新年のとりとめのない雑感 4(完)

日本の政治の劣化について書こうとして、昨今の弁護士事情に話がそれてしまいました。

弁護士に関して言うと、数が増えたせいで弁護士自身が劣化したのかも知れないし、タチの悪い依頼が増えたせいでそれにあわせざるをえなくなったのかも知れない。どちらが主な原因かと言われると、弁護士である私でもわかりにくく、おそらく、その両方が相関しあっているのでしょう。

 

政治家については、国会議員の数が増えたということはないですが、ある程度は人気商売であることは弁護士と同じです。国会議員は国から給料が出るから、弁護士みたいに依頼を増やして売上をあげないといけないという事情はないですが、でも、次の選挙で落選すると議員でなくなるのです。これは、よほどの不祥事や犯罪でもしない限り一生弁護士でいられる我々とは大きく異なるところです。

したがって国会議員は、選挙で落ちないよう、地元選挙区の有権者に対して、弁護士以上に熱心に、人気取りをしなければならなくなる。

 

これまた私自身の経験談になってしまって恐縮ですが、私が勤務弁護士をやっていたころ、事務所の所長弁護士は国会議員や地方議員にも顔が広く、そのため、議員に紹介されて事務所に相談に来た依頼者も多くいました。事件の内容は、借金とか離婚とか、息子が覚せい剤で捕まったとか、ありがちな相談ばかりでした。

議員の事務所へは「市政相談」などという名目で、地元の有権者が多数相談に訪れるのであろうと想像されますが、そこに来る相談とは、国や地方の政治のことでなく、おそらく多くはこのような、あくまで個人の問題でしかないのでしょう。

もちろん、これらの相談ごとも、当人にとっては大問題であるには違いない。ただそれらは、議員のところに駆け込んでいくようなことなのか、と私は常々疑問に思っていました。また、そういうルートでうちに相談に来た方が、不思議なことに共通して、ことあるごとに「私は議員の○○先生の紹介で来た」などと笠に着るのも、何だか鼻につきました。

 

議員の人たちは本来、国や地方の政治という「公益」のために仕事をやっているはずなのですが、こういった全く個人的な相談を聞かされて、それを無碍にもできないわけで、これは大変な仕事だなあと感じた記憶があります。

このように、議員は議員であり続けるために、こうした個人的な相談ごとに忙殺され、政治家本来の仕事がなかなか手につかなくなる、という側面はあると思います。

昔は、政治などはその土地の名士がやるもので、したがって議員でなくなっても食うには困らない、という人が多かったと思います。かといって現代では、名家のおぼっちゃんに政治をやらせるのがよいかというと、鳩山元総理の例で日本国民みな懲りたはずです。

 

結局、日本の政治が劣化しているとしたら、政治家自身が劣化しているのかも知れないが、一方で、どこまでも個人的な問題でしかないことについて、政治家を利用すればうまくやってくれるだろうと期待する有権者が、政治家のやることを矮小化させているという側面もあると思います。その両方が原因である、と結論をぼやかして逃げておきます。

 

最後に、公益とか何とか言われても、何が公益で何が個人の問題かわからないから、どこに相談に行けばいいのかわからない、という方は、まずは政治家でなく弁護士に相談に行ってください。

心ある弁護士なら、政治や行政に相談すべきことであるのか、弁護士で事足りることであるのか、弁護士にすら相談すべきでないことなのか、きちんと理由をつけて説明してくれるはずです。