの)です。

携帯サイトで遊ぶゲームで、ガチャガチャを回すようにして有料のクジを引くとアイテムがもらえる、そして所定のアイテムが揃うと、より強力でレアなアイテムが完成する、というのがコンプガチャです。アイテムほしさに多額のお金をつぎ込んでしまうことが少し前から問題になっていました。

 

消費者庁は、コンプガチャの仕組みが景品表示法に違反する疑いがあるということで、近くその見解を公表する予定である、などと言っているようです(日経8日、9日ほか)。

景品表示法(正式名称は「不当景品及び不当表示防止法)とは、不当な方法で顧客を誘引するような表示をすることを禁じる法律です。

典型的には、養殖のウナギなのにパックに「天然」と表示して売るとか、もともと1万円で販売しているものに「2万円のところを半額の1万円!」などと広告を出すとか、そうした行為が禁じられています。

コンプガチャが、景品表示法のどの条文にどのように違反しているかという点について、現時点で消費者庁の見解は明らかにされていないようですが、滅多に揃わないアイテムで利用者をあおるというのが、一種の「不当な顧客の誘引」にあたるということなのでしょう。

 

さて、もし消費者庁が明確に「コンプガチャのシステムは景品表示法に反し、違法である」と言ったら、すでにコンプガチャで多額のお金を使った人は、そのお金を返してもらえることになるのでしょうか?

違法なことをして稼いだカネは、当然、もとの人に返せと言えるはずだ、と思う方もおられるかも知れません。もしそうだとすれば、私も嬉しいです。私自身はコンプガチャにお金を使ったことはありませんが、それで損をした人の代理人として返金の請求を行なうことになりそうです。

かつて一部の弁護士や司法書士が、サラ金に対する過払い金の返還請求を勧めるテレビCMを派手に出していましたが、今回はウチも「コンプガチャの返金請求は南堀江法律事務所へ!」などと広告を打ってみようかと思っています。CMのイメージキャラクターには吉本新喜劇のやなぎ浩二さんに出ていただき、「カネを返すとか返さんとか、そら芸者のときに言うことやがな」と言ってもらいたいです。

というのは冗談ですが、私としては、コンプガチャが違法だと宣言されても、カネを返せという請求は認められないと考えています。

その点の説明は次回に続く。