離婚相談4(完) 離婚調停

大阪家庭裁判所 調停室にて。

裁判官「では、申立人である妻・エリカさんと、相手方である夫・ツヨシさんの離婚調停について、本日合意が成立した内容を読み上げます。

エリカさんとツヨシさんは本日をもって調停離婚する。ツヨシさんはエリカさんに対し、慰謝料として金100万円、財産分与として金150万円を支払うこととし、本年10月末日までにエリカさんの口座に振り込む。……」

 

家庭裁判所前の歩道にて。

エリカ「先生、どうもありがとうございました。1回の調停で話がついてホッとしました」

山内「意外に早く終わりましたね」

エリカ「慰謝料はちょっと値切られたかな、という気もしますけど」

山内「まあでも、裁判になれば、例のラブホテルの写真を提出して、ドロ沼みたいな話になったでしょうから、その負担を考えると、合理的な範囲の数字だと思います」

エリカ「そうでしょうね。私の友達でも、夫に資産が全くなくて、1円も取れなかったという人もいるんで、それを思うとずいぶん良かったです」

山内「ご主人、いや、もう『元』ご主人ですけど、それなりに真面目に新聞配達の仕事をしておられたんでしょうね。不倫は感心しませんけど」

 

後ろからバイクのエンジン音。

ツヨシ「おーい、エリカ~」

エリカ「あら、ツヨシ」

ツヨシ「先生、エリカとちょっとしゃべっていいかい?」

山内「構いませんよ。どうぞ」

ツヨシ「エリカには迷惑かけたなって、それだけ謝りたくてな。それと、これからがんばれよ」

エリカ「うん。あなたもがんばって新聞配達してね」

ツヨシ「いや、俺はもう新聞配達をやめることにしたよ」

エリカ「え、これからどうするの?」

ツヨシ「友達のツテで、スペインに行くことにしたんだ」

エリカ「スペインで何するの?」

ツヨシ「パエリア屋を開くんだ。『ハイパー・パエリア・クリエイター』になって、いつか日本に凱旋するよ。エリカもさあ、実家に帰るくらいだったら、しばらく俺の家にいてくれていいぜ。じゃあな」

ドドドド…と遠ざかるハーレーのエンジン音。

山内「……」

エリカ「……」

秋の風。

 

山内「スペイン人が日本に来て寿司屋をやるようなもので、到底うまくいくとは思えないんですけどね…」

エリカ「いつもああいう、地に足のつかないことばかり言ってたんです、彼。でももう、私がとやかく言う立場にもないですし…」

山内「スペインに行く前に、きちんと慰謝料を振り込んでくれればいいんですけどね」

エリカ「もし振り込んでくれなかったら、どうなるんですか」

山内「先ほど裁判官が読み上げた調停条項が、後日、調書になります。これは判決と同じ効力を持つので、お金を払ってくれなければ差押え手続ができます。元ご主人は家を持っておられますから、最悪、その家を差し押さえて競売にかけることになるでしょう」

エリカ「そこまで悪い人じゃないと思うんで、信じて待つことにします」

山内「それともう一つ、今日をもって離婚は成立したことになりますが、市役所にはこのことを届け出る必要があります。調停調書はエリカさんのところに郵送されますから、それを役所の窓口に持参してください」

エリカ「わかりました。手続きは以上ですか。他に何かすべきことはありますか」

山内「別に…。これからは新たな人生をお過ごしください。また新たな幸せをつかまれることを、祈っております」

エリカ「ありがとうございました」

 

(了)