成年後見と選挙権 1

今回の記事は、大阪ミナミで小料理屋の若女将をされている島之内あけみさん(29歳、仮名)からのリクエストです。

「一票の格差」の問題を書いてきましたが、公職選挙法がらみでもう一つ、成年後見人がついた人は選挙権を失うとの規定が先月、東京地裁で、憲法違反で無効だとされました。この問題に触れてほしいとのことですので、解説します。なお、仮名だけじゃなくて小料理屋も若女将もウソなのですが、リクエストがあったのは本当です。

 

知的障害や、高齢や痴呆で判断力が低下している人について、その財産管理などを行なうのが成年後見人です。その人の親族や弁護士が、家庭裁判所の審査を受けた上で就任します。

この場合、成年後見人がついた人は、成年後見人と呼ばれ、財産管理権がなくなり、自分で契約などを結べなくなるほか、選挙権も失うと定められています。

 

成年被後見人とは、字のとおり、成年にして後見されている人のことです。

なお、これと対応して未成年被後見人というのもあり、これは知的能力とは関係なく親権者がいなくなった場合につきます。以下、長ったらしいので「成年」は省略しますが、被後見人と書いたら成年被後見人のことと思ってください。

ちなみに、比較的最近まで、被後見人は、禁治産者(きんちさんしゃ)と呼ばれていましたが、言葉の響きが悪いのか、平成11年に民法が改正され、呼び名が変わりました。

「治産」とは自分の財産を管理・処分することを意味するので、それが禁じられている人ということで言葉自体は間違っていないと思うのですが、たしかに「禁」という言葉がつくことで、法律家でない人が聞けば、何か悪いことをして財産を奪われた人、というイメージを持たれることもあったのかも知れません。

 

被後見人は財産管理権がなくなるというのは、悪い人に騙されて財産を奪われるのを防ぐためで、これは合理性があります。というより、後見制度はそもそも、そのようにして財産を失うことを防ぐために設けられた制度です。

たまに、後見人である親族や弁護士自身が、預かっている財産を横領するという事件がありますが、そこは家庭裁判所にきちっと監督してもらうことです。もちろん、そんなことをすれば横領罪で捕まりますし、弁護士の資格も剥奪です。

 

では、被後見人から選挙権まで奪うのはどうか。

選挙権を奪う趣旨は、おそらく、被後見人は知的能力が弱っているからどの候補者が良いか判断できないとか、後見人が被後見人の投票権を悪用しかねないとかいうことでしょう。

そしてもう一つ、禁治産者と呼ばれていたころの偏見もあったのではないかと想像します。

禁治産者という言葉は、明治29年にできた民法に定められました。公職選挙法は昭和25年、戦後の普通選挙制度の開始にあわせて作られたものですが、さすがに今ほどに人権意識も強くなく、禁治産者に対する無理解や偏見から、特に深く考えることもなく選挙権なしとしてしまったのではないでしょうか。

 

あれこれ書いているうちに長くなったので、この問題に対する私の考えは次回に書きます。