先物取引被害相談2 投資の引き際

小島さんの相談、前回の相談の翌日、資料を見ながら。

 

山内「なるほど、こういう取引状況でしたか。で、元はと言えば、なぜ小島さんが先物取引など始めることになったのですか」

小島「それがまあ、ゴールド物産の営業の女の子がかわいかったもので…」

山内「ああ、飛び込み営業は女性社員だったのですか。先物業者がよく使う手ですね。どんなふうに勧誘されたのですか」

小島「これから金の価格は絶対あがりますよ、って彼女が言ったんですよ。これって詐欺ですよねえ」

山内「はい。『絶対に儲かりますよ』なんていうセールストークは、『断定的判断の提供』と言って、商品先物取引法でも明確に禁じられています。でもそのへんは、後から『そんなこと言ってない』と言われたら、それでおしまいですね」

小島「でもそれだけじゃなくて、そもそも先物取引の仕組みなんて、山内先生にお聞きするまで何もわかっていなかったですのに」

山内「まあ、でも、契約書を見ると、損失が生じるリスクはひととおり書いてあります。だから、全く説明がなかったというのも、通りにくいでしょうね」

小島「そうですか…。じゃあ、どんなところから攻めていけばいいんでしょう」

山内「言った言わないの話ではなくて、客観的な事実から追及すべきでしょうね。小島さんは、最初は50万円だけの取引だったのが、次第に取引金額が増えて、最終的には500万円にもなった。どうしてこんなに取引が増えたのか、そこがポイントの一つです」

小島「最初は儲かっていたので、営業の女の子に乗せられて、金を買い続けたんです。でも相場が下がると、担当が変わったとか言って、上司の男性社員が追証を払えって、やかましく言ってきたんです」

山内「担当者がころころ変わるのも、よくある話ですね。最初は若くて親しみやすい社員が出てきて、調子のいいこと言って投資額を膨らませる。相場が悪くなったら担当が変わる。前の担当の子が調子いいこと言ってたのとは打って変わって、追証を入れろときつく言ってくる」

小島「まさにそうでしたよ。本当に、ゴールド物産の連中は鬼ばかりですよ。私もお店の仕込みで毎日忙しいし、中国に行って食材の買い付けもしてるんです。そんな状況でも、担当者が入れかわり立ちかわり電話してきて、冷静な判断のしようがなかったんです」

山内「そうして熟考するひまもなく、取引が膨らんでいったのですね」

小島「それにしても、300万円も追証を払えとは…」

山内「昨日言いましたように、500万円の証拠金はあくまで手付けみたいなもので、実際は5000万円相当の金を買う契約をしているわけです。相場が上がれば利益も大きいですが、逆に、ちょっと下がっただけでも大きな損失が出るんです」

小島「私、どうしたものでしょうかねえ」

山内「これまで預けた500万円がパーになることを覚悟して、ここで取引から撤退するか、または、300万円の追証を上積みして、金相場の回復にかけてみるか、どちらかですよ」

小島「先生、どちらがいいのでしょうか…」

山内「いや、私は法律家ですから、法律のことなら何でも聞いていただいていいのですが、金相場のことは、全く判断のしようがありません。そこは、小島さんに決めていただかなくてはなりません」

小島「どうしようか、困ったなあ…」

山内「でもね、あえてどちらが良いかと聞かれたら、撤退することをお勧めしています。追証を積んで、回復できればいいけど、損が膨らむだけかも知れない。でも撤退すればこれ以上の損失は出ない。そうしておいて、あとは、先物業者との交渉や裁判を通じて、損した分を取り返すのです」

小島「なるほど、わかりました。このあと、ゴールド物産の担当者に連絡して、取引は終了すると伝えます。えらく損したから、うちのカアチャンには怒られるだろうけど、これから先生、弁護を頼みますよ」

山内「え、あなたの奥さんに弁解するのに私が立ち会うんですか? それはちょっと怖い…」

小島「いや、先物業者のほうですよ。少しでも損を取り返してください。正式に依頼いたしますので」

山内「ああ、そっちですか。わかりました。お引き受けします」

 

(続く)

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