阪神・金本、恐喝容疑で告訴 2(完)

金本氏を告訴した告訴状が警察にまだ受理されていないということについて、もう少し書きます。

そもそも一般論として、警察が告訴状を受理せずにつき返すということが認められてよいのか。このことについて、少し条文を参照してみます。


刑事訴訟法242条では、警察が告訴を受けたときは、速やかに関係書類や証拠物を検察に送付しないといけない(要約)、とあります。警察は告訴を「受けたとき」にそうした仕事をしないといけなくなるので、それを避けるために、そもそも告訴を受けないでおく、という態度を取りがちになります。


それでも、犯罪捜査規範63条には、告訴があったら受理しなければならない(要約)と明確に定められています。

犯罪捜査規範とは、国家公安委員会が作った規則です。国家公安委員会とは内閣府に属する機関であり、警察の上部組織のようなものだと理解しておいてください。警察官は犯罪捜査にあたっては、法律と同様に、この規則を順守することが求められます。

ただ、犯罪捜査規範を続けて見てみますと、67条に、告訴があった事件は、特に速やかに捜査を行なうよう努める、とあります。「努める」であって、捜査「しなければならない」わけではありません。努力規定というもので、警察に「努力はしてますけど捜査はまだです」という弁解の余地を与えることになる。

加えて、67条には引き続き、誣告(ぶこく、ウソの申告)や中傷を目的とした虚偽や誇張による告訴ではないか注意しなければならない、とあります。だから「注意して慎重にやってます」と言われれば文句は言えないわけです。

 

これとの対比で、一般的な役所への書類の提出(たとえば、飲食店を開業したいから保健所に許可申請をした場合など)であれば、役所は申請書が到達したら遅滞なく審査を開始しなければならず(行政手続法7条)、役所が何もしてくれなければ、然るべき処理をせよ、と役所を訴えることもできる(行政事件訴訟法37条、37条の2)。

本来、警察も行政(役所)の一部なのですが、刑事事件を扱うという特殊性から、書類の提出を受けたときの扱いがずいぶん違うわけです。


たしかに、警察がすべての告訴に対して直ちに捜査を行なうとなれば、明らかに人手不足になるし、嫌がらせ目的での告訴が行なわれる(たとえば痴漢冤罪事件などで悪用される)可能性があることから、慎重になるのはやむをえないと思います。

今回の金本氏に対する告訴も、警察は、虚偽や誇張による告訴でないか、それを見極めた上で動くことになるのだと思われます。

そういうことで、告訴状の「預かり状態」がしばらく続くのでしょう。